連絡を取り次いだだけの人は、詐欺の共犯になるのか
2026/08/31
海外の拠点で、日本語を話す人に指示を伝えるだけの仕事だった。自分は誰もだましていない。そう考えている方は少なくありません。しかし日本の刑事手続では、伝達に関与した人が共同正犯として起訴されることがあります。この記事は、連絡役として関与を疑われた中国籍の方とご家族に向けて、単なる伝達と、裁量を伴う関与とがどこで分かれるのか、何をもって従属的な立場を示すのかを説明します。
報じられている範囲
読売新聞の報道によれば、カンボジアに拠点を置く特殊詐欺のグループにおいて、中国籍の者が、日本人のかけ子に対する指示の伝達に関わっていたとされています。当方が確認できたのは見出しの範囲にとどまり、報道日は確認できていません。関与が疑われていると報じられているにとどまり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。報道からは、その方の在留資格も、現地での立場も分かりません。以下は、この類型に共通する法律論と実務です。
海外にいても日本の刑事裁判権は及ぶ
まず前提を確認します。詐欺の被害者が日本国内にいて、国内で財産が交付された以上、その犯行は日本国内の犯罪として扱われます。実行行為の一部が国外で行われていても、日本の刑事裁判権が及びます。また、刑事訴訟法255条1項は、犯人が国外にいる間は公訴時効が停止すると定めています。したがって、帰国して日本を離れていても、時の経過によって責任がなくなるわけではありません。警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢」によれば、令和6年に海外拠点に関する特殊詐欺事件等で検挙された被疑者は16件・合計50人で、国名別ではカンボジアが7件・計27人と最多です。
伝達と裁量の分かれ目
共同正犯となるか、幇助にとどまるかは、その人が犯行を自分のものとして遂行したといえるかで決まります。伝達役の場合、次の点が分かれ目になります。第一に、指示の内容を変更する権限があったか。届いた指示をそのまま流していたのか、状況に応じて自分の判断で言い方や段取りを変えていたのか。第二に、かけ子に対して、やり方を教え、成果を管理し、あるいは叱責する立場にあったか。第三に、報酬の体系です。固定給であったのか、被害額に連動する歩合であったのか。歩合であれば、犯行の成果に利害を有していたことになります。第四に、離脱の可否です。辞めたいと言えたのか、言えばどうなる状況だったのか。
自分自身が支配下にあった可能性
海外拠点の事案では、伝達役自身が現地で自由を失っていることがあります。旅券を取り上げられていた、宿舎から出られなかった、監視されていた、報酬を天引きされ借金として管理されていた、家族に危害を加えると告げられていた、といった事情です。これらは、共犯性の判断でも量刑でも重要な事情ですが、供述だけでは動きません。現地でのやり取りの記録、送金の記録、同じ拠点にいた人の話、出入国の記録、宿舎の状況を示すものを、可能な限り集めます。日本語能力を要する架電の役割は日本語話者が担い、中国籍の方は資金の回収や連絡の側に配置されるという役割分担が報道から読み取れますが、その配置自体が本人の選択であったとは限りません。組織の中でどこに置かれたかと、どれだけ支配していたかは別の問題です。
在留資格と再入国への影響
詐欺で無期又は1年を超える拘禁刑の実刑となれば、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リの退去強制事由に当たります。全部執行猶予は除外されています。退去強制によって送還された場合、上陸拒否期間は、前歴がなければ5年、前歴があれば10年です。他方、出国命令によって出国した場合は原則として1年です。日本に家族や生活の基盤がある方にとって、この差は決定的です。したがって、刑事手続の段階から、実刑を避けられるか、避けられない場合でも刑期をどこに収められるかを見据えて防御を組み立てる必要があります。令和7年の出入国管理統計では、退去強制令書の発付は総数7,722人、そのうち中国籍は686人で、4号リは単独11人に並立36人を加えて47人です。
ご家族が今日できること
現地でのやり取りの記録、送金や報酬の受領記録、渡航の経緯が分かる資料、募集に応じたときの求人の文面を、消さずに保全してください。旅券が本人の手元にあるかどうかも確認します。旅券を第三者に預けていた事実は、支配関係を示す重要な材料です。次に、在留カードの所在を確認し、弁護人を通じて差し入れを手配します。接見禁止が付いていても弁護人との接見は制限されません。本人が要請すれば、領事関係に関するウィーン条約36条1項に基づき領事機関への通報が行われます。同じ拠点にいた知人と連絡を取り合うことは、口裏合わせと受け取られるおそれがありますので、弁護人に相談してから行ってください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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