不起訴になったのに、在留資格の審査で不利になることはあるか
2026/08/31
「不起訴になったのだから、在留資格には影響しないはずだ」。ご相談でよく聞く言葉ですが、正確ではありません。不起訴は前科にならず、退去強制の理由にもなりませんが、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では、逮捕され捜査を受けたという事実そのものが説明を求められる場面があります。この記事では、退去強制事由と、更新・変更の審査で見られる素行の要件が別の物差しであることを整理し、資格ごとに何が起きるのかを具体的に示します。
まず結論から
不起訴となった場合、刑罰は科されず、前科にもなりません。退去強制事由のうち刑罰に着目したものは、有罪判決を前提としていますから、不起訴であれば直接には当たりません。他方で、在留期間の更新や在留資格の変更は、申請すれば当然に認められるものではなく、法務大臣の裁量による判断で、その考慮要素の一つに素行が善良であることが挙げられています。ですから、退去強制にはならないが、更新や変更の場面で不利に働く可能性は残る、というのが正確な理解です。ここを混同すると、対策の方向がずれてしまいます。
退去強制事由という物差し
出入国管理及び難民認定法(入管法)は、退去強制の理由を列挙しています。刑事事件との関係で重要なのは次の三つです。第一に24条4号リで、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた場合が対象ですが、全部執行猶予が付いた場合は除かれます。「執行猶予でも退去強制になる」という説明を見かけますが、正しくありません。第二に24条4号チで、覚醒剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律などの薬物関係の違反です。こちらは有罪判決があれば足り、罰金でも執行猶予でも該当します。第三に24条4号の2で、別表第一の在留資格で在留する方に限って適用される特定の犯罪の類型です。窃盗については、これらのいずれについても、不起訴であれば問題になりません。
更新・変更の審査という別の物差し
在留期間の更新や在留資格の変更では、その在留資格に該当する活動を続けているか、独立の生計を営む見込みがあるか、素行が善良かといった点が総合的に見られます。不起訴でも、逮捕され取調べを受けた経緯は捜査機関に記録として残ります。申請書には過去の処分歴を記載する欄があり、正確に書かなかった場合には、事実を偽った申請と評価される危険があります。むしろ、不起訴処分となった事実を、処分の内容が分かる書面とともに説明したほうが、審査官にとっては判断がしやすくなります。検察庁に請求すれば不起訴処分となったことの通知を受けられますので、これを取得しておくことが実務上の備えになります。
在留資格ごとに何が違うのか
留学の方は、身柄拘束が長引いて出席日数が不足すると、資格そのものの基礎が崩れます。刑事処分より学校の在籍のほうが先に問題になることがあります。技術・人文知識・国際業務の方は、逮捕を理由に退職や内定取消しとなった場合、活動の実体がなくなることが更新の障害になります。経営・管理の方は、事業の継続性や許認可の維持が問われます。家族滞在の方は、扶養者側の在留が揺らげば連動します。永住許可の申請では、素行が善良であることが独立の要件として厳しく見られるため、不起訴であっても申請の時期を検討する必要があります。日本人の配偶者等や永住者、定住者といった別表第二の在留資格の方は、基盤が身分関係にあるため即座に失われる性質のものではありませんが、更新審査で説明を求められる点は同じです。
数字で見ると、刑事事件と退去強制の距離は遠い
出入国管理統計(令和7年)によれば、退去強制令書が発付された総数は7,722人で、その内訳は不法残留が5,778人と大多数を占め、1年を超える実刑を理由とする24条4号リの単独適用は41人にとどまります。薬物関係の24条4号チは86人です。刑事事件になれば即座に強制送還されるという理解は、統計の上では正確ではありません。もっとも、国籍によって様相は異なります。同統計で中国籍の退去強制令書発付は686人で、うち4号リは単独11人と不法残留との並立36人の計47人、比率にして約6.9%です。ベトナム籍の約2.3%と比べると高く、実刑に至る類型では油断できません。
不起訴を得た後にしておくこと
第一に、不起訴処分となったことの通知を取得し、保管します。第二に、押収された旅券や在留カード、携帯電話などの還付を受け、返還の記録を残します。第三に、勤務先や学校に対しては、処分が確定した時点で正確な事実を伝え、在籍や雇用の継続を書面で確認しておきます。第四に、更新申請の時期を早める必要があるかを検討します。身柄拘束の期間中に更新期限が近づいていることがあり、期限を過ぎると別の問題が生じます。第五に、被害者との関係が残っている場合は、示談や弁償の合意書を保存します。これらは、後の更新や変更、そして将来の永住申請の場面で、説明を裏づける材料になります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
----------------------------------------------------------------------