80代の被害者に1000万円。母国の家族から弁償金を送るにはどうすればよいか
2026/08/31
特殊詐欺で高齢の方が被害に遭った事件では、被害額が大きく、被害者の生活基盤そのものが損なわれていることが多いため、量刑は重い方向に働きます。その中で被害弁償は、数少ない、こちらから状況を動かせる手段です。しかし本人は身柄を拘束され、日本国内に資力がない。原資は母国の家族が用意するしかない。この記事は、そうした状況に置かれた中国籍の方とご家族に向けて、弁償金を実際に被害者へ届けるまでの段取りを説明します。
報じられている範囲
広島ホームテレビの報道によれば、広島県において、中国籍の23歳の男性が、80代の女性から1000万円をだまし取ったとして、詐欺の疑いで逮捕されたとされています。当方が確認できたのは見出しの範囲にとどまり、報道日は確認できていません。詐欺の疑いで逮捕されたと報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。報道からは、男性の在留資格も、組織内での位置も、受け取った報酬も分かりません。以下は、この類型に共通する実務の説明です。
高齢の被害者であることが量刑に与える影響
被害者が高齢であることは、量刑では重い方向に働きます。判断能力や情報への接し方につけ込んだ点で犯行が悪質と評価されやすく、また、年金や退職金といった取り返しのつかない資産が失われ、回復の見込みが乏しいためです。1000万円という規模は、生活の基盤そのものが崩れる金額です。だからこそ、たとえ全額に届かなくても、現実の金銭的回復を作れるかどうかが、処分と量刑の両方に効いてきます。
中国から弁償金を送るときに詰まる点
実務で最も時間を取られるのが、この送金です。手順としては、まず誰が原資を出すのかを決めます。親、兄弟、親族のいずれであっても、その人が自分の資金として出すのか、本人に貸すのかを整理しておきます。次に、その資金が正当な出所であることを説明できる資料をそろえます。給与明細、預金通帳の履歴、不動産の売却契約、退職金の支給記録といったものです。さらに、送金者本人の身分証、日本側の受取先の情報が要ります。中国から国外への送金には手続と枠があり、金融機関ごとに求められる書類も異なりますから、取扱いの銀行に早めに確認してください。着金までに日数を要することは織り込んでおく必要があります。示談の話が具体化してから動き始めると、勾留期間や公判期日に間に合いません。
弁護士の預り金口座を使う理由
弁償金は、弁護人の預り金口座を経由して被害者に渡すのが通例です。理由は三つあります。第一に、被害者の口座番号や住所を加害者側に知らせずに済むこと。被害者は再び接触されることを恐れており、直接の送金は交渉そのものを壊しかねません。第二に、いつ、いくらが、誰から入金され、いつ被害者に渡ったかの記録が残ること。この記録が、弁償の事実を裁判所に示す証拠になります。第三に、被害者が受領を拒んだ場合に、預り金として保管したまま次の手段に移れることです。なお、送金の名義や経路について不明確な点があると、資金の性質を疑われて手続が止まります。誰から誰へ、どういう趣旨で送るのかを、あらかじめ書面で整理しておいてください。
被害者への申入れは誰がどう行うか
被害者の連絡先は、捜査中は加害者側に知らされません。弁護人が検察官を通じて、弁護人限りで連絡先の開示を受けられないかを打診し、被害者の同意が得られた場合に交渉が始まります。被害者が高齢である場合、ご本人ではなくご家族が窓口になることも多く、その場合はご家族の理解を得ることが実質的な出発点になります。断られることもあります。弁償を受け取らないという被害者の判断は尊重されなければなりません。その場合でも、贖罪寄付や、受領されるまで弁償金を確保しておく形など、別の示し方があります。
在留資格への影響
報道からは在留資格が分かりません。詐欺で無期又は1年を超える拘禁刑の実刑となれば、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リの退去強制事由に当たります。全部執行猶予は除外されています。被害額が大きい事案では実刑の可能性を現実的に見ておく必要があり、弁償の有無は、実刑か執行猶予か、実刑なら期間がどうなるかに直結します。仮に退去強制の手続に進んだ場合でも、在留特別許可の判断では、家族関係や在留の経緯とともに素行が考慮されます。令和7年の出入国管理統計では、在留特別許可は年間で合計1,030人に付与されており、余地がないわけではありません。刑事段階で作った弁償の記録は、そのまま入管手続で使える資料になります。
ご家族が今日から始めること
原資の目処を立てること、出所を説明できる資料をそろえること、送金に必要な書類と所要日数を銀行に確認すること。この三つを、示談交渉の開始を待たずに始めてください。あわせて、在留カードと旅券の所在を確認し、弁護人を通じて差し入れを手配します。接見禁止が付いていても弁護人との接見は制限されません。本人が要請すれば、領事関係に関するウィーン条約36条1項に基づき領事機関への通報が行われます。ご家族が書く嘆願書や身元引受書も、量刑の場面で意味を持ちます。日本語で書く必要はなく、翻訳を添えれば足ります。
中文版:面向80多岁被害人的1000万日元赔偿,如何从国内的家人汇款过来
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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