自宅から3000万円が押収され立件は100万円 没収・追徴はどこまで及ぶか
2026/08/31
特殊詐欺の捜索で自宅から多額の現金が押収されたのに、逮捕状に書かれた被害額はその何十分の一しかない。こういう事態はしばしば起こります。ご家族が心配されるのは、押収された現金が全部取り上げられてしまうのか、その中に含まれる生活費や事業資金まで戻ってこないのか、という点です。この記事では、報道された事案を手がかりに、没収・追徴の対象がどこまで及ぶのか、そして立件されていない現金についてどのような防御ができるのかを説明します。
報道された事案——押収額と立件額の大きな差
産経新聞は2022年6月20日、大阪府と滋賀県にまたがる特殊詐欺について、現金の回収を担ったとされる中国籍の男2人(51歳と23歳)が詐欺と窃盗の疑いで逮捕されたと報じました。報道によれば、被疑者宅からは3000万円を超える現金が押収された一方、立件されたのは100万円分であったとされています。逮捕段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。押収額と立件額の間にこれだけの開きがあるという事実は、この類型の防御を考えるうえで示唆に富みます。
押収・没収・追徴は別の制度である
まず、言葉を分けて理解する必要があります。押収は捜査のために物を占有下に置く処分にすぎず、それ自体が権利を奪うものではありません。没収は、判決によって特定の物の所有権を国庫に帰属させる処分です。追徴は、没収すべき物が費消されているなどして没収できないときに、その価額に相当する金銭の納付を命じる処分です。したがって、押収されたことと、最終的にその現金を失うこととは、まったく別の話になります。捜査段階で全額を諦める必要はありません。
立件されていない現金の犯罪収益性は誰が示すのか
没収・追徴の対象となるのは、起訴された事実との関係で犯罪によって得られたと認められる財産です。訴因に含まれていない現金について、それが犯罪によって得られたものだと主張するのであれば、その立証の負担は検察官の側にあります。「回収役の自宅から出た現金だから全部が被害金だ」という推論は、それ自体が証拠ではありません。現金は特定性が乏しく、番号が控えられている紙幣でない限り、被害金との同一性を個別に示すのは容易ではありません。弁護人は、押収調書の記載、封筒や輪ゴムの状態、保管場所の区分、紙幣の新旧といった外形的事実に踏み込み、検察官の主張がどこまで具体的な証拠に支えられているかを一つずつ確認します。
立件外の現金について取り得る防御
実務上、有効なのは資金の出どころを積極的に説明することです。給与明細、確定申告書、事業の売上台帳、母国からの送金記録、預金の引出履歴、不動産や車両の売却契約書。こうした資料で、押収現金のうち一定額が適法な出所を持つことを示していきます。中国籍の方の場合、母国での資産処分や親族からの資金移動が絡むことが多く、中国側の書類の取り寄せと翻訳に時間がかかります。判決までに間に合わせるには、早い段階でご家族に依頼して収集を始める必要があります。
また、共犯者との関係も重要です。組織の資金を一時的に保管していただけであれば、その現金は本人が取得した犯罪収益ではなく、上位者へ引き渡す途中の物にすぎない可能性があります。この場合、本人に対する追徴の範囲は、現実に本人の手元に残った報酬額に絞られるべきだという主張が成り立ちます。誰がいくらを最終的に取得したのかという分配の構造を示すことが、追徴額を抑える鍵になります。
家族名義の預金や生活資金が混じっている場合
同居のご家族の預金通帳や現金が一緒に押収されることがあります。この場合、押収物の還付や仮還付を求める手続があり、事件との関連性がないことを疎明できれば、返還を受けられる余地があります。放置すると事件終結まで動かないため、生活が立ち行かなくなる前に、どの物が誰のものかを整理し、購入時の領収書や通帳の入金経緯といった裏づけを揃えてください。家賃や学費の支払いが止まると、ご家族の在留状況にも影響が及びます。
在留資格への影響と、ご家族が準備できること
詐欺で有罪となった場合、退去強制事由として問題になるのは入管法(出入国管理及び難民認定法)24条4号リであり、無期または1年を超える拘禁刑の実刑が基準になります。全部執行猶予はただし書で除かれます。追徴額の多寡それ自体が退去強制事由になるわけではありませんが、認定される犯罪収益の額は量刑に直結し、量刑が1年を超える実刑かどうかという線を左右します。その意味で、追徴の範囲を争うことは在留の帰趨を争うことでもあります。
ご家族には、次の三つをお願いしています。第一に、押収品目録の写しを受け取り、何が持っていかれたのかを一覧にすること。第二に、資金の出どころを示す書類を、日本国内分と中国国内分に分けて集め始めること。第三に、被害弁償に充てられる資金を、押収されていない適法な原資の中から確保し、その出所を説明できるようにしておくことです。押収された現金を弁償に充てることはできませんので、この整理は早いほど有利に働きます。
中文版:家中被扣押3000万日元但立案只有100万,没收与追征到底到什么范围
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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