前提犯罪がアメリカで起きた詐欺でも、日本で洗浄すれば罪に問われます
2026/08/31
この記事は、日本国内での資金の移動について、その元手が外国で起きた詐欺の被害金だとされ、資金洗浄の疑いをかけられた方とそのご家族に向けたものです。「詐欺をしたのは日本ではないのだから、日本の裁判所は関係ないのではないか」というご質問を受けることがあります。答えは、関係があります。なぜそうなるのか、そして検察官が何を立証しなければならないのかを、報じられた事件を手掛かりに説明します。
報じられた事件の概要
産経新聞ほかは、2026年7月2日、アメリカで発生した詐欺の被害金を日本国内で洗浄したとして、中国籍の男女が組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)の疑いで逮捕されたと報じました。報道によれば、捜査機関は2億円以上が洗浄されたとみているとされています。なお、逮捕された人数については、媒体によって7人と5人という食い違いがみられます。いずれも逮捕の段階であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。以下は、この報道を出発点とした制度の解説です。
なぜ国外で起きた詐欺の被害金でも、日本で罪になるのか
資金洗浄の罪は、それ自体が独立した犯罪です。処罰されるのは、犯罪によって得られた収益について、その出所や帰属を分からなくする行為であって、元になった犯罪(前提犯罪)を自分が実行したかどうかは要件ではありません。そして、隠匿という行為が日本国内で行われている以上、日本の刑罰法規が適用されます。前提犯罪が国外で行われた場合について、日本の法制度は、その行為が日本の法令で罪に当たると同時に、行われた地の法令でも罪に当たること、いわゆる双罰性を要求する構造をとっています。詐欺は多くの国で犯罪とされていますから、この要件自体は満たされやすい一方、それを裁判で立証するには外国法の内容と適用を資料で示す必要があります。ここが実務上の最初の攻防点になります。
検察官は何を立証しなければならないのか
立証の対象は、少なくとも四つあります。第一に、前提犯罪が現に存在し、その内容が犯罪に当たること。第二に、日本国内で動いた資金が、その犯罪から生じた収益であること、すなわち資金のつながりです。第三に、隠す、装う、名義を変えるといった隠匿の行為があったこと。第四に、被疑者にその認識があったことです。第四の点について、被疑者が前提犯罪の詳細(誰がどこで誰をだましたのか)まで知っている必要はないと考えられていますが、それでも、扱っている金が何らかの犯罪によって得られたものだという認識は必要です。単に高い報酬で送金作業を頼まれたというだけで、この認識が当然に認められるわけではありません。
弁護人はどこを争うのか
第一に、外国の捜査機関から提供された資料の扱いです。被害届、被害者の陳述、口座記録といった資料が、国際捜査共助を通じて日本の捜査機関に届いている場合、その翻訳が正確か、原本が開示されているか、作成の経緯が分かるかを確認します。第二に、双罰性の疎明です。当該国の法令のどの規定に当たるのかが具体的に示されているかを検討します。第三に、資金のつながりです。国境をまたぐ送金や暗号資産への交換を経ると、資金は途中で他の資金と混ざります。混ざった後の金額のどこまでを犯罪収益と評価できるのかは、当然には決まりません。第四に、認識です。指示の受け方、報酬の多寡、業務の秘匿性といった事情から、どこまでの認識が推認できるのかを、丁寧に切り分けていきます。
在留資格にどう影響するか
この類型の罪は、入管法24条4号チの薬物関係にも、同号の2の特定犯罪にも当たりません。したがって退去強制事由になるかどうかは、無期または1年を超える拘禁刑の実刑となるか(同号リ、全部執行猶予は除かれます)で決まります。令和7年の出入国管理統計では、この号を単独の理由とする退去強制令書の発付は全国で41人でした。もっとも、多額の資金が動いたとされる事件では実刑の可能性が現実にありますので、刑事の段階から、家族関係、在日期間、就労状況、納税や社会保険の履行状況といった、後の在留特別許可の判断で考慮される事情を裏づける資料を集めておくことをお勧めしています。入管法は、在留特別許可の判断において考慮すべき事情を法律上明示しています(50条5項)。
ご家族が最初にすべきこと
まず、本人がどの警察署に留置されているか、接見等禁止が付いているかを確認してください。国際的な事件では捜査が長期化しやすく、勾留は原則10日、延長を含めて最大20日という枠の中で、再逮捕によって身柄拘束が繰り返されることがあります。長期戦を前提に、生活費、家賃、在留期間の満了日、勤務先への説明の段取りを組み立てる必要があります。本人が希望すれば領事機関への通報も可能です(領事関係に関するウィーン条約36条1項)。そして、報道の数字に引きずられないことです。捜査機関がみているとされる総額と、実際に本人が起訴される事実の範囲は、しばしば大きく異なります。
中文版:前提犯罪发生在美国的诈骗,只要在日本洗钱同样构成犯罪
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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