本人が黙秘していても、ご家族が被害弁償と示談を進めることはできる
2026/08/31
取調べで何も話していない、面会もできない、本人が何を考えているのか分からない。そういう状態でご家族が「では自分たちは何もできないのか」と立ち止まってしまうことがあります。実際には、本人が黙秘を続けていても、被害弁償と示談交渉に着手する道は開かれています。この記事は、身柄を拘束された中国籍の方のご家族に向けて、その進め方と、注意しなければならない点を説明します。
報じられている範囲
新潟ニュースNSTの報道によれば、新潟県において、中国籍の男性が、70代の男性から150万円をだまし取ったとして詐欺の疑いで逮捕されたとされ、受け子とみられると報じられています。県外に住む被害者の息子からの通報が端緒になったことも伝えられています。当方が確認できたのは見出しの範囲にとどまり、報道日は確認できていません。詐欺の疑いで逮捕されたと報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。ここで注目したいのは、被害者側でも別居のご家族が動いて事件が明らかになったという構図です。加害者側でも、家族が動ける場面は同じようにあります。
黙秘と弁償は矛盾しない
供述を拒むことは、捜査機関に対して自分の言葉を渡さないという選択です。他方、被害弁償は、被害者に対して現実の回復を提供する行為です。相手も目的も違いますから、両立します。実務でも、事実関係については一切述べないまま、弁護人を通じて弁償を申し入れ、示談を成立させる事案は珍しくありません。むしろ、事実を争う方針をとる場合ほど、弁償の申出をどう位置づけるかを丁寧に設計する必要があります。
本人の同意はどう取るか
弁償と示談は、本人の名義で行うものですから、本人の同意が要ります。接見禁止が付いていても、弁護人との接見は制限されません。弁護人が接見して、弁償を申し入れてよいか、金額の上限はいくらか、原資は誰が出すのか、示談書に署名する意思があるかを確認します。ここで大切なのは、同意を包括的に取ったつもりにしないことです。示談書の文言が固まった段階で、もう一度本人に読んでもらい、その内容で署名する意思を確認します。ご家族が本人に代わって示談書に署名することは、原則としてできません。
示談書の書き方が公判に影響する
黙秘の方針をとっている事案で最も注意すべきなのが、示談書の文言です。示談書に「被告人が○月○日に被害者から150万円をだまし取ったことにつき」と事実を確定的に書けば、それは事実上の自白として証拠に使われかねません。事実を争っている場合には、争点に踏み込まない書き方、たとえば「本件被疑事実に関し、被害者に生じた損害を填補するため」といった形で、金銭の趣旨を限定します。逆に、事実を認めて量刑を争う方針であれば、被害者の宥恕の意思、すなわち処罰を求めないという意思を明記してもらうことに大きな意味があります。清算条項、口外禁止条項、被害届の取扱いをどうするかも、方針によって異なります。この設計は弁護人の仕事であり、ご家族が独自に被害者と接触して合意書を交わすことは避けてください。
ご家族が用意するもの
第一に、弁償の原資です。金額と、いつ用意できるかを弁護人に伝えてください。母国から送金する場合は、資金の出所を説明する資料と、送金にかかる日数の確認が要ります。第二に、身元引受書です。誰が、どこで、どのように本人の生活を支えるのかを具体的に書きます。引受人の在留資格、住所、収入が分かる資料を添えます。第三に、本人の生活状況を示す資料です。就労先、家賃の支払、家族構成、来日の経緯といったものは、量刑でも入管手続でも使います。第四に、ご家族自身の嘆願書です。中国語で書いて翻訳を添えれば足ります。
在留資格への影響
詐欺で無期又は1年を超える拘禁刑の実刑となれば、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リの退去強制事由に当たります。全部執行猶予は除外されています。示談の成立は、不起訴や執行猶予の可能性を高める方向に働き、その結果として在留にも影響します。さらに、仮に退去強制の手続に進んだ場合でも、被害弁償の記録、身元引受書、家族の陳述は、在留特別許可を求める場面でそのまま資料になります。令和7年の出入国管理統計では、在留特別許可は合計1,030人に付与されています。刑事段階で作った資料を捨てずに残しておくことが、後から効いてきます。
やってはいけないこと
被害者やそのご家族に、こちらから直接連絡を取ろうとすることは避けてください。証拠隠滅や被害者への働きかけと受け取られ、勾留が続く理由になったり、示談そのものが不可能になったりします。共犯者やその家族と連絡を取り合うことも同じです。また、本人の携帯電話やSNSのデータを消すこともしないでください。防御に使える記録まで失われます。ご家族の役割は、資料を集め、原資を整え、弁護人を通じて意思を伝えることです。この三つに集中していただくのが、結果として最も本人のためになります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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