強盗致傷で執行猶予は取れるのか。重い下限からの道筋
2026/08/31
ご家族が強盗致傷で逮捕されると、多くの方が最初に調べるのが「執行猶予は付くのか」という一点です。答えを先に申し上げると、道は極めて細いものの、閉ざされてはいません。この記事では、なぜ細いのかを刑の仕組みから説明し、そのうえで、示談、けがの程度、従属的な立場といった事情が現実にどこまで効くのかを整理します。楽観も悲観もせず、今できることを具体的にお示しします。
まず、下限の高さを正確に知る
時事通信が2026年6月2日に報じた東京都中央区銀座の事件では、路上で2185万円が入った紙袋が奪われ、被害者が約2週間のけがを負ったとして、中国籍の男女3人が強盗致傷の疑いで逮捕されたと伝えられています。起訴・有罪が確定したものではなく、無罪推定が及びます。
この罪名の法定刑は、無期又は拘禁刑6年以上です。一方、刑の全部の執行猶予を付けることができるのは、言い渡される刑が3年以下の拘禁刑等である場合に限られます。つまり、法定刑のままでは執行猶予は制度上あり得ません。下限を下げる作業が先に立つのは、このためです。
酌量減軽で、3年まで下がる
犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、刑を減軽することができるとされています。これが酌量減軽です。減軽されると刑の長期と短期がそれぞれ二分の一になりますので、下限6年は3年になります。3年ちょうどの言渡しであれば、執行猶予を付けることが制度上は可能になります。
ただし、ここで注意が必要です。制度上可能であることと、実際に付くこととは別です。強盗致傷は裁判員裁判の対象であり、市民の感覚を含めた評議によって量刑が決まります。凶器を用いて路上で多額の現金を奪う類型は、社会に与える不安が大きいと評価されやすく、酌量減軽自体が容易ではありません。
法律上の減軽が加われば、さらに下がる
これに対し、法律の規定によって減軽される場合があります。実行行為を助けたにとどまる幇助である場合、精神の障害により是非の判断能力が著しく減退していた場合、捜査機関に発覚する前に自ら申告した自首の場合などです。法律上の減軽と酌量減軽は重ねて行うことができますので、下限は1年6月まで下がります。
共犯事件では、正犯か幇助かの評価が結論を大きく分けます。もっとも、実務上、見張りや運転であっても共同正犯とされることが多く、幇助にとどまるという主張は、関与の実質を示す客観的な資料に支えられて初めて説得力を持ちます。
示談・けがの程度・従属的地位は、どこまで効くか
示談は、依然として最も効果の大きい活動です。被害者が処罰を望まない意思を明示すれば、量刑は動きます。被害額が大きい事件では全額の弁償が難しいことが通例ですが、分割による弁償の合意、母国の家族による支援、可能な範囲の一部弁済でも、被害回復に向けた努力として評価されます。
けがの程度は、結果的加重犯としての罪名を左右しませんが、量刑では重視されます。従属的地位についても同様で、指示を受けて動いていたこと、報酬が少額であったこと、事前の準備に関与していないことは、いずれも有利な事情です。ただし、これらが積み重なっても執行猶予に届くとは限りません。弁護人が到達可能な目標として掲げるのは、多くの場合、実刑の期間を可能な限り短くすることです。その一年の差が、後に述べるとおり在留の帰趨を分けます。
執行猶予と実刑で、在留はどう変わるか
実刑の刑期が1年を超えると、入管法24条4号リの退去強制事由に該当します。全部執行猶予はこの号から明文で除かれていますので、執行猶予判決であれば、この号による退去強制の対象にはなりません。一部執行猶予の場合も、実刑部分が1年以下であれば同様です。
なお、法務省の令和7年版犯罪白書によれば、被告人に通訳を要した通常第一審の科刑状況では、全部執行猶予率は全罪名で85.3%、入管法違反を除くと74.8%です。ただしこれは全ての罪名を合わせた数字であり、強盗致傷のような重い類型の見通しを示すものではありません。統計の母集団を取り違えないでください。
ご家族が今から準備できること
第1に、弁償の原資と送金の手配です。金額の多寡よりも、着手の早さと継続性が評価されます。第2に、情状証人の確保です。日本国内に身元を引き受けられる方がいるか、母国の家族が来日して証言できるかを早めに検討してください。第3に、本人の生活実態を示す資料です。就労先、住居、納税や社会保険の状況、家族の在留資格は、量刑でも入管手続でも用いられます。第4に、通訳の質の確認です。裁判員裁判では、通訳の正確さが事実認定そのものを左右します。弁護人に対して、通訳人の選任や法廷での通訳方式について確認を求めてください。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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