詐取金で貴金属を買うと犯罪収益等隠匿罪が加わる 捜査の流れと押収品の取戻し
2026/08/31
特殊詐欺で得た現金をそのまま持っていると危ないから、金やプラチナに換えておく。こうした行動が、詐欺とは別の罪を呼び込むことがあります。組織的犯罪処罰法の犯罪収益等隠匿の罪です。この記事では、報道された事案を手がかりに、なぜ「買っただけ」で罪が増えるのか、捜査が販売店にまで及ぶ流れ、そして押収品を取り戻す手順を説明します。中国籍の方とそのご家族に向けた解説です。
報道された事案——大阪の捜査が東京の貴金属店に及んだ
読売テレビは2022年7月1日、警察官をかたる詐欺について、中国籍の男を含む複数名が関与したとされる事件を報じました。報道によれば、被害総額は8200万円、うち中国籍の関係分は約5700万円とされ、大阪府警の捜査は東京都内の貴金属店の捜索にまで及んだとされています。逮捕・捜査段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。詐取金の換価という行動が、捜査の広がりを生んだ例として参考になります。
なぜ「買っただけ」で罪が増えるのか
犯罪収益等隠匿の罪は、犯罪によって得られた財産の取得や処分について事実を仮装したり、その所在を隠したりする行為を処罰するものです。ここで重要なのは、罪の中心が「隠す」という結果ではなく、財産の姿を変えて追跡を困難にするという行為そのものにある点です。現金には特定性がありませんが、口座の履歴や紙幣の連番から辿られる余地があります。これを金地金や宝飾品に換えれば、その物自体は誰のものとも書いていない動産になり、持ち運びも国外への持出しも容易になります。捜査機関は、この換価行為を、追跡を断つための工作と評価します。
したがって、詐欺の共犯として立件されるだけでなく、換価に関与した部分について別個に隠匿罪が付加されるという構造になります。罪が二つ重なれば、処断の枠が広がり、量刑も重くなる方向に働きます。
捜査は販売店に及び、第三者の物まで押収される
貴金属の売買には本人確認と取引記録の保存が求められており、捜査機関は販売店に対する捜索差押えによって、購入者、購入日時、品目、支払方法を一挙に把握できます。この過程で、事件と無関係の顧客の取引記録が押収されることもあれば、被疑者が売却した品を買い取った販売店の在庫が押収されることもあります。買い取った側が事情を知らなかった場合でも、証拠物として一時的に占有を失うことは避けられません。
押収品を取り戻すための手順
取り戻しには、押収物の還付・仮還付を求める道があります。手順としては、まず押収品目録の交付を受け、どの物がどの事件でいつ押収されたのかを特定します。次に、その物が事件の立証に必要でないこと、あるいは自分に正当な権利があることを示す資料を用意します。購入時の領収書、取引台帳、本人確認記録、代金の支払を示す通帳の写しなどです。捜査が続いている間は還付が認められにくいものの、写真撮影や重量測定で立証を代替できる物については、早期の返還が認められる余地があります。事件終結後も動かない場合は、あらためて還付請求を行います。
なお、換価された物が犯罪収益であると認定されれば、没収の対象になります。第三者が取得した物についても手続上の争いが生じ得ますので、権利を主張する側は、取得の経緯と対価の支払を客観的な資料で示す準備をしておくことが必要です。
争点は「情を知って」いたかどうか
隠匿罪でも収受の罪でも、実務の争点は認識に集約されます。現金の出所が犯罪によるものだと分かっていたのか、それとも「頼まれて買い物をしただけ」という認識にとどまっていたのか。ここは供述の取られ方が決定的に効きます。通訳を介した取調べでは、「知っていた」「おかしいとは思った」「言われたとおりにした」という三つのニュアンスが、日本語の調書では同じ方向にまとめられてしまう危険があります。取調べの録音録画の有無を確認し、調書の読み聞かせの際に、自分の言葉と違う部分は署名前に訂正を求めることが、後の裁判で効いてきます。
在留資格への影響とご家族が最初にすべきこと
詐欺と隠匿罪が重なると、量刑は実刑方向に振れやすくなります。退去強制事由として直接に問題となるのは入管法(出入国管理及び難民認定法)24条4号リで、無期または1年を超える拘禁刑の実刑が基準です。全部執行猶予はただし書で除かれます。実刑が見込まれる事件では、判決を待ってから在留の手当てを考えるのでは遅く、刑事の段階から資料を残しておく必要があります。
ご家族には、まず在留カードと旅券の所在確認、次に勤務先・学校への説明のタイミングの相談、そして貴金属の購入や売却に関わる書類(領収書、取引明細、送金記録)の保全をお願いしています。これらは、本人の関与の程度を説明する資料にも、押収品を取り戻す資料にもなります。捨てたり整理したりせず、そのまま残してください。
中文版:用诈骗所得购买贵金属会被追加犯罪收益隐匿罪 搜查流程与扣押物的取回
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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