常習性を認定されると量刑が動く。裁判所は何を見て判断するのか
2026/08/31
同じ窃盗でも、常習性を認定されるかどうかで結論はまったく違うものになります。単発の事件として扱われれば執行猶予や不起訴の可能性が残るのに対し、常習と評価されると実刑に向けて重心が移り、外国籍の方の場合はそのまま在留の可否に直結します。この記事では、報道された事案を手がかりに、裁判所と検察官が常習性をどこから読み取っているのか、その四つの着眼点を分解し、弁護人がどのような反証を組み立てるのかを具体的に説明します。
常習性はなぜ量刑を大きく動かすのか
常習性とは、要するに「たまたま一度やってしまった人」ではなく「繰り返す習慣を持つ人」だという評価です。刑事裁判の量刑は、被害の大きさだけでなく、再び同じことをする危険性をどう見るかで決まります。常習と評価されれば、被害弁償をしても、反省文を書いても、再犯の危険は消えていないと判断されやすくなります。さらに、一定の前科が重なる場合には、盗犯等の防止及び処分に関する法律による加重類型(常習累犯窃盗)が問題になることもあり、この類型に乗ってしまうと量刑の出発点そのものが上がります。単発の窃盗として扱われるか常習として扱われるかは、弁護活動における最初の関門です。
報道事案からみる、常習性が疑われる形
2025年9月12日にニュース配信サイトで配信された報道(配信元の媒体名までは確認できていません)によれば、内装工の50代の中国籍の男性が、東京都内の建設現場に作業服姿で立ち入り、約15分物色したうえで電動工具2点を持ち去った疑いで摘発されたとされています。逮捕の報道にとどまり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。この事案が注目されるのは、作業服という道具立て、短時間で目的物にたどり着く行動、持ち出しやすく換金しやすい電動工具という選択が、いずれも「慣れ」を推認させる材料になりうるからです。
第一の着眼点は前科前歴と手口の同一性
捜査機関がまず調べるのは、同種前科・前歴の有無と、その手口が今回とどれだけ似ているかです。前科がなくても、微罪処分や不起訴で終わった前歴、他県での被害届、防犯カメラに残る類似の映像があれば、同一人物の連続犯行として組み立てられます。手口の同一性は、侵入経路、時間帯、対象物、逃走方法といった要素の重なりで判断されます。弁護人としては、まず捜査側が主張する「同一性」の中身を分解し、どの点が本当に一致していて、どの点が一般的な行動にすぎないのかを切り分けます。工事現場に作業服で入ること自体は、その職種の人にとって日常であり、それだけでは手口の特徴になりません。
第二の着眼点は道具の準備と処分先の確保
常習性の推認で最も重みを持つのが、道具と出口です。工具を切断する器具、軍手、大型の袋、車両といった準備が整っていれば、その場の出来心ではないと評価されます。逆に、持ち出したものを売る先や運ぶ先があらかじめ確保されていた場合、犯行の目的が反復的な収益にあったと見られます。日本では、古物商やフリーマーケットアプリの取引履歴、金属回収業者への持込記録、SNSの通信履歴が容易に押収され、時系列で並べられます。ご本人が「一度だけ」と説明しても、換金ルートの存在が先に見つかれば、その説明は維持できません。逆に言えば、換金ルートが存在しないことを客観的に示せれば、常習性の主張は大きく揺らぎます。
常習性を否定する反証は、どう作るのか
反証は主観の弁解ではなく、生活の記録で作ります。第1に、収入と支出の記録です。給与明細、送金記録、家賃の支払状況から、収益目的の反復ではなく一時的な困窮であったことを示します。第2に、行動の記録です。勤務表、現場の入退場記録、交通系ICカードの履歴、携帯電話の位置情報は、他の被害日時に別の場所にいたことを示す材料になります。第3に、道具の来歴です。所持していた工具が本業で日常的に使うものであることを、勤務先の証明や購入記録で裏付けます。第4に、環境の整備です。同居家族や勤務先による監督体制、帰国後の受け皿、就労の継続見込みを具体的に提出します。ここまで積み上げて初めて、常習ではなく単発であるという主張が、量刑の場で意味を持ちます。
在留への影響と、家族が準備すべきこと
常習性の認定は、在留の問題に直結します。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由としており、全部執行猶予が付いた場合は除かれます。つまり、実刑か執行猶予かの境目が、そのまま日本に残れるかどうかの境目になります。出入国在留管理庁の令和7年の統計では、この事由による退去強制令書の発付は全国で41人、他の事由と並立する場合を含めても限られた人数ですが、中国籍の方についてはこの事由の占める割合が他の国籍より高い傾向にあります(出入国管理統計)。ご家族には、勤務の継続を示す資料、同居家族の陳述、被害弁償の原資、在留カードと旅券の所在確認を早い段階でそろえていただきたいところです。常習性を争う材料は、時間が経つほど集めにくくなります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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