地下銀行は中国人だけの現象ではありません。統計と報道の読み方
2026/08/31
地下銀行という言葉が報じられるとき、中国籍の方の事件が取り上げられることが多いため、「中国人だけがやっていることなのか」と受け取られがちです。しかし報道を丁寧に見れば、他の国籍の事件も報じられています。この記事では、地下銀行として問題になる行為の中身、報道されている事件の広がり、統計を読むときに必ず必要になる母数の話、そして「日本の法律を知らなかった」という弁解がどう扱われるかを説明します。
地下銀行として問題になるのは、どういう行為か
銀行業の免許を受けずに、業として為替取引を行うことが、銀行法によって禁じられています。最高裁判所は、平成13年3月12日の判決で、為替取引とは、隔地者の間で資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することをいう、と示しました。現金を国境を越えて運ぶのではなく、日本国内で円を受け取り、中国国内で人民元を渡す。このように、両国それぞれの国内で資金を受け渡すだけで、実質的に送金が完結する仕組みが典型です。手数料を取り、反復継続して行っていれば、業として行ったと評価されやすくなります。犯罪による収益が原資である必要はなく、正当な原資であっても銀行法違反は成立します。
報じられているのは中国籍の事件だけではありません
中国籍の方の事件としては、京都新聞、読売新聞、産経新聞が、2026年5月26日、大阪府在住の中国籍の女性が犯罪収益を中国へ送金したとして銀行法違反の疑いで京都府警に逮捕され、日本の法律を知らなかったとして一部を否認していると報じています。また、NBC長崎放送(TBS NEWS DIG)は、2025年10月7日、埼玉県川口市に住み、来日中国人向けの不動産や海外発送代行の会社を経営する中国国籍の男女2人が、銀行法違反の疑いで長崎県警に摘発されたと報じました。他方、2026年6月28日には、埼玉県越谷市のインドネシア国籍の夫婦2人が、送金総額10億円とみられる銀行法違反の疑いで逮捕されたとの報道もあります(この報道については配信元を特定できていないため、媒体名を示すことができません)。いずれも逮捕の段階であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
統計を読むときに必要な、母数の話
警察庁犯罪収益移転防止対策室の令和7年版年次報告書によれば、令和7年中、来日外国人が関与した組織的犯罪処罰法上の資金洗浄事犯は304件で、国籍別では中国が134件(44.1%)、ベトナムが111件(36.5%)でした。この数字だけを見れば中国が最も多いことになりますが、二つの注意が必要です。第一に、母数です。在留外国人統計によれば、令和7年末の在留外国人412万5,395人のうち中国は930,428人(22.6%)で第1位です。人数の多い集団で件数が多くなるのは当然のことで、件数だけでは比較になりません。第二に、定義です。警察庁のいう来日外国人とは、永住者、永住者の配偶者等、特別永住者、在日米軍関係者、在留資格不明者を除いた外国人をいいます。中国籍の在留者のうち約40.8%はこの母集団から外れています。なお、警察庁の令和6年の統計では、来日外国人の総検挙人員1万2,170人のうち中国は2,011人(16.5%)で第2位であり、第1位はベトナムの3,990人(32.8%)です。国籍と犯罪傾向を結びつける読み方は、統計の使い方として誤りです。
「日本の法律を知らなかった」という弁解はどう扱われるか
刑法は、法律を知らなかったことをもって、罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定めています(38条3項)。ただし、情状により刑を減軽することができるとされています。したがって、法律を知らなかったという主張は、故意を否定する主張としては通りにくい一方、量刑の事情としては意味を持ちます。もっとも、争えないわけではありません。銀行法違反で問われるのは、業として為替取引を行うという行為であり、自分が行っていたのは知人同士の立替えの精算にすぎないのか、手数料を取って反復継続していたのか、といった事実の評価そのものは、正面から争うことができます。取引の回数、金額、手数料の有無、広告や勧誘の実態が、その判断材料になります。
在留資格への影響と、ご家族の初動
銀行法違反は入管法24条4号チの薬物関係の罪ではなく、同号の2の特定犯罪にも当たりません。退去強制事由となるかは、無期または1年を超える拘禁刑の実刑(同号リ、全部執行猶予は除かれます)に至るかどうかで決まります。令和7年の出入国管理統計では、退去強制令書の発付7,722人のうち、この号を単独の理由とするものは41人にとどまり、圧倒的多数は不法残留の5,778人でした。ご家族には、弁護人の選任、送金の記録と帳簿の保全、在留カードと旅券の所在確認、在留期間の満了日の把握をお願いしています。事業として行っていた場合には、会社の運営体制と、経営・管理などの在留資格の該当性の維持についても、早い段階で検討が必要です。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------