不動産・発送代行の会社が実は地下銀行だった。事業の実体があっても罪になるのか
2026/08/31
会社を登記し、事務所を借り、来日した中国の方に部屋を紹介し、発送代行もしている。帳簿も確定申告もある。それなのに、ある日、県外の警察が来て「銀行法違反」だと言われる。この記事は、事業を営みながら日本円と人民元のやり取りも引き受けていた方とご家族に向けて、なぜ会社の実体があっても罪に問われるのか、適法な部分と違法とされる部分をどう切り分けるのかを整理します。
報じられた事例。長崎県警が摘発した夫婦の事案
NBC長崎放送(TBS NEWS DIG)2025年10月7日報道によれば、埼玉県内に居住する中国籍の40代の男女2人(夫婦)が、来日した中国の方に向けて不動産と海外発送代行の会社を経営しながら、無免許で為替取引を行ったとして、長崎県警に銀行法違反の疑いで摘発されたと報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。続報は確認できておらず、処分結果や判決の内容は分かりません。この事例で注目すべきなのは、被疑事実が「会社を装った偽装」ではなく、実際に動いている事業と送金の受託とが同じ会社の中に併存していたと報じられている点です。
いわゆる地下銀行は、現金を運ばなくても成立する
銀行法は、免許を受けない者が業として為替取引を行うことを禁じています。最高裁判所は平成13年3月12日の判決で、為替取引を、隔地者の間で資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することと定義しました。ここで大切なのは、現金を国境を越えて物理的に運ぶ必要がないことです。日本国内で日本円を受け取り、中国国内にいる協力者が人民元を相手に渡し、日中の帳尻を後から相殺する。この形でも、資金を移動する仕組みを利用したと評価されます。送金アプリの残高を動かした場合も同じです。「自分は両替をしただけ」「知人の頼みで立て替えただけ」という感覚と、法律上の評価は大きくずれます。
会社に実体があることは、有利にも不利にも働く
適法な事業が現に存在することは、量刑の場面では有利な材料になります。生活の基盤があり、従業員や取引先がおり、送金の受託だけで生計を立てていたのではないという事情は、更生の見込みを支えます。他方で不利にも働きます。会社があるということは、顧客名簿、請求書、入出金記録、社内のやり取りが残っているということであり、これらは反復継続性、すなわち「業として」行ったという認定の材料になります。事業の実体は、防御の資源であると同時に、証拠の宝庫でもあります。
適法な部分と違法な部分の切り分けが、量刑と没収に効く
ここが実務上、最も差がつくところです。無免許の為替取引で得た手数料は犯罪収益として没収・追徴の対象になり得ますが、不動産仲介や発送代行という適法な事業から得た収入まで、そこに含まれるわけではありません。ところが、一つの口座にすべての入金が混ざっていると、捜査機関側は口座の入金総額を出発点に組み立てようとします。弁護人は、契約書、仲介の媒介契約、発送伝票、請求書、税務申告の内訳を突き合わせ、どの入金がどの取引に対応するのかを一件ずつ復元していきます。この作業は、追徴額を適正な範囲に限定するだけでなく、事業の大部分が適法であったという量刑上の主張を、印象論ではなく数字で示すことにつながります。
弁護人が実際に争う点
第一に、「業として」といえる反復継続性と対価性です。回数、期間、手数料の有無、広告や勧誘の有無が問題になります。第二に、資金の性質の認識です。受け取った日本円が特殊詐欺の被害金であった場合、銀行法違反とは別に、組織的犯罪処罰法の犯罪収益等隠匿や収受が問題になりますが、こちらは犯罪によって得られた金であることの認識が必要であり、無免許送金の故意とは別に立証されなければなりません。第三に、共犯の範囲です。夫婦や同僚のうち、一方が口座や名義を提供したにとどまる場合、その関与の程度は個別に評価されるべきものです。第四に、法律の不知の扱いです。中国国内では友人同士の資金のやり取りが日常的であるため、日本の免許制を知らなかったという方は少なくありません。刑法38条3項は、法律を知らなかったことをもって罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定めますが、同時に情状により刑を減軽することができるとしています。つまり、故意は否定できなくても、量刑の場面では意味を持ちます。
在留資格にどう跳ね返るか
出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リの退去強制事由は、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合であり、全部執行猶予が付いた場合は除かれます。したがって、罰金や執行猶予にとどまれば、直ちに退去強制になるわけではありません。しかし、それで終わりではありません。経営・管理の在留資格は、適法な事業活動を続けていることが資格の中身そのものですから、会社の実態が問われた事案では、次の更新の審査で事業の適法性と継続性を正面から説明しなければなりません。在留資格の取消しの制度(入管法22条の4)も別に存在します。出入国在留管理庁の統計では、令和7年の在留資格取消件数は1,446件で過去最高となり、国籍別では中国が66件でした。刑事の処分と入管の判断は、別の物差しで動いていると考えてください。
ご家族が今日できること
身柄を取られている場合、警察は逮捕から48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求します。勾留は原則10日、延長でさらに10日です。この間にご家族ができることは具体的にあります。在留カードと旅券の所在を確認すること、会社の通帳、帳簿、契約書、発送伝票を散逸させないこと、事務所の家賃や従業員の給与の支払いが止まらないよう手当てすること、そして、勤務先や取引先への説明を、弁護人と相談してから行うことです。携帯電話やパソコンは押収されることが多いので、会計データにご家族が触れられるかも早めに確認してください。地下銀行の事案は、資料の量が防御の質を決めます。
中文版:表面是房地产与转运代购公司,实为地下钱庄:有真实经营也会构成犯罪吗
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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