被害額1800万円、自分が受け取ったのはわずか。この落差をどう立証するか
2026/08/31
特殊詐欺の報道では、まずグループ全体の被害額が大きく報じられます。ところが末端で動いた人が実際に受け取った額は、その数百分の一ということも珍しくありません。この落差は、放っておくと量刑の場面で無視されます。この記事は、大きな被害額とともに報じられてしまった中国籍の方とご家族に向けて、自分の関与の範囲をどう客観的に示すか、その手順を説明します。
報じられた数字は誰の数字か
MRT宮崎放送の報道によれば、宮崎県において、中国籍の19歳の女性で専門学校生の方が詐欺の疑いで逮捕されたとされ、被害に関わる金額として1800万円が挙げられています。当方が確認できたのは見出しの範囲であり、報道日は確認できていません。詐欺の疑いで逮捕されたと報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。ここで大切なのは、報じられる金額が、多くの場合、そのグループが関与したとされる被害の合計であって、逮捕された個人が責任を負う範囲と一致するとは限らない、という点です。以下は、この類型に共通する立証の話です。
共謀の射程という争点
共同正犯として責任を負う範囲は、共謀がどこまで及んでいたかで決まります。組織の全体像を知り、複数回の犯行を前提に加わったのであれば、自分が直接関わらなかった回についても責任が及びうる一方、単発の依頼として一度だけ現金を受け取った人が、それ以前から続いていた被害の全部を負うわけではありません。捜査機関は、押収された名簿や指示履歴を根拠に、関与を広く構成しようとします。弁護人は、いつ、どのような経路で誘われ、どの回に、どこまで関わったのかを、日付単位で切り分けていきます。
報酬の授受記録で範囲を限る
最も分かりやすい材料は、報酬がいつ、いくら、どのように支払われたかの記録です。銀行の入出金履歴、送金アプリの記録、暗号資産の受領履歴、現金であれば授受の日時と場所。固定額の報酬であれば、被害額に連動していないこと自体が、被害総額と本人の関与が比例しないことを示します。逆に、歩合であった場合でも、受領額から逆算できる関与の規模が、報じられた総額とかけ離れていることを示せます。ここで注意したいのは、報酬をもらっていないと述べれば有利になるとは限らないことです。無償で動いた事実は、動機や支配関係の説明を別に要します。
通信履歴と移動記録で期間を区切る
メッセージアプリの履歴は、いつグループに加入し、いつ離れたかを示します。交通系ICカードの利用履歴、鉄道やバスの乗車記録、防犯カメラ、スマートフォンの位置情報、コンビニの購入履歴も、その日にどこにいたかを示す材料になります。捜査機関が主張する犯行日のうち、本人がアルバイトや授業に出ていた日、別の県にいた日があれば、その回については関与を否定できます。これらの記録は時間とともに失われますから、ご家族が早い段階で保存を手配することに意味があります。学校の出席簿、アルバイト先のシフト表、給与明細は、ご家族でも取り寄せられる場合があります。
被害総額に引きずられない量刑の主張
量刑では、被害の大きさが重い要素として働きます。だからこそ、本人が担った役割の限定性、報酬の少なさ、勧誘された経緯、離脱の困難さを、供述だけでなく客観証拠とともに示す必要があります。加えて、被害弁償は総額に届かなくても行う意味があります。全額に及ばない一部弁償であっても、被害者に現実の回復をもたらし、反省の具体的な表れとして評価されうるからです。誰にいくら弁償するかは、共犯者間の負担の問題とも絡みますので、弁護人が検察官を通じて被害者側の意向を確認しながら進めます。
在留資格への影響という現実的な理由
関与範囲を限定することは、量刑だけの問題ではありません。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としており、全部執行猶予は除外されています。つまり、実刑か執行猶予か、実刑なら1年を超えるかどうかが、在留を左右する分水嶺になります。被害総額をそのまま背負うか、自分が関わった範囲に限るかは、この分水嶺の手前か向こうかを決めうる問題です。令和7年の出入国管理統計では、退去強制令書の発付総数7,722人のうち4号リ単独は41人ですが、中国籍では並立事由を含めて47人が計上され、発付総数686人の6.9%を占めます。
ご家族が集められる資料
まず、本人の銀行口座の取引履歴、携帯電話の契約書と料金明細、交通系ICカード、学校の出席状況、アルバイト先のシフト表と給与明細です。次に、本人の生活状況が分かるもの、家賃の支払記録、仕送りの記録も、生活の実態と報酬の位置づけを説明する材料になります。これらは弁護人が捜査機関から取り寄せられるとは限らず、ご家族の協力がなければ集まりません。差し入れや面会に加えて、この資料集めがご家族の最も具体的な貢献になります。あわせて、被害弁償の原資と、母国から送金する場合の所要日数の見積りを、早い段階で確認しておいてください。
中文版:被害1800万日元,自己拿到的只有一点点,这个落差如何证明
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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