起訴内容を認めた夫婦の事件 争点が量刑だけになったあとの弁護
2026/08/31
初公判で起訴された事実をすべて認めた。そこで裁判は終わりだと思われがちですが、実際にはそこから弁護の本番が始まります。争点が量刑だけになった事件でこそ、事実の描き方の差が判決に直結するからです。この記事では、報道された夫婦の事案を手がかりに、自白事件で弁護人が何を立証していくのか、そして中国籍の方にとって量刑がそのまま在留の問題に接続する構造を説明します。
報道された事案——名古屋地裁で起訴内容を認めた夫婦
時事通信、CBCテレビ、テレビ愛知は2026年1月8日、カンボジアに拠点を置いたとされる詐欺グループの事件について、中国籍の夫婦2人が日本人のかけ子と共謀して700万円を詐取したとして起訴され、名古屋地方裁判所の初公判で起訴内容を認めたと報じました。報道の時点で判決が確定したものではなく、以下の記述は報道された範囲の事実を出発点とする一般的な解説です。
自白事件で弁護人がすることは何か
争いのない事件でも、検察官が描く事実と、弁護人が描く事実は同じではありません。検察官は組織全体の被害と役割分担の重さを描き、弁護人は本人の関与の幅、動機の形成過程、得た利益の実額、離脱の機会の有無を描きます。どちらも「起訴された事実を認めた」という枠内で行われる作業です。認めることと、検察官の評価をそのまま受け入れることは違います。
具体的には、次の作業を行います。第一に、被害弁償と示談の可能性を探ること。第二に、共犯者との対比で本人の位置を示す資料を集めること。第三に、判決後の生活を支える体制、つまり住居、就労、監督者を具体的に示すこと。第四に、本人が事件をどう理解し、何を悔いているのかを、抽象的な反省文ではなく具体的な言葉で法廷に届けることです。
「指示役」と「統括者」の落差を示す
報道で指示役と呼ばれた立場は、実際には幅が広い概念です。組織の資金を管理し、拠点の場所を決め、人員の採用と解雇を決める者と、上から降りてきた台本と架電先の名簿をかけ子に手渡す者とでは、責任の重さがまったく違います。弁護人は、この落差を証拠で示します。着目するのは、報酬の決定権が誰にあったか、拠点の賃借契約の名義、通信手段の管理者、被害金の最終的な集約先、そして本人が誰かを解雇したり採用したりできたかどうかです。指示を伝達する立場にとどまるのであれば、統括者と同じ枠で量刑を考えることは相当ではないという主張が成り立ちます。
夫婦間の従属性という難しい主張
夫婦が共に起訴された事件では、一方が他方に従っていたという主張が出ることがあります。この主張は慎重に扱う必要があります。安易に持ち出せば、責任転嫁と受け取られ、反省の姿勢を疑われかねません。有効に機能するのは、客観的な裏づけがある場合に限られます。たとえば、収入と資産の管理が一方に集中していたこと、渡航や住居の決定に一方が関与していなかったこと、組織との連絡窓口が一方に限られていたこと、暴力や強い経済的支配が存在したことなどです。
また、夫婦であることは量刑上、二面性を持ちます。一方では、家庭が犯行の場になったという評価を招きます。他方では、双方が服役すれば子や高齢の親の監護が失われるという事情が、人道上の考慮として意味を持ちます。どちらの面を前に出すかは、事案の実情に即して決めることになります。
かけ子との役割対比をどう立証するか
報道では日本人のかけ子と共謀したとされています。かけ子は被害者に直接嘘をつく実行行為者であり、その意味では最も生々しい関与をしています。他方、報酬の分配では上位者が多くを取ります。弁護人としては、通信記録、報酬の入出金、指示の文言を並べて、誰が主導し、誰が従ったのかを立体的に示します。ここで役立つのが、削除されたメッセージを含む端末の解析結果と、拠点の運営費の流れです。数字と時系列は、言葉よりも強く働きます。
在留資格への影響
詐欺で有罪となった場合、退去強制事由として問題になるのは入管法(出入国管理及び難民認定法)24条4号リです。無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者が対象で、ただし書により全部執行猶予は除かれます。量刑を争うことが在留を争うことになるのは、この一点に理由があります。夫婦がともに有罪となる事案では、双方の刑期がこの線を越えるかどうかで、家族全体の生活基盤が変わります。
実刑が見込まれる場合は、判決前から在留特別許可を見据えた資料を整えます。入管法50条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留の期間、法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮といった考慮要素を定めています。刑事の情状として提出する資料は、そのまま入管手続でも使えます。二重に作らずに済むよう、作成の段階から日付と作成者を明確にしておいてください。
ご家族が今日できること
夫婦がともに拘束されている場合、日本国内の親族や知人の協力が不可欠になります。まず、子がいる場合はその監護の受け皿を明確にし、学校や自治体との連絡経路を確保してください。次に、住居の賃貸借契約が解約されないよう家賃の支払を維持し、在留カードと旅券を保管します。第三に、被害弁償の原資を、押収を受けていない適法な資金の中から準備し、その出所を説明できる書類を揃えます。判決までに動いた分だけが量刑に反映されますので、初公判の後であっても、遅すぎるということはありません。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------