口座を経由させた資金洗浄の事件で、3人が嫌疑不十分で不起訴になった
2026/08/31
資金洗浄の疑いで逮捕されると、口座の記録という動かしがたい証拠がある以上、もう争えないと考えてしまう方が少なくありません。しかし、実際には、逮捕された人のうち一部が嫌疑不十分で不起訴になった事件が報じられています。この記事では、その報道を手がかりに、なぜ資金が動いた事実だけでは起訴に至らないのか、逮捕から起訴・不起訴が決まるまでの限られた時間に何をすべきかを整理します。中国籍の方の事件でとくに問題になる在留資格への影響にも触れます。
報道された事件では、5人のうち3人が不起訴になった
ライブドアニュースに掲載された2026年1月29日の報道によれば、交流サイトを通じた投資詐欺の被害金約8000万円を複数の口座に移し替えたとして、46歳の男性を含む中国籍の男性ら5人が組織的犯罪処罰法違反の疑いで逮捕されました。そして、そのうち3人が嫌疑不十分で不起訴となったと報じられています。
逮捕された段階の事実は、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。不起訴となった3人については、そもそも刑事責任を問われないことが確定しています。この事件が重要なのは、口座を経由した資金移転という、外形上は明白に見える類型でも、検察官が起訴を断念する結論が現に出ているという点にあります。
「嫌疑不十分」と「起訴猶予」はまったく違う
同じ不起訴でも、意味は大きく異なります。起訴猶予は、犯罪の成立自体は認められるものの、事情を考慮して訴追しない処分です。これに対して嫌疑不十分は、証拠上、犯罪の成立を認めるに足りないという判断です。前者は事実上の前科ではないものの、入管手続や在留期間の更新の場面で素行の評価に影響し得ます。後者は、犯罪の成立自体が認められなかったという判断ですから、位置づけが違います。報道されたのは後者でした。
なぜ資金が動いた事実だけでは起訴に至らないのか
組織的犯罪処罰法の犯罪収益等隠匿の罪は、資金を動かしたという外形だけで成立するものではありません。検察官は、少なくとも次の三つを証明しなければなりません。第一に、その資金が特定の犯罪から生じた収益であること。第二に、被疑者が、それが犯罪から生じた資金であると認識していたこと。第三に、隠匿という結果に向けて他の関与者と意思を通じていたこと、すなわち共謀です。
口座名義人として資金が通過したという事実は、第一の点の一部を示すにすぎません。第二と第三は、口座の記録そのものからは出てきません。それを示すのは、指示者とのやりとり、報酬の約束、口座を用意した経緯、送金の名目として説明された内容といった、周辺の証拠です。ここが薄ければ、外形が明白であっても起訴には至りません。報道された事件で3人が嫌疑不十分となった背景には、この構造があると考えられます。
起訴・不起訴が決まるまでの時間に何をするか
逮捕後、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求します。勾留は原則10日、延長でさらに10日です。この間に弁護人がすべきことは、単に「本人は否認している」と伝えることではありません。依頼を受けた経緯、報酬の有無、指示者との関係、口座を開設した時期と目的といった事実を、本人の記憶だけでなく客観的な資料と突き合わせて再構成し、検察官に対して意見書の形で示すことです。
ご家族にお願いしたいのは、本人の携帯電話や端末を初期化しないこと、勤務先や取引の記録を保全すること、そして本人名義の口座がいくつあるかを整理しておくことです。不利に見える記録が、かえって本人の認識の乏しさを裏づけることがあります。
統計から見て、不起訴はどのくらい現実的か
法務省の令和7年版犯罪白書によれば、令和6年に検察庁が終局処理した来日外国人の被疑事件は1万8696人で、起訴猶予は7478人、起訴猶予率は48.35パーセントでした。起訴率は44.28パーセントで、日本人を含む総数の40.38パーセントを3.9ポイント上回っています。なお、ここでいう来日外国人とは、永住者や特別永住者などを除いた区分であり、在留外国人全体とは母集団が異なります。数字を読むときはこの定義に注意が必要です。
不起訴を得ても、在留の問題は自動的には終わらない
嫌疑不十分で不起訴となれば、刑事処分としては終わります。もっとも、身柄拘束が長引いた結果として勤務先を離職していれば、就労資格の方は在留資格に応じた活動を行っていない状態が生じ得ます。入管法(出入国管理及び難民認定法)22条の4は、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないことを取消事由の一つとして定めています。刑事の結論が出た日から、在留のための作業が始まると考えてください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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