盗品と知りつつ金属を買い取ると、二つの罪が同時に立つ
2026/08/31
金属くずの買取店で働いていて、持ち込まれたケーブルを買い取った。相手は常連で、身分証は見せてもらっていない。買値は相場よりかなり安かった。この記事は、そうした場面で盗品等有償譲受けと犯罪収益等収受という二つの罪が同時に問われることがある理由と、「知っていたかどうか」がどの資料から判断されるのか、そして金属に関わる仕事をしている外国籍の方の在留資格に何が起きるのかを、公表された事例をもとに整理します。
公表された事例。買取店の従業員が検挙された
警察庁犯罪収益移転防止対策室の「令和7年版 犯罪収益移転防止に関する年次報告書」には、次の事例が掲載されています。同年4月、茨城県において、金属くず買取店の従業員である中国人の男が、盗品であることを知りながらメタルケーブルを有償で譲り受けたとして、盗品等有償譲受けと、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)で検挙されたというものです。年次報告書の事例は最初から匿名で公表されており、氏名も店舗も特定されていません。ここで注目していただきたいのは、一つの買取行為に対して、性質の異なる二つの罪名が並んで挙げられている点です。
なぜ二つの罪が同時に立つのか
盗品等有償譲受けは、盗まれた物そのものの追跡と回復を妨げる行為を処罰します。守ろうとしているのは、盗まれた被害者が自分の物を取り戻せる状態です。これに対して犯罪収益等収受は、犯罪によって得られた収益が経済活動の中に取り込まれ、その由来が分からなくなっていくことを防ぐための規定です。つまり、前者は物に着目し、後者は資金と経済の流れに着目しています。守ろうとしているものが違うので、一つの買取行為が両方に触れることがあり得るわけです。実務的には、二つの罪名が並ぶことで、事件が単なる財産犯の処理ではなく、組織的な犯罪収益の流れを断つという枠組みの中で扱われることになり、捜査の規模も、身柄拘束の長さも変わってきます。
「知っていた」はどこから認定されるのか
この類型の争点は、ほぼ常に知情、すなわち盗品だと分かっていたかどうかに集約されます。捜査機関が手掛かりにするのは、まず買取記録です。古物や金属くずの取引では、相手方の確認と記録の作成が求められており、その記録が作られていない、あるいは明らかに架空の名前で作られていることは、それ自体が強い間接事実になります。次に価格です。金属の相場は公開されており、買取価格が相場から大きく離れていれば、正常な取引ではないという推認が働きます。さらに、持込みの態様も見られます。深夜や早朝の持込み、切断面が新しく被覆が乱暴にはがされていること、同じ人物が短期間に何度も大量に持ち込むこと。弁護人は、これらの事実の一つ一つについて、その業界で通常あり得る説明が付くかを検討し、記録の不備が知情ではなく管理体制の問題にすぎない場合には、その点を具体的に示していきます。
従業員個人の責任と、店の責任は別に問われる
買取の窓口に立っていたのが従業員であれば、まず責任を問われるのは、その従業員個人です。指示があったかどうか、買取価格を決める裁量があったかどうか、利益が本人に還元されていたかどうかが問われます。他方で、店の側にも取引時の確認と記録の義務があり、体制の不備が明らかになれば、経営者側にも捜査が及ぶことがあります。従業員の立場からすれば、店の運用に従っただけだという主張は自然ですが、その主張を裏づけるには、日々の運用実態を示す資料が必要です。買取伝票、日報、店内の連絡、給与の支払い方法。これらは、本人の関与の程度を正確に示す資料でもあります。
金属に関わる罪は、在留資格の面で扱いが変わった
この分野で見落とせないのが、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号の2の存在です。これは別表第一の在留資格をもって在留する方に限って適用される特定犯罪の類型で、盗難特定金属製物品処分防止法22条の罪が加えられています。留学、技術・人文知識・国際業務、技能実習、特定技能といった別表第一の在留資格の方は、この類型のリスクを負います。他方、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者といった別表第二の在留資格の方には、この号は適用されません。在留外国人統計(令和7年末)によれば、中国籍の在留者930,428人のうち、別表第二と特別永住者を合わせると約47%であり、残る約53%は別表第一です。自分がどちらに属するかで、同じ事件でも入管上の意味が変わります。なお、出入国管理統計(令和7年)では、24条4号の2による退去強制令書の発付は総数49人、うち中国が15人でした。
ご本人とご家族が今日できること
まず、勤務先の買取伝票や日報の写しが手元にあるなら保全してください。捜査で店の資料が押収されると、本人側の手元には何も残らないことがよくあります。次に、被害品が特定されている場合、被害者への弁償や返還の可否を早い段階で検討します。盗品等の事案では、物が戻るかどうかが処分に影響します。そして、在留カードと旅券の所在、在留期限を確認してください。逮捕から72時間以内に勾留請求がなされ、勾留は原則10日、延長で合計20日です。金属の買取という日常の業務の中で起きた事件は、業界の商慣行を裁判所に正確に伝えられるかどうかで見え方が変わります。中国語で細部まで説明できる弁護人に、早い段階で事情を伝えてください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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