道具を持っていただけで捕まる。金属盗対策法の初適用が示すもの
2026/08/31
何かを盗んだわけではない。まだ何も起きていない。それでも、道具を隠して持っていたことを理由に逮捕される。金属盗の対策として設けられた新しい法律の適用が報じられ、この形の摘発が現実のものになりました。日本で建設、電気工事、解体、金属回収に携わる中国籍の方にとって、これは他人事ではありません。この記事では、報道について確認できている範囲を正直にお示ししたうえで、犯行に使う物の隠匿所持という処罰類型が日本の刑事法の中でどこに位置するのか、そして在留資格にどう関わるのかを説明します。
報道について確認できていること
2025年9月26日の日本経済新聞の報道により、金属盗対策法の初適用として、中国籍の2人がケーブルカッターの隠匿所持で摘発されたと報じられたことが確認できています。ただし、当方で確認できているのは見出しに相当する情報にとどまり、発生した地域、年齢、具体的な経緯、その後の処分については確認できていません。したがって、これらの点については本記事では触れません。また、逮捕や摘発が報じられたにとどまり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。不確かな情報を前提に見通しを語ることは、かえってご本人とご家族の判断を誤らせますので、確認できた範囲だけを述べます。
日本の刑法の原則と、この類型の位置づけ
日本の刑法は、原則として、犯罪の実行に着手して初めて処罰の対象とし、その前段階の準備行為は、特に定めがある場合を除いて処罰しません。窃盗についても、道具を用意した段階では、通常は罪に問われません。この原則に対する例外として、特定の物を、犯行に用いる目的で、正当な理由なく隠して持っていることをとらえる規定が置かれることがあります。金属盗対策法における隠匿所持の類型も、この系譜に位置づけられます。銅線ケーブルなどの被害が深刻化し、実行の瞬間をとらえることが難しいという事情を背景に、より手前の段階で介入できるようにしたものと理解されます。処罰の時点が前倒しになるということは、正当な業務との線引きが問題になるということでもあります。
職業として工具を使う人が、なぜ注意を要するのか
ケーブルカッターや大型のボルトクリッパーは、電気工事、解体、金属回収の現場で日常的に使われる道具です。持っていること自体が悪いわけではありません。問題になるのは、持ち方と状況です。深夜に、業務と無関係な場所で、工具を車内のシートの下や二重底に隠して所持している、といった状況では、正当な理由の説明が求められます。逆に言えば、日ごろから、工具を業務用として管理し、車両に社名を表示し、作業予定表や請負契約書を携行しているといった外形を整えておくことが、そのまま防御になります。これは事業者にとって、従業員を守るための実務でもあります。中国籍の従業員が多い現場では、説明が言語の壁で伝わりにくいことがありますので、就業規則や工具管理の手順を中国語でも用意しておくことをお勧めします。
この罪名が在留資格に持つ特別な意味
ここが最も重要な点です。出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号の2は、別表第一の在留資格をもって在留する外国人について、特定の犯罪により有罪となった場合を退去強制事由としており、その対象に盗難特定金属製物品処分防止法22条が加えられています。つまり、この罪については、一年を超える実刑という一般の基準を待たずに、退去強制の問題が生じ得る仕組みになっています。他方、この事由は別表第一の在留資格の方に限られますので、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者といった別表第二の在留資格の方には及びません。技術・人文知識・国際業務、技能、特定技能、技能実習、留学、経営・管理などの在留資格で建設や金属関係の仕事に関わっている方は、この違いを正確に理解しておく必要があります。
統計から見た4号の2の実像
出入国在留管理庁の出入国管理統計によれば、令和7年に24条4号の2のみを事由として退去強制令書が発付されたのは全国で49人であり、そのうち中国籍は15人でした。他の事由と並立する形も含めれば、これより多くなります。数としては、不法残留を理由とする発付が同年に5,778人であったことと比べれば小さいものですが、注目すべきは中国籍の占める割合です。また、在留外国人統計によれば、令和7年末時点の中国籍の在留者930,428人のうち、およそ半数が別表第一の在留資格であり、この事由の適用対象に入ります。自分がどちらの側にいるのかを知っておくことは、事件が起きてからではなく、今のうちにしておくべき確認です。
摘発されたとき、最初にすべきこと
第1に、所持していた工具の業務上の必要性を示す資料をそろえてください。購入時の領収書、会社の備品台帳、当日および前後の作業予定、請負契約書、現場の入場記録が該当します。第2に、車両の使用状況を説明できるようにしてください。誰の車で、何のために移動していたのかは、正当な理由の中心です。第3に、取調べでは、工具の用途と当日の行動を、時系列に沿って正確に述べる必要があります。曖昧な返答は、隠す目的があったと受け取られかねません。話す前に弁護人と方針を決めてください。第4に、勤務先への連絡です。会社が業務上の必要性を証明できれば、防御は格段に強くなります。接見禁止が付いていても、弁護人との接見は制限されません(刑事訴訟法39条1項)。中国語で正確にやり取りできる弁護人を、早い段階でお付けください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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