空き室で荷物を受け取っただけの役に、包括的な共謀を認めさせない
2026/08/31
頼まれて空き室に行き、届いた荷物を受け取って渡しただけだ。ご本人はそう考えていても、捜査機関はしばしば、グループ全体の犯行についての包括的な共謀があったとして立件しようとします。受領した回数が数回であっても、グループが動かした総額が数千万円に及べば、その全体について責任を負わされかねません。この記事では、報道された事案を手がかりに、受け取り役の責任がどこまで及ぶのか、そして初動で関与の範囲をどう限定するのかを、実務の順序に沿って説明します。
報道されたのはどのような事案か
2018年6月5日の神奈川新聞(カナロコ)の報道によれば、他人名義のクレジットカード情報を用いてインターネット通販で商品を購入し、集合住宅の空き室で受け取ったうえ、古物店が買い取って通販サイトに出品していたとされる事件で、中国籍の複数の男性が摘発され、盗品等はおよそ5000点に上るとされています。報道の段階の情報であり、記載された事実について有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。この構造で特徴的なのは、注文する者、受け取る者、買い取る者、出品する者と役割が分かれており、末端の受領役ほど全体像を知らされていないという点です。
受け取り役は、どこまで責任を負うのか
日本の刑事実務では、自分の手で実行行為を行っていなくても、共謀に加わり、その共謀に基づいて他の者が犯罪を実行すれば、共同正犯としての責任を負います。ここで問題になるのは、共謀の範囲です。受領役が「この一個の荷物を受け取る」ことだけを引き受けたのか、「不正に注文された商品を継続的に受け取る仕組みの一端を担う」ことまで引き受けたのかで、責任の広がりが変わります。参考になる判断として、最高裁は、いわゆるだまされたふり作戦が開始された後に受け取り役として加担した者についても、詐欺未遂の承継的共同正犯が成立するとしています(最決平成29年12月11日)。受け取るという行為だけでも重い責任に結び付きうることを示す判断です。だからこそ、引き受けた範囲を客観的に画することが決定的になります。
初動での説明が、範囲を決めてしまう
逮捕直後の取調べで、ご本人が「よく分からないまま手伝っていた」「言われたとおりに動いていた」と述べると、捜査機関はそれを「全体の仕組みを受け入れていた」という意味に読み替えて調書化することがあります。通訳を介した場合、この読み替えはさらに起こりやすくなります。初動で意識すべきは、自分が知らされていなかったことを、知らなかったこととして正確に記録に残すことです。誰から、どのような言葉で、何を頼まれたのか。報酬の約束はどう説明されたのか。他の関与者を知っていたか。これらを、記憶のあるうちに弁護人と整理し、供述するかどうかも含めて方針を決めます。黙秘は権利であり、不利益な推認の根拠とされるべきものではありません。話す場合でも、順序と範囲を定めてから話すのが安全です。
受領回数・報酬・指示内容という三つの物差し
共謀の外延を切る主張は、三つの物差しで組み立てます。第1に、受領回数です。数回にとどまるのか、数十回に及ぶのかで、仕組みへの組み込まれ方の評価が変わります。第2に、報酬です。日当程度の定額なのか、被害額に連動する歩合なのかは、利益の共有関係を示す重要な指標です。歩合であれば全体への関与を推認されやすく、固定額であれば下働きとしての位置づけを主張しやすくなります。第3に、指示内容です。荷物の中身を知らされていたか、配達日時と部屋の鍵をどう渡されたか、断ることができたか、代替の担当者がいたか。指示が細かく限定されているほど、判断の余地がなく、全体の企図を共有していなかったという主張が立ちます。
主観の弁解ではなく、客観証拠で切る
「全体は知らなかった」という説明は、それ自体では弱い主張です。裏付けとなるのは通信の記録です。指示のやり取りに使われたアプリの履歴、送金や現金授受の記録、部屋の賃貸契約や鍵の入手経路、受領時の防犯カメラ映像。これらを時系列に並べると、ご本人が接触していた人物の範囲、知り得た情報の範囲が、外形から浮かび上がります。押収された携帯電話は捜査機関も解析しますから、自分に有利な部分を弁護人が早期に把握しておくことが重要です。なお、端末の初期化やアカウントの削除は、証拠隠滅を疑わせ、勾留と保釈の判断で決定的に不利に働きます。ご家族が良かれと思って端末を処分してしまう例がありますが、絶対に避けてください。
在留への影響と、家族が最初にすべきこと
報道からはご本人の在留資格が分かりません。一般論として、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由とし、全部執行猶予が付いた場合を除いています。共謀の範囲が全体に広がるか、自分の受領分に限定されるかは、被害額の認定を通じて量刑を左右し、実刑と執行猶予の境目に直結します。つまり、共謀の外延を切る作業は、そのまま在留を守る作業でもあります。ご家族には、在留カードと旅券の所在確認、勤務先や学校への説明の段取り、報酬として受け取った金銭の返還や被害弁償の原資の確保をお願いします。法務省の令和6年の統計では、来日外国人の被疑事件の起訴猶予率は48・35%でした(法務省『令和7年版犯罪白書』)。起訴前の弁護活動が意味を持つ余地は、確かに存在します。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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