「業として」と言えるのは何回からか。地下銀行事件で送金回数を争う
2026/08/31
銀行法違反、いわゆる地下銀行の事件で、ご家族から最も多く尋ねられるのが「一回頼まれただけなのに、なぜ逮捕されるのか」という疑問です。銀行法が免許を求めているのは、為替取引を「業として」営む場合です。この「業として」という言葉が、実務では回数、期間、手数料の決め方をめぐる具体的な争いに姿を変えます。この記事では、報道された事件を手がかりに、送金の回数をどう争うのか、そのために逮捕直後に何を確保しておくべきかを整理します。
銀行法が禁じているのは「送金そのもの」ではない
誤解されやすい点ですが、他人のために資金を動かす行為が、それだけで直ちに犯罪になるわけではありません。銀行法が免許の対象としているのは、為替取引を業として営むことです。最高裁判所は平成13年3月12日の判決で、為替取引を、隔地者間で資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することをいう、という趣旨で定義しました。この定義は行為の中身を示すものであり、「業として」の要件はそれとは別に検討されます。行為が為替取引に当たるかという問題と、それを業として営んだかという問題は、二段構えになっているということです。
報道されている事件では、どの程度の規模が問題にされているか
京都新聞、読売新聞、産経新聞の2026年5月26日報道によれば、大阪府に住む中国籍の女性(36)が、犯罪収益とみられる資金を中国へ送金したとして、銀行法違反の疑いで京都府警に逮捕されました。報道では容疑を一部否認しているとされています。
また、産経新聞の2026年6月17日報道によれば、中国籍の男性2人が、2025年6月から12月にかけて、交流サイトで依頼した中国籍の留学生と、現金約120万円を約5万元に無許可で交換したとして摘発されました。ここで注目すべきは、報じられている取引額が約120万円にとどまる一方で、期間が約半年にわたっている点です。金額の大きさそのものよりも、期間の長さと繰り返しが「業として」という評価を支えている構造が読み取れます。
いずれも逮捕の疑いで報じられた段階のものであり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
「業として」は回数の多さだけで決まるのか
何回からが「業として」に当たる、という一律の線引きはありません。判断されるのは反復継続して行う意思があったかどうかであり、実際の回数はその意思を推認する材料の一つにすぎません。実務で重く見られるのは、次のような点です。
- 依頼が単発だったのか、継続的な関係の中で来ていたのか
- 手数料やレート差による利益を得ていたか、その決め方が定型化していたか
- 交流サイトへの投稿や口コミなど、不特定の相手に向けた勧誘があったか
- この用途のために口座や決済アプリを別に用意していたか
- 依頼を断ったことがあるか、そもそも断れる立場にあったか
逆に言えば、回数が数回にとどまっていても、レートを決めて手数料を取り、募集をかけていれば「業として」と評価されやすくなります。反対に、回数が複数あっても、いずれも同じ知人からの頼まれごとで、利益を得ていないのであれば、争う余地は残ります。
一回限りの頼まれごとは、どこまで争えるか
一回限り、無報酬、相手は親族や親しい友人、という事案であれば、「業として」の要件を正面から争う余地があります。ただし注意しなければならないのは、本人が「一回だけ」と思っていても、捜査機関は口座の入出金履歴や決済アプリの記録から、本人の記憶にない取引を積み上げてくることです。取調べで「一回だけです」と述べた後に記録が出てくると、その一点で供述全体の信用性が失われます。回数を争うときは、記憶に頼らず、まず自分の側で記録を確認することが出発点になります。
また、「業として」を争って銀行法違反の成立を否定できたとしても、動かした資金の性質によっては、組織的犯罪処罰法の犯罪収益等隠匿や収受、あるいは詐欺の共犯として別の罪名が検討されることがあります。一つの争点だけを見て安心することはできません。
回数を争うために、逮捕直後に確保すべきもの
決済アプリの取引履歴、銀行口座の入出金明細、依頼者とのメッセージ、レートを決めたやりとり。これらは時間が経つほど取得が難しくなります。ご家族が本人の携帯電話を「見られたくないから」と初期化してしまう例がありますが、これは弁護活動にとって最も避けたい対応です。端末が押収されている場合でも、同じ内容がクラウドや相手側に残っていることがあります。弁護人が就いた段階で、どこに何が残っているかを一覧にしておいてください。
在留資格への影響をどう見ておくか
銀行法違反は、入管法(出入国管理及び難民認定法)24条4号チの薬物関係にも、別表第一の在留資格の方に限って適用される24条4号の2の特定犯罪にも含まれません。実務上の分岐点は24条4号リ、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた場合であり、全部執行猶予がついた場合は但書により除かれます。もっとも、量刑が重くなるかどうかは、まさに「業として」の規模、期間、利得の大きさに左右されます。回数を争うことは、犯罪の成否を争う活動であると同時に、在留を守るための活動でもあります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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