被害者は高齢者とは限らない。40代男性から150万円という事件の示談設計
2026/08/31
特殊詐欺と聞くと、高齢の方が被害に遭う事件を思い浮かべる方が多いと思います。しかし実際には、働き盛りの世代が被害者となる事件も報じられています。被害者の属性が変われば、示談の入り方も変わります。この記事は、被害額が数百万円に届かない規模の事件で身柄を拘束された中国籍の方とご家族に向けて、弁償と示談をどう設計するかを、交渉の順序に沿って説明します。
報じられている範囲
沖縄タイムスの報道によれば、沖縄県において、中国籍の48歳の男性が、警察官を名乗る手口により40代の男性から150万円をだまし取ったとして、詐欺の疑いで逮捕されたとされています。当方が確認できたのは見出しの範囲にとどまり、報道日は確認できていません。詐欺の疑いで逮捕されたと報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。この報道は、被害が高齢者に限られていないことを示す一例です。以下は制度と実務の説明です。
150万円という規模が持つ意味
被害額の大きさは、示談が成立しうるかどうかに現実的な影響を与えます。数千万円の事案では、一括して弁償できる家庭は限られ、被害者側も分割弁済に応じにくい。これに対して百万円台であれば、母国の家族が原資を用意できる範囲に収まることがあり、被害の全額を回復できる可能性があります。全額の回復は、被害者の処罰感情を和らげる最も強い要素です。もっとも、金額が小さいから不起訴になる、という単純な話ではありません。組織的な犯行であること、複数の被害があること、前科前歴の有無によって、結論は大きく変わります。この点について結果を約束することは誰にもできません。
被害者の処罰感情をどう把握するか
示談の可否は、金額よりも被害者の気持ちで決まります。警察官を名乗る手口の事件では、被害者は「自分がだまされた」という悔しさに加え、公的機関を装われたことへの怒りを抱えています。まず知るべきは、被害者が何に最も傷ついているのかです。金銭そのものなのか、家族に知られたことなのか、警察を装われたことなのか。弁護人は検察官を通じて被害者側の意向を打診し、示談の申入れを取り次いでもらいます。この段階で、金額の話をいきなり持ち出すのは得策ではありません。
交渉の入り方と謝罪文の作り方
最初の接触は、弁償の申出よりも先に、謝罪の意思を伝えることから始めます。謝罪文は本人が書きます。中国語で書いて翻訳を添えて構いません。書くべきことは三つです。第一に、自分が何をしたのかを、被害者の被害に即して具体的に書くこと。第二に、被害者がどのような不利益を受けたかを、自分の言葉で理解して書くこと。第三に、弁償について、いつまでに、どのようにするのかを具体的に書くことです。避けるべきなのは、自分が組織に利用されたという説明を前面に出すことです。それは量刑では意味のある事情ですが、被害者に向けた文章では言い訳と受け取られます。定型文を写したような文章も、被害者にはすぐ分かります。
示談が成立しないときにできること
被害者が示談を望まない場合もあります。その場合でも打つ手はあります。弁償金を弁護人の預り金として確保しておき、受領の意思が示されればいつでも支払える状態にしておくこと。被害者への支払に代えて贖罪寄付を行うこと。被害額に相当する金銭を供託すること。いずれも、被害者の意思に反して和解を作るものではありませんが、金銭的な準備を現に整えている事実を裁判所に示すことはできます。示談ができなかった事案でも、この準備の有無で心証は変わります。
在留資格への影響
報道からは在留資格が分かりません。詐欺で無期又は1年を超える拘禁刑の実刑となれば、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リの退去強制事由に当たり、全部執行猶予は除外されています。他方、不起訴や罰金にとどまれば、この条文には該当しません。ただし該当しないことと、在留が安泰であることは別です。別表第一の在留資格であれば、更新の場面で素行が審査され、詐欺で処分を受けた事実は不利に働きます。永住者などの別表第二であれば、退去強制事由に当たらない限り在留は続きますが、永住の許可を受けた後の生活状況が問われる場面はあります。示談の成立は、刑事処分を軽くするだけでなく、その後の入管手続で示せる材料そのものになります。
ご家族が用意しておくもの
弁償の原資と、その出所を説明する資料。母国から送金する場合は、必要書類と所要日数の確認。身元引受書と、引受人の在留資格・住所・収入が分かる資料。本人の生活状況、就労先、家族構成が分かる資料。これらは、示談交渉と量刑主張の両方で使います。あわせて在留カードと旅券の所在を確かめ、弁護人を通じて差し入れを手配してください。接見禁止が付いていても弁護人との接見は制限されません。
中文版:被害人未必是老年人 针对40多岁男性的150万日元案件如何设计和解
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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