網棚のリュックから現金を取り、そのカードで220万円。罪はいくつになるのか
2026/08/31
財布を抜き取り、その中に入っていたクレジットカードで買い物をする。当事者の感覚では「一つの出来事」ですが、日本の刑法はこれを複数の犯罪として組み立てます。しかも、それぞれの犯罪で被害を受けた相手が違います。この記事では、報道された事案を手がかりに、窃盗とカードの不正使用がどう切り分けられるのか、被害者が誰になるのか、示談は誰と進めるのか、そして量刑と在留にどう跳ね返るのかを説明します。
報道された事実
FNNプライムオンライン、日テレNEWS、TBS、NHKが2026年2月26日に伝えたところによれば、空港と都心を結ぶ特急列車の車内で、網棚に置かれたリュックサックから現金約10万円とクレジットカードを盗み、そのカードで高級カメラなど約220万円相当を不正に購入したとして、中国籍の50代の男性が逮捕されました。被害者は40代の中国籍の男性であったと報じられ、男性は否認していると伝えられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。以下は、この類型に一般的に当てはまる法律上の整理です。
なぜ一つの事件で終わらないのか
行為ごとに、侵害された利益が違うからです。第一の行為は、他人の管理する荷物から現金とカードを取り出すことで、これは窃盗として評価されます。第二の行為は、他人名義のカードを店舗で使って商品を受け取ることです。この場合、店舗は正当な名義人が使っていると誤信して商品を引き渡していますから、店舗に対する詐欺として構成されるのが通常です。売上票に名義人の署名をすれば、私文書の偽造とその行使が加わることもあります。インターネットの通信販売のように、人を介さずに機械的な処理で決済が行われた場合には、電子計算機使用詐欺(刑法246条の2)が問題になります。
被害者が同じでも、法益は別である
被害の受け皿は一つではありません。カードを盗まれた名義人は、財布と現金という財産を失った被害者です。他方、商品を引き渡した店舗は、代金を受け取れないという損失を負う被害者です。実際には、カード会社の規約や補償の仕組みによって、最終的な損失を誰が負担するかは事案ごとに異なります。ですから弁護活動では、まず被害の負担が現実にどこに落ちているかを確認します。名義人が全額を補償されていて実損がない場合と、名義人が一部を負担している場合とでは、示談の相手も、示すべき金額も変わります。この確認をせずに一方にだけ弁償しても、他方の被害は残ったままです。
示談は誰と、どの順序で進めるか
実務では、被害者の意向が最も重い相手から順に進めます。財布を盗まれた方は、金銭の損害だけでなく、旅程や仕事に生じた支障、再発行の手間といった負担を負っています。ここでは金額だけでなく、事実経過の説明と謝罪の内容が受け止められるかどうかが結果を分けます。店舗やカード会社に対しては、担当窓口を通じて損害の確定額を確認し、支払の方法を書面で取り決めます。会社が相手の場合、社内の決裁に時間がかかるため、勾留期間を見据えて早く動き出す必要があります。被害者が複数いる事案では、限られた原資をどう配分するかも、あらかじめ決めておくべき事柄です。
量刑にどう跳ね返るか
複数の犯罪が同時に審理される場合、量刑は個々の犯罪を単純に足したものにはなりませんが、被害の総額と行為の広がりは重く評価されます。財布から取った現金の額が10万円程度であっても、カードの利用額が200万円を超えれば、事件全体の被害規模はそちらで決まります。また、盗んだカードをすぐに使うという行為の連続性は、計画性や常習性を推認させる方向に働きやすい事情です。逆に、被害の回復が進んでいること、利用した商品が押収されて返還されていること、生活の困窮など動機に酌むべき事情があることは、有利な方向の材料になります。
在留への影響を見誤らないために
被害総額が大きい財産犯では、実刑判決が現実的な見通しに入ります。入管法24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた場合を退去強制の理由としており、全部執行猶予が付いた場合は除かれます。したがって、実刑か執行猶予かという分岐と、実刑の場合の刑期が1年を超えるかどうかが、在留を左右する具体的な線になります。量刑を争うことは、そのまま在留を争うことでもあります。刑事弁護と入管対応を別々の窓口に分けると、同じ事実を使いながら主張がずれてしまい、双方が弱くなります。早い段階から一体で組み立ててください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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