実刑が避けられない事件でも、刑事段階から在留特別許可の材料を残す
2026/08/31
被害額が大きく、組織的な関与が認められる特殊詐欺の事件では、実刑判決が現実的な見通しになることがあります。そのとき、ご家族から決まって出るのが「日本にいられなくなるのか」という問いです。刑が確定してから入管手続に取りかかっても、使える材料はほとんど残っていません。この記事では、報道された事案を手がかりに、判決前の段階で何を集め、どう記録に残しておくかを、在留特別許可の考慮要素に沿って整理します。
報道された事案の位置づけ
読売テレビは2022年7月1日、警察官をかたる詐欺について、中国籍の男を含む複数名が関与したとされる事件を報じました。報道によれば被害総額は8200万円、うち中国籍の関係分は約5700万円とされ、詐取金の一部が貴金属に換えられた疑いで東京都内の店舗の捜索が行われたとされています。逮捕・捜査段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。ここでは、この規模の事件で実刑が見込まれる場合に、刑事弁護と入管対応をどうつなぐかという一般論を述べます。
なぜ判決の前から在留の準備をするのか
理由は二つあります。第一に、退去強制事由に該当するかどうかは、判決の主文で決まってしまうからです。入管法(出入国管理及び難民認定法)24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、ただし書により全部執行猶予は除かれます。刑期が1年を超える実刑になるか、1年以下に収まるか、あるいは執行猶予が付くかで、その後の道筋がまったく変わります。量刑を争うことは、そのまま在留を争うことです。
第二に、在留特別許可の判断で用いられる資料の多くは、身柄拘束が長引くほど失われるからです。勤務先の在籍証明、家賃の支払記録、子の学校の在籍状況、納税の実績、親族の生活状況。これらは、本人が自由に動けるうちか、少なくとも家族が事情を把握しているうちに集めなければ、収集自体が難しくなります。
制度の骨格——申請できる時期が決まっている
在留特別許可は、いつでも申請できるものではありません。入管法50条2項により、申請権が生じるのは収容令書によって収容された外国人、または監理措置決定を受けた外国人です。それ以前の段階では、職権の発動を求める活動になります。また同条3項により、退去強制令書が発付された後は申請できません。時期を逃すと、書面を出す先そのものがなくなるという構造です。刑の執行が終わる時期と、入管の手続が始まる時期を見据えて、いつ、誰が、どの書面を提出するかを設計しておく必要があります。
なお50条1項ただし書は、無期または1年を超える実刑(全部猶予および実刑部分が1年以下の一部猶予を除く)の場合に、より厳しい枠組みを設けています。実刑が見込まれる事件では、この枠組みの中で「特別の事情」を語れるだけの厚みを、判決前から積み上げておくことになります。
50条5項の考慮要素に沿って資料をつくる
令和5年の改正で、在留特別許可の判断にあたって考慮すべき事情が法律上明示されました。在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留の期間、本邦における法的地位、退去強制の理由となった事実、そして人道上の配慮といった要素です。実務では、この並びをそのまま章立てにして疎明資料を編みます。
家族関係であれば、婚姻証明、子の出生証明、同居の実績を示す住民票や賃貸借契約、学校の在籍証明、監護の実態を示す写真や連絡記録。素行であれば、納税証明、社会保険の加入記録、前科前歴の有無、事件後の弁償の履行状況。在留の期間であれば、初回入国からの経緯を年表にしたもの。人道上の配慮であれば、家族の疾病や介護の必要性に関する診断書です。出入国在留管理庁が令和6年に改定したガイドラインでは、自ら出頭して申告したことが積極要素として挙げられている一方、不法な状態の長期化は消極要素とされています。事件後の身の処し方が、そのまま評価に反映されると考えてください。
判決前にしか取れない資料がある
典型は、被害弁償と示談に関する資料です。判決後に弁償しても、量刑には反映されません。また、勤務先の上司や家族が作成する陳述書は、時間が経つほど記憶が薄れ、勤務先自体が本人との関係を絶ってしまうこともあります。刑事の情状として提出した資料は、そのまま入管手続の疎明資料として再利用できます。裁判所に出すために作った書面を、後に入管に出すことを見越して、日付・作成者・関係性を明確にした形で整えておくと、二度手間を避けられます。
統計を一つ挙げます。出入国在留管理庁の令和7年の統計では、在留特別許可は審査・口頭審理・異議申出の各段階を合わせて年間1030人に許可されています。同じ年の退去強制令書の発付は約7700人でした。数字が示すのは、退去強制手続に入ったからといって結論が一つに決まるわけではないという事実です。ただし国籍別の内訳は公表されておらず、中国籍の許可件数を示すことはできません。
ご家族の役割と、今日から始めること
ご家族には、証拠を集める人としての役割があります。第一に、日本国内の書類(住民票、課税証明、賃貸借契約、学校関係)を早めに取得すること。第二に、中国国内の書類(戸籍、婚姻関係、親族の健康状態)は取り寄せに時間がかかるため、必要になりそうなものから着手すること。第三に、面会や差し入れ、手紙のやり取りを続け、その記録を残すこと。家族関係が現に続いていることの証明は、記録の積み重ねでしか作れません。
そして、刑事の弁護人と入管の対応を別々の窓口に分けないことをお勧めします。量刑を争う主張と、在留を求める主張は、同じ事実から組み立てられます。窓口が分かれると、その事実の使い方が食い違い、双方で弱くなります。
中文版:即使实刑难以避免,也要从刑事阶段就开始积累特别在留许可的材料
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
----------------------------------------------------------------------