二次・三次・四次と口座を移される。末端の名義人はどうなるのか
2026/08/31
「口座を貸しただけ」「一度だけ送金を頼まれた」。そう考えていた方が、ある朝、家宅捜索を受けます。資金洗浄の捜査は、被害者の振込先である一次口座から始まり、二次、三次、四次と枝分かれしていく口座の先へ、順に手を伸ばしていきます。この記事は、その枝の先端に名前が載ってしまった方と、そのご家族に向けて、末端の名義人にどの罪が来るのか、どこで責任の重さが分かれるのかを整理します。
公表された事例。架空法人名義口座と、一般財産との混和
警察庁犯罪収益移転防止対策室の「令和7年版 犯罪収益移転防止に関する年次報告書」には、次の事例が掲載されています。中国人の女らが、被害者にSNS型投資詐欺の被害金を架空法人名義の口座へ振り込ませ、これを一般の財産と混ぜ合わせたうえで、インターネットバンキングを使って二次、三次、四次の口座へ移転・分散させたというもので、犯罪収益等隠匿で検挙されています。ここには、この手口の要点が二つ詰まっています。一つは、個人ではなく法人名義を使うことで、送金の名目を業務上の支払いのように見せられること。もう一つが「混和」です。犯罪収益に、給与や事業収入など無関係な資金を混ぜてしまえば、口座の残高のうちどこまでが被害金なのかが分かりにくくなります。追跡を難しくするこの操作こそが、仮装・隠匿と評価されるわけです。
末端の名義人に来るのは、犯収法違反か、隠匿罪か
結論から言えば、分かれ目は「渡した後の使われ方をどこまで分かっていたか」です。自分名義の預金通帳やキャッシュカードを他人に譲り渡した、あるいは有償で提供したという事実だけであれば、まず犯罪収益移転防止法違反(預貯金通帳等の不正譲渡等)が問題になります。これに対し、その口座を使って被害金を受け入れ、さらに別の口座へ動かす操作に自ら関与した場合には、組織的犯罪処罰法の犯罪収益等隠匿が問題になります。法定刑も、想定される処分も大きく異なります。したがって、取調べで問われているのが「口座を渡したこと」なのか「資金を動かしたこと」なのかを、まず正確に理解する必要があります。
嫌疑不十分の不起訴は、現実に出ている
2026年1月29日にライブドアニュースが掲載した報道によれば、SNS型投資詐欺の現金約8,000万円を複数の口座に移転させたとして、46歳の男を含む中国籍の男性ら5人が組織的犯罪処罰法違反の疑いで逮捕され、そのうち3人が嫌疑不十分で不起訴となりました。この事例が示しているのは、資金移転の外形が記録上明らかであっても、その資金が犯罪によって得られたものだという認識と、他の関与者との共謀が立証できなければ、起訴には至らないということです。口座の履歴は動かせない事実ですが、頭の中の認識は履歴からは直接読み取れません。ここが防御の余地です。
認識はどのように認定されるのか
捜査機関は、通常なら説明のつかない不自然さを積み上げます。報酬が作業量に見合わないほど高いこと、依頼者の身元を知らないこと、連絡が消去型のメッセージアプリに限られていること、短期間に多数回の入出金があること、口座を作った直後に大口の入金があること。弁護人はこれに対し、依頼の経緯、依頼者との従前の関係、本人の日本語や金融知識の程度、報酬の相場観といった事情を具体的に示して、別の理解が成り立つかを検討します。特に来日して間もない方や、日本の銀行実務に不慣れな方の場合、「知人の会社の入金を一時的に預かる」という説明を疑わずに受け入れてしまうことは、決して不自然ではありません。
被害の規模と、統計の読み方
警察庁の「令和6年における組織犯罪の情勢」によれば、令和6年のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は10,164件、被害額は約1,268億円で、いずれも前年から大幅に増加しました。同じ資料では、この類型の検挙は232件・113人で、うち外国人が26人とされています。数字が大きいのは被害の側であり、検挙された人数はそれに比べれば限られています。捜査が下流の口座名義人に及ぶのは、上流の指示者に手が届かないからでもあります。末端の関与者が全体の被害額をそのまま背負わされることのないよう、自己の関与した金額と時期を正確に切り出すことが、弁護人の重要な仕事になります。
在留資格への影響
出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由としますが、全部執行猶予が付いた場合は除かれます。したがって、不起訴や罰金、執行猶予にとどまれば、直ちに退去強制の対象になるわけではありません。もっとも、口座の売買や譲渡は、金融機関との関係では取引の停止につながり、生活と就労の基盤を直接に壊します。また、留学生の方が学業をおろそかにして高額の報酬を得ていたという構図が明らかになると、在留資格の該当性そのものが問われます。刑事の結末だけを見て安心しないでください。
ご家族が最初にすべきこと
本人が使っていた口座の一覧、通帳、キャッシュカードの所在を確認してください。次に、依頼の経緯が分かる資料、たとえば求人の投稿画面、最初のやり取り、報酬の受領記録が残っていれば保全します。消えるメッセージが使われていた場合でも、端末に断片が残っていることがあります。勾留は原則10日、延長で合計20日ですから、この期間に事実関係を整理し、弁護人を通じて説明することが処分の分かれ目になります。中国のご家族から弁償の資金を送る場合には、適法な送金経路を用い、その経路自体が新たな問題を生まないように注意してください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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