詐欺グループから現金を受け取っただけで、収受罪で検挙されることがある
2026/08/31
「渡された封筒を預かっただけ」「知人から現金を受け取っただけで、自分は誰もだましていない」。そう考えている方が、組織的犯罪処罰法の犯罪収益等収受で検挙されることがあります。詐欺そのものに関わっていなくても、詐欺で得られた金だと知りながら受け取れば、それ自体が独立した罪になるからです。この記事は、収受罪だけで立件された場合に何が争点になるのか、認識はどの事実から認定されるのか、処分の見通しをどう考えるのかを整理します。
公表された事例。現金を受領しただけで検挙された
警察庁犯罪収益移転防止対策室の年次報告書(令和6年版)には、次の事例が掲載されています。同年3月、熊本県において、中国人の男が、特殊詐欺によって得られた現金であることを知りながら、特殊詐欺グループの男からその現金を受領したとして、犯罪収益等収受で検挙されたというものです。ここには、だます役も、被害者から受け取る役も出てきません。出てくるのは、受け取ったという一つの行為だけです。もう一つ、2024年11月6日の神奈川新聞(カナロコ)の報道によれば、中国籍の32歳の男が、他人名義のカードで引き出された現金50万円を情を知って受領したとして、組織的犯罪処罰法違反の疑いで再逮捕されたと報じられています。いずれも起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
収受罪は、隠匿罪より故意のハードルが高い
収受罪は、犯罪収益であることの情を知って、これを受け取る行為を処罰します。条文の要のことばが「情を知って」です。ここでいう情とは、受け取る金が犯罪によって得られたものだという認識を指します。似た規定である犯罪収益等隠匿は、資金の由来を仮装したり隠したりする積極的な操作を対象としますから、行為そのものが不自然さを帯びており、認識も推認しやすい。これに対して収受は、受け取るという日常的な動作しかありません。だからこそ、認識の立証が事件の中心になります。「現金の運搬を頼まれたと思っていた」「知人の売上を預かるつもりだった」という認識にとどまるのであれば、そこは正面から争える領域です。
受領時点の認識は、どの事実から認定されるか
捜査機関は、受け取ったその瞬間に何を分かっていたかを、周辺の事実から組み立てます。第一に、受渡しの態様です。路上や駅の改札付近、深夜の駐車場といった場所、封筒や紙袋のままの多額の現金、数え直しをしない受渡し。第二に、報酬です。単に運ぶだけの作業に対して、時間や労力に見合わない金額が支払われていれば、そこには理由があると考えられます。第三に、連絡の方法です。相手の本名を知らない、消えるメッセージしか使わない、受渡しの直前まで場所が知らされない。第四に、その後の行動です。受領後すぐに別の人物に渡した、口座に入れずに現金のまま保管した。弁護人の仕事は、これらの事実に別の説明が成り立つかを検討し、本人の生活状況、日本語能力、依頼者との従前の関係、報酬の相場に対する感覚を具体的に示すことです。
処分の見通しは、報道ではなく統計から考える
この類型は、逮捕の報道はあっても、判決の続報がほとんど報じられません。したがって「この罪の相場はこうです」という説明を報道から導くことはできません。代わりに、公的統計から全体の傾向を見ます。法務省の令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の終局処理人員は18,696人で、そのうち起訴猶予が7,478人、起訴猶予率は48.35%でした。約半数が起訴猶予、すなわち不起訴で終わっています。また、被告人に通訳の付いた通常第一審の科刑状況では、全部執行猶予率が全罪名で85.3%、入管法違反を除くと74.8%でした。これらは罪名を問わない全体の数字ですから、個別の事件に直接あてはめることはできません。しかし、起訴前の段階でどれだけの資料を検察官に届けられるかが結果を左右するという点は、この統計からはっきり読み取れます。
在留資格への影響
出入国管理及び難民認定法(入管法)が定める退去強制事由のうち、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合の規定は、全部執行猶予が付いた場合を除いています。ですから、不起訴、罰金、執行猶予にとどまれば、直ちに退去強制の対象になるものではありません。ただし、出入国管理統計(令和7年)を見ると、この規定による退去強制令書の発付は単独で41人、不法残留との並立を含めると全体で200人前後にとどまる一方、中国籍については単独11人に並立36人を加えた47人で、中国籍の発付総数686人の約6.9%を占めています。ベトナムの約2.3%と比べて高い比率であり、国籍によって様相が異なります。数字を怖がる必要はありませんが、実刑が1年を超えるかどうかが決定的な境目であることは、しっかり意識してください。
ご家族が最初にすべきこと
受け取った現金が手元に残っているのであれば、使わずに保管し、弁護人に相談してください。費消してしまうと、返還や被害弁償の選択肢が狭まります。次に、依頼の経緯が分かる記録、たとえば最初の勧誘の画面、待ち合わせのやり取り、報酬の受領の跡を保全してください。そして、本人の在留カードと旅券の所在、在留期限を確認します。勾留は原則10日、延長で合計20日ですから、この短い期間に、本人の生活実態と関与の程度を示す資料を集めて検察官に届けることが、起訴されるかどうかの分かれ目になります。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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