不正アクセスと相場操縦、二つの罪をまとめて裁かれるとどうなるのか
2026/08/31
一つの事件で二つ以上の罪名が付いたとき、刑はどうなるのか。単純に足し算されるのか。ご家族から必ず受けるご質問です。この記事では、確定裁判を経ていない複数の罪をまとめて裁く場合の考え方、証券口座の乗っ取りと相場操縦が同時に問われた事件を素材にした具体的な検討、特別捜査部が起訴した事件の進み方、そして売却益に対する没収・追徴の問題を説明します。
複数の罪をまとめて裁くとどうなるのか
まだ判決が確定していない複数の罪について同時に裁判をする場合、日本の刑法は、それぞれの罪の刑を単純に合計するのではなく、最も重い罪の刑を基礎として、その上限を一定の範囲で加重したうえで、全体について一つの刑を言い渡すという考え方をとっています。したがって、罪名が二つになったからといって、刑期が単純に二倍になるわけではありません。もっとも、上限が引き上げられることは事実であり、また、複数の罪に及んだこと自体が、行為の広がりを示す事情として量刑の判断に影響します。実務では、どの罪が最も重いのか、加重後の上限がどこにあるのかを確認したうえで、その枠の中でどこに位置づけられる事案かを争うことになります。
なぜこの事件で罪の重なりが問題になるのか
日本経済新聞、読売新聞、FNNは、中国籍の男2人が、乗っ取った10都府県10人の証券口座から一斉の買い注文を出して株価を84円から110円につり上げ、約70万株を売り抜けて約860万円の利益を得たとして、2025年11月28日に逮捕され、同年12月18日の証券取引等監視委員会の告発を経て東京地方検察庁特別捜査部が起訴したと報じました。ここでは、他人の識別符号を無断で使う行為と、市場価格の公正を害する行為という、性質の異なる二つの行為が問題となっています。起訴されたことは有罪を意味せず、被告人には無罪推定が及びます。
特別捜査部が起訴した事件は、どう進むのか
証拠が膨大で争点が複雑な事件では、公判前整理手続に付されることが多くあります。この手続では、検察官が証明しようとする事実と証拠を明らかにし、弁護人が主張と証拠を示し、争点を整理したうえで審理の計画を立てます。証拠開示の請求もこの段階で行われます。準備には数か月から1年以上を要することがあり、その間に期日の間隔が空きます。身柄が拘束されたままであれば、この期間はそのまま拘束期間になりますから、保釈の請求が重要な意味を持ちます。起訴後は保釈を請求できます(刑訴法88条以下)。外国籍の方の場合、住居の確保、身元引受人、旅券の管理、出頭の確保をどう説明するかが鍵になります。
売却益に対する没収・追徴の問題
犯罪によって得られた収益は、被告人の手元に残さないという考え方がとられており、没収や、それが困難な場合の追徴の対象になります。この事件で報じられている約860万円という利益は、その算定の出発点になりうる数字です。もっとも、その金額がそのまま確定するとは限りません。売買にかかった手数料や税、他の資金と混ざった部分、共犯者間の分配の実態によって、実際に被告人が得た利益は変わります。弁護人は、収支の記録を精査し、追徴額の算定の前提を争います。また、被害者への弁償を行った部分については、二重の負担とならないよう調整が問題になります。没収・追徴と被害弁償は別の制度ですが、実際の資金は一つですから、どの順序でどこに充てるかは、早い段階で方針を決める必要があります。
在留資格にどう影響するか
不正アクセス禁止法違反も金融商品取引法違反も、入管法24条4号チの薬物関係の罪ではなく、同号の2の特定犯罪にも当たりません。したがって退去強制事由となるかは、無期または1年を超える拘禁刑の実刑(同号リ、全部執行猶予は除かれます)に至るかどうかで決まります。ここで、加重された結果として刑期が1年を超えるかどうかが、在留の帰趨に直結します。刑事弁護の目標設定として、実刑と執行猶予の分岐だけでなく、実刑となる場合の刑期の長短が持つ意味を、最初から共有しておくべきです。なお在留特別許可は令和7年に1,030人に与えられており、退去強制手続に進んだ後にも争う余地があります。
ご家族が準備できること
公判が長期化する前提で、生活の設計を立ててください。家賃、通信、保険、そして在留期間の満了日の管理が必要です。保釈を請求する場合には、住居、身元引受人、保釈保証金の原資が必要になりますので、原資の出所を説明できる資料を早めに整えてください。会社を経営している場合は、事業の継続体制を決めておくことが、在留資格の該当性の維持にも関わります。差し入れや面会の可否は留置先で確認できます。本人が希望すれば領事機関への通報も可能です(領事関係に関するウィーン条約36条1項)。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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