盗んだ自転車を海外へ運ぶ。窃盗と盗品等有償譲受けの分かれ目
2026/08/31
同じ一つの事件でも、自転車を実際に持ち去った人と、それを買い取って国外へ送り出した人とでは、問われる罪名が違います。そして、罪名が違えば争点も、証拠も、量刑の考え方も変わります。さらに厄介なのは、共犯者の国籍が異なる場合です。それぞれが別の言語で取調べを受け、別の通訳を介して調書が作られるため、供述の食い違いが生じやすくなります。この記事では、報道された広域窃盗の事案を手がかりに、窃盗と盗品等有償譲受けの分かれ目、そして供述の食い違いへの備えを説明します。
報道されたのはどのような事案か
2024年12月20日、静岡県警の発表に基づく報道によれば、静岡県、愛知県、東京都、埼玉県において、2023年3月から2024年6月にかけて、駐輪場のスポーツタイプ自転車のU字ロックを工具で破壊して車に積み込む手口の窃盗が繰り返され、被害は200台超、総額1300万円超とされています。30代の中国籍の男性2人が窃盗、ベトナム籍の3人が盗品等有償譲受けで摘発され、一部はカンボジアへ船で輸出されたとされ、約280台が押収されたと報じられました。送致段階の報道であり、有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。同じ流れの中にいながら、立場によって罪名が分かれている点にご注目ください。
窃盗と盗品等有償譲受けは、何が違うのか
窃盗は、他人が占有する財物を、その意思に反して自分の支配下に移す行為です。処罰されるのは、被害者から財産を奪ったことそのものです。これに対して盗品等有償譲受けは、すでに他人の財産犯によって奪われた物であることを知りながら、有償で譲り受ける行為を処罰します。ここで守られているのは、被害者が自分の物を取り戻す道筋であり、同時に、盗品が流通する市場を断つことです。両者は保護しようとしている利益が違いますから、争点も違います。窃盗では、誰がいつどこで持ち去ったかが中心になり、盗品等有償譲受けでは、盗品であることを知っていたか、という認識の問題が中心になります。
どちらに振り分けられるかを決める事情
実務で振り分けの決め手になるのは、関与した時点です。窃取される前から、盗んでくることを前提に買い取りを約束していたのであれば、買取側も窃盗の共犯として評価される可能性が出てきます。窃取された後に、初めて持ち込まれた物を買い取ったのであれば、盗品等の罪の領域です。次に、指示関係です。どの車種を、いつ、何台持ってきてほしいという注文があったのであれば、単なる買取ではなく、犯行の計画に組み込まれていたと見られます。第三に、道具や車両、保管場所を誰が用意したかです。運搬用の車両や倉庫を提供していれば、幇助や共同正犯の問題になります。ご本人の感覚では「買っただけ」であっても、事前のやり取りの記録次第で評価は動きます。
国外へ運び出す行為は、どう評価されるか
盗品が国外へ運び出されると、被害者が物を取り戻すことは事実上不可能になります。この点は、被害の回復可能性を奪ったという意味で、量刑上重く見られます。また、輸出の実行には、船便の手配、通関の書類、保管場所の確保といった段取りが必要ですから、その体制が整っていたこと自体が、計画性と継続性の証拠になります。弁護の側からは、ご本人がどの段階まで関与していたのか、輸出の手配を知っていたのか、単に運搬を頼まれただけなのかを、契約書、送金記録、通信履歴で切り分けていくことになります。ここでも、主観の弁解ではなく、記録に基づく切り分けが必要です。
国籍の異なる共犯者と、供述の食い違いへの備え
共犯者の国籍が異なる事件では、それぞれが別の通訳を介して取調べを受けます。同じ出来事を語っていても、通訳の語彙の選び方一つで、指示したのか頼まれたのか、知っていたのか気付いていたのかが、微妙に違う日本語になって記録されます。そして、その調書同士が突き合わされ、食い違いが「どちらかが嘘をついている」証拠として扱われます。備えとして、第1に、自分の説明を、日時と場所と行為を明確にした形で述べることです。曖昧な表現ほど、翻訳の過程で意味が変わります。第2に、調書に署名する前に、読み聞かせの内容が自分の言った内容と一致しているかを確認し、違えば訂正を求めることです。第3に、弁護人との接見で、通訳を介して自分の説明を整理し、記録として残しておくことです。なお法務省の令和6年の統計では、被告人に通訳が必要な通常第一審の終局人員は4,649人で、通訳言語はベトナム語が1,794人と最も多く、中国語は726人で第2位でした(法務省『令和7年版犯罪白書』)。この種の複数国籍事件が、日本の法廷で決して珍しくないことが分かります。
罪名の違いが在留に及ぼす影響
罪名がどちらであっても、実刑が一年を超えれば、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リの退去強制事由に該当します。全部執行猶予が付いた場合は除かれますので、実務上の目標は、まず起訴を回避すること、次に執行猶予の範囲に収めることになります。買取側の事業者の方は、経営・管理などの別表第一の在留資格で在留していることが多く、事業の許可が失われれば在留資格に応じた活動そのものが続けられなくなります。ご家族や関係者にお願いしたいのは、押収品目録の確保、帳簿と取引記録の保存、そして端末やアカウントを絶対に消さないことです。記録を残しておくことが、後で自分の関与の範囲を示す唯一の手がかりになります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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