金地金に偽の刻印を打って売った、95億円の詐欺と資金洗浄
2026/08/31
金の地金をめぐる事件は、密輸、詐欺、資金洗浄が連鎖して立件されることが多く、一つの罪だけを見ていると全体像を見誤ります。この記事では、報じられた事件を出発点に、なぜこの分野で罪が連鎖するのか、関税に関する事件の処分の傾向、弁護人が実際に争う点、そして在留資格への影響を説明します。ご家族が最初に確認すべきことも最後に整理します。
最初に、報道の確認レベルを断っておきます
日本経済新聞とFNNは、2025年11月13日、密輸した金の地金に偽造した刻印を付し、正規に輸入された品であるかのように装って売却し、計95億円をだまし取った疑いで、中国籍の8人が捜査対象となったと報じました。得た資金の一部が暗号資産に替えられたとも報じられています。当事務所が確認できているのは見出しの範囲にとどまり、逮捕された各人の年代、居住地、それぞれの役割は分かりません。したがってこの記事では、それらの点には触れません。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。以下は制度の解説が中心です。
なぜ金地金の事件は密輸・詐欺・洗浄の連鎖になるのか
金の地金は、単価が高く、形を変えても価値が保たれ、国境を越えて容易に運べます。日本に輸入する際には税関の手続が必要であり、正規の手続を経ずに持ち込めば関税に関する法令に触れます。次に、密輸された地金は、そのままでは正規の流通ルートに乗せにくいため、製錬業者の刻印など、正規品であることを示す表示が必要になります。ここで偽の刻印を付して買取業者に売却すれば、買主をだましたことになり、詐欺の問題が生じます。そして、売却によって得られた代金は犯罪による収益となり、これを口座を転々とさせたり、暗号資産に替えたりすれば、犯罪収益等隠匿の問題になります。一連の行為が別々の罪として重なる構造です。
関税に関する事件の処分の傾向
法務省の令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の関税法違反について、来日外国人の起訴率は76.21%で、全体の66.92%を上回っています。同年の来日外国人被疑事件全体の起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%ですから、関税に関する事件は相対的に公判請求されやすい類型だといえます。もっとも、これは終局処理の統計であって、個々の事件の見通しを示すものではありません。密輸の関与の程度、反復性、組織性、そして被害弁償の有無によって、処分は大きく変わります。数字を、あきらめる理由にも、楽観する理由にも使うべきではありません。
弁護人が実際に争う点
第一に、刻印の偽造への関与と認識です。運搬や売却だけを担当した者が、刻印が偽造であることを知っていたかどうかは、別に立証されなければなりません。第二に、詐欺の欺罔行為の特定です。買取業者に対してどのような説明がされ、買主が何を誤信したのかが具体的に示される必要があります。第三に、金額の帰属です。報じられる総額は取引全体の額であり、個々の被疑者が関与した取引の額や、受け取った報酬とは一致しません。第四に、共犯の範囲です。運搬役、売却役、資金管理役といった役割ごとに、どこまでの合意があったのかを切り分けます。第五に、通訳を介した取調べの正確性です。専門的な取引の話は誤訳が生じやすく、録音録画の確認が重要になります。
在留資格にどう影響するか
関税に関する罪も、詐欺も、犯罪収益等隠匿も、入管法24条4号チが列挙する薬物関係の罪ではありません。また同号の2の特定犯罪にも当たりません。したがって、退去強制事由となるかどうかは、無期または1年を超える拘禁刑の実刑となるか(同号リ、全部執行猶予は除かれます)で決まります。令和7年の出入国管理統計によれば、この号を単独の理由とする退去強制令書の発付は全国で41人(うち中国籍11人)でしたが、中国籍については不法残留との並立を含めると686人中47人(6.9%)に上ります。実刑が見込まれる事件では、刑事の段階から、家族関係、在日期間、納税や社会保険の状況を裏づける資料を集めておくことが、後の手続で意味を持ちます。
ご家族が最初に確認すること
まず、本人が留置されている警察署、接見等禁止の有無、担当の検察庁を確認してください。事業として金の売買に関わっていた場合には、会社の帳簿、取引先との契約書、輸入に関する書類が捜索により押収されている可能性があります。押収された物の目録は交付されますので、保管しておいてください。事業の継続が難しくなると、経営・管理その他の在留資格の該当性にも影響します。従業員の給与、取引先への支払、事務所の賃料といった事項について、誰が対応するかを早期に決めておく必要があります。弁護人の選任と並行して、在留カードと旅券の所在、在留期間の満了日を確認してください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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