4人が同時に逮捕された資金洗浄事件で、役割はどう切り分けられるのか
2026/08/31
この記事は、資金洗浄(マネーロンダリング)の疑いで複数人が同時に逮捕された事件について、ご家族から「うちの子はただ言われたとおり口座を渡しただけだと言っている」というご相談を受けたときに、まずお読みいただきたい内容をまとめたものです。同時逮捕の事件では、誰がどこまで関わったのかという役割の切り分けが処分を決めます。そしてその切り分けは、共犯者の供述によって大きく揺れます。備え方を具体的に説明します。
報道から分かること、分からないこと
時事通信は、2026年1月23日、東京都内で、特殊詐欺の被害金を資金洗浄したとして中国籍の男4人が逮捕されたと報じました。当事務所が確認できているのはこの見出しの範囲であり、金額、年代、具体的な手口、その後の処分は分かりません。したがってこの記事では、それらの点には触れません。逮捕は起訴でも有罪でもなく、被疑者には無罪推定が及びます。報道の一行から事件の全体像を推測して不安を膨らませるより、制度としてどのような罪が問われうるのか、そこで何が争えるのかを知っていただくほうが、はるかに役に立ちます。
資金洗浄事件で問われる罪は一つではない
報道では一括して資金洗浄と呼ばれますが、実際に適用されうる罪は複数あり、要件が違います。第一に、犯罪収益の取得や処分について事実を仮装したり、収益を隠したりする隠匿の罪。第二に、犯罪収益であることを知りながら受け取る収受の罪で、こちらは「情を知って」受領したことが要件であり、隠匿より故意のハードルが高いといえます。第三に、預貯金通帳やキャッシュカードを他人に譲り渡す行為を処罰する犯罪収益移転防止法違反です。警察庁犯罪収益移転防止対策室の令和7年版年次報告書によれば、令和7年中、来日外国人が関与した組織的犯罪処罰法上の資金洗浄事犯は304件(隠匿237件、収受67件)で全体の17.1%、犯罪収益移転防止法違反の検挙は4,699件でした。同じ「洗浄」という言葉でも、どの罪で立件されているかによって、争うべき点はまったく違います。
4人が同時に逮捕されたとき、捜査機関は何をするか
共犯事件では、被疑者は別々の警察署に分けて留置され、接見等禁止が付されることが通例です。ご家族が面会できず、手紙も届かない状態が続きます。捜査機関はその状態で各人の取調べを進め、供述を突き合わせます。ここで生じるのが、いわゆる引き込みの危険です。自分の関与を軽く見せようとする者が、他の共犯者の役割を実際より重く述べる。上位者の指示を知る立場になかった者が、雰囲気で「たぶん知っていたと思う」と述べてしまう。通訳を介した取調べでは、本人の微妙な言い回しが日本語の調書に置き換わる過程で、断定的な表現に変わってしまうこともあります。逮捕直後の数日でつくられた調書は、後から訂正するのが極めて難しいのが実情です。
供述の食い違いに、どう備えるのか
備え方の中心は、客観的な資料に事実を固定していくことです。口座の入出金記録、送金の指示が届いた通信アプリの履歴、端末の位置情報、報酬の受領状況といった資料は、供述と違って後から動きません。弁護人はこれらを手掛かりに、本人が知りえた情報の範囲を具体的に示します。あわせて、取調べの録音録画の有無を早期に確認し、通訳人の氏名と通訳の方法を記録しておきます。本人には、分からないことを分からないと述べる、記憶にないことに同意しない、署名の前に必ず読み聞かせと通訳を求める、という三点を伝えることが重要です。黙秘は不利になるのではないかというご質問をよく受けますが、黙秘は法律で認められた権利であり、その行使自体を理由に刑を重くすることは許されません。もっとも、実際にどう対応するかは事案ごとの判断であり、接見した弁護人と相談して決めるべき事柄です。
嫌疑不十分で不起訴となった実例があります
2026年1月29日にライブドアニュースに掲載された報道(配信元は確認できていません)によれば、SNS型投資詐欺の現金約8000万円を複数の口座に移転したとして中国籍の男性ら5人が逮捕された事件で、うち3人が嫌疑不十分で不起訴となりました。資金が動いた外形が記録に残っていても、それが犯罪による収益だという認識と、他の関与者との共謀が立証できなければ、起訴には至らないということです。法務省の令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴猶予率は48.35%でした。起訴前の段階で主張と資料を出し切ることには、現実的な意味があります。
在留資格への影響と、ご家族の初動
資金洗浄の罪は、入管法24条4号チが定める薬物関係の罪には当たりません。したがって、直ちに退去強制事由となるのは、無期または1年を超える拘禁刑の実刑となった場合(同号リ、全部執行猶予は除かれます)です。不起訴や罰金であれば退去強制事由には当たりませんが、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では素行が考慮されますので、刑事処分の内容を書面で残しておくことが後々効いてきます。ご家族には、弁護人の選任、在留カードと旅券の所在確認、在留期間満了日の把握、勤務先や学校への説明の時期の検討、そして本人名義の口座がどのように使われたのかを家庭内で把握しておくことをお願いしています。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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