暴行を否認するとき、防犯カメラのない屋外事件をどう争うか
2026/08/31
映像が残っていない深夜の屋外で、暴力を振るったとされ、本人はそれを否定している。外国人の刑事事件でとくに難しくなるのが、この形です。言葉の壁があるために弁解が正確に記録されず、通訳を介した説明の細かな揺れが、供述の変遷として扱われてしまうことがあります。この記事では、報道された事案を手がかりに、映像のない暴行事件で弁護人が実際に何を検証するのかを、被害者供述の一貫性、負傷の部位と態様の整合、深夜の視認条件、そして実況見分調書への反論という四つの角度から説明します。
報道された事案の骨格
2026年5月17日の福井テレビ・FBC福井放送の報道によれば、福井県内の自動車販売整備店の屋外で、午前3時30分ごろ、50代の中国籍の男性がタイヤホイールを持ち去ろうとして、取り押さえようとした男性を殴ったとして強盗致傷の疑いで逮捕され、暴行を否認していると伝えられています。逮捕段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。屋外、深夜、当事者二人という条件がそろうと、事実認定はほぼ供述に依存します。そのため、供述の信用性をどう検証するかが弁護の中心になります。
被害者供述の一貫性は、どこで崩れるのか
被害者の説明は、通報の電話、臨場した警察官への説明、被害届、供述調書、そして公判での証言と、少なくとも五つの段階を経て記録されます。弁護人はこれらを時系列に並べ、殴られた回数、手か拳か、どちらの手か、どの方向から来たか、その時に自分はどの姿勢だったか、といった要素の変化を丁寧に追います。人の記憶は自然に変わるものですから、細部の食い違いがあること自体は珍しくありません。問題は、変化の方向です。当初は曖昧だった点が、捜査が進むにつれて被疑者に不利な方向へ一貫して具体化していく場合、記憶ではなく捜査の過程が供述を形作った可能性を指摘できます。開示された証拠のうち、通報記録のような最初期の資料が、この検証では最も価値を持ちます。
負傷の部位・態様と、主張された暴行は整合するか
診断書は、被害の存在を示す資料であると同時に、主張された暴行を検証する資料でもあります。右手で顔面を殴られたとされているのに、傷が背部や後頭部にあるのであれば、転倒や引き倒しなど別の機序を疑う余地があります。擦過傷は路面や壁との接触を示すことが多く、打撲は鈍い力を示します。着衣の破れや汚れの位置、双方の手指の状態も、実際に何が起きたのかを語ります。弁護人は、診断書の記載だけで満足せず、受診時の写真、カルテの開示、必要であれば医師への照会を検討します。取り押さえの過程で生じた傷なのか、逃走を阻止しようとする側の力によって生じた傷なのかで、事件の見え方は変わります。
深夜の視認条件という盲点
午前3時台の屋外は、多くの場合、街灯と店舗の常夜灯しかありません。人が誰かを識別し、動作を細かく認識できる明るさかどうかは、供述の前提そのものに関わります。弁護人は、同じ時刻、同じ天候条件で現場を確認し、照明の位置と数、遮蔽物、距離、視線の高さを記録します。眼鏡の使用の有無、飲酒の有無、その人がどの方向を向いていたかも重要です。加えて、周囲の音の状況も検討します。暗く、離れており、短時間で、緊張した状況での認識は、本人が誠実に語っていても誤りを含みうるという知見は、日本の裁判でも受け入れられています。争うべきは被害者の誠実さではなく、認識の条件です。
実況見分調書への反論は、どう作るのか
実況見分調書は、警察官が現場の状況を記録した書面ですが、多くの場合、被害者などの立会人の指示に従って、位置関係が図面に落とし込まれています。つまり、客観的な現場の記録という外見をまとっていても、その中身には立会人の記憶と評価が組み込まれています。反論の第一歩は、図面上のどの記載が測定に基づくもので、どの記載が立会人の指示によるものかを腑分けすることです。第二に、記載された距離や位置関係が、物理的に可能かどうかを検証します。第三に、被疑者本人が立ち会っていない場合には、その視点が反映されていないことを指摘します。必要であれば、弁護人が独自に現場写真と実測図を作成し、証拠として提出します。書面の形式に押されず、根拠まで遡る姿勢が求められます。
否認事件でご家族が支えられること
否認事件では身柄拘束が長引きやすく、ご本人の消耗が最大の敵になります。ご家族にお願いしたいのは、第1に、現場周辺の状況の保全です。近隣の店舗や住宅にカメラがないか、駐車していた車のドライブレコーダーが残っていないかを、弁護人に伝えてください。映像は数日から数週間で消えます。第2に、当日の行動を裏付ける記録の収集です。交通系ICカードの利用履歴、レシート、通話記録は、時間の流れを示します。第3に、生活の維持です。家賃、携帯電話、在留カードの有効期限は、拘束中も進んでいきます。第4に、通訳を介した接見の確保です。接見禁止が付いていても、弁護人との接見は制限されません(刑事訴訟法39条1項)。言い分を正確に日本語で残せるかどうかが、否認事件では結論を左右します。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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