口座間を28億5000万円が動き、うち8000万円が現金化された事件
2026/08/31
報道で「口座間の資金移動は約28億5000万円」と書かれた事件について、ご家族から「本当にそんな金額を弁償しなければならないのか」というご相談を受けます。結論から申し上げると、報じられる資金移動の総額と、本人が刑事責任を問われる金額は、別の数字です。この記事では、その二つがなぜずれるのか、弁護人は何をもってその範囲を絞るのか、そして暗号資産が介在する事件で何が争点になるのかを説明します。
報じられた事件の概要
朝日新聞は、2026年1月9日、東京都と愛知県で、日本籍と中国籍を含む男性6人が、2025年1月から2月にかけて特殊詐欺などの被害金を暗号資産に交換し、複数の口座を転々とさせたうえ、うち約8000万円を現金化したとして、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)の疑いで逮捕されたと報じました。報道によれば、関係する口座の間で動いた資金は約28億5000万円に上るとされています。逮捕の段階であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。続報は確認できていません。
28億5000万円と8000万円は、同じ意味の数字ではありません
口座間の資金移動の総額は、同じ資金が複数の口座を通過するたびに加算されます。一つの100万円がAからB、BからC、CからDへ動けば、移動の総額は300万円になりますが、実際に存在した被害金は100万円です。暗号資産への交換と払い戻しが繰り返されれば、この重複はさらに膨らみます。加えて、その口座には犯罪と無関係の資金が混ざっていることもあります。報道される総額は、捜査機関が資金の流れの全体像を示すために用いる数字であって、被害額でも、被疑者が取得した額でもありません。現金化されたとされる約8000万円も、それがそのまま特定の被疑者に帰属するわけではありません。
訴因で絞るとは、どういうことか
刑事裁判で判断の対象になるのは、起訴状に書かれた具体的な事実、すなわち訴因です。いつ、どの口座から、いくらを、どのような方法で動かしたのか。検察官はこれを特定して起訴し、裁判所はその範囲について有罪か無罪かを判断します。したがって弁護人は、まず起訴された事実の範囲を確定させ、そこに含まれない資金の流れが、あたかも本人の行為であるかのように量刑の場に持ち込まれることに、明確に反論します。捜査段階でも同じことが問題になります。取調べで全体像を前提とした質問が続くと、本人が自分の関与していない部分まで認める形の調書ができてしまうことがあるからです。
弁護人が確認する客観的な資料
この類型では、供述より記録が物を言います。具体的には、各口座の入出金明細、名義人と開設の経緯、キャッシュカードと通帳の管理者、インターネットバンキングにログインした端末とIPの記録、暗号資産取引所の口座開設時の本人確認資料と取引履歴、現金の引出しが行われた場所の防犯カメラ、そして指示のやり取りが残る通信アプリの履歴です。これらを突き合わせると、本人が実際に操作した範囲、本人が知りえた情報の範囲、報酬として受け取った額が浮かび上がります。全体で28億5000万円が動いていたとしても、本人が関与したのはそのうちの限られた部分にすぎない、という主張は、こうした資料によって初めて具体性を持ちます。
没収・追徴と被害弁償の関係
犯罪収益は、被告人の手元に残さないという考え方がとられており、没収や追徴の対象になります。他方、被害者への返還や弁償は、被害回復として量刑上考慮されます。本人が受け取った報酬の額を正確に把握し、その返還と被害弁償の原資をどう確保するかは、早い段階で検討すべき事柄です。資金を中国のご家族から送ってもらう場合には、原資と目的を説明できる資料を用意しておくことが大切です。金額の大きさに圧倒されて何もしないままでいると、被害回復に向けた行動が一切示されないまま判決を迎えることになります。
在留資格への影響と、ご家族の初動
この罪は入管法24条4号チの薬物関係にも同号の2の特定犯罪にも当たらず、退去強制事由となるかは、無期または1年を超える拘禁刑の実刑となるか(同号リ、全部執行猶予は除かれます)で決まります。令和7年の出入国管理統計では、この号を単独の理由とする発付は全国で41人(うち中国籍11人)でした。ただし中国籍については、不法残留との並立を含めると686人中47人(6.9%)に上ります。ご家族には、弁護人の選任、在留カードと旅券の所在確認、在留期間満了日の把握、そして本人名義の口座がどのように使われていたのかの整理をお願いしています。
中文版:账户之间流动二十八点五亿日元,其中八千万被提现的案件
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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