「為替取引」とは何か、最判平成13年3月12日が地下銀行事件の枠組みを決めている
2026/08/31
地下銀行の事件で決まって出てくるのが、為替取引という言葉です。銀行法違反として立件されるかは、その行為が為替取引に当たるかで決まります。ところが、この言葉は日常語ではなく、条文にも定義が置かれていません。定義を与えたのは最高裁判所であり、それが最判平成13年3月12日です。この記事では、その判断の意味、なぜ定義が広く働くのか、どのような場合に該当性を争えるのかを説明します。送金や換金の仲介に関わったと疑われている中国籍の方とそのご家族に向けた記事です。
最高裁が示した定義
最判平成13年3月12日は、銀行法にいう為替取引を行うこととは、顧客から、隔たった場所にある者に対する資金の移動を内容とする依頼を受けて、これを引き受け、または引き受けて実行することを指すという趣旨の判断を示しました。鍵になるのは、現金を物理的に運ぶかどうかではなく、隔地者間で資金を移動させる仕組みを利用しているかどうかです。銀行法2条2項は、為替取引を銀行業として営まれる業務の一つとして掲げています。免許を受けずにこれを業として行う行為が、地下銀行として摘発されます。
なぜ、この定義はこれほど広く働くのか
免許制の目的は、資金決済の安全と資金の流れの透明性の確保にあります。現金を実際に運んだ場合だけが規制の対象だとすると、帳簿上の相殺による決済、暗号資産を介する方式、電子決済を組み合わせる方式は、すべて規制の外に出ます。最高裁の定義は、資金移動の実質に着目することで、こうした抜け道を塞いでいます。実務上、日本国内で日本円を受け取り、中国国内の口座に人民元を入金する組み合わせは、各国内では現金の授受にすぎなくても、全体として隔地者間の資金移動を実現していますから、為替取引に当たると評価されます。
現金の手渡しだけなら該当しないのか
ここが実際に争える場面です。同じ場所で、日本円と人民元の現金を交換するだけの行為は、資金が場所を越えて移動していない以上、両替であって為替取引ではないという議論の余地があります。他方、依頼者が電子決済で人民元を送り、日本国内で日本円の現金を受け取るという形は、資金が国境を越えて移動していますから、為替取引に当たると構成されやすくなります。したがって、弁護人としては、次の点を具体的に確認します。第1に、資金の起点と終点はどこか。第2に、当事者は同じ場所にいたのか。第3に、決済の仕組みとして何が使われたのか。第4に、一回限りか、反復継続していたか。銀行法違反は業として行うことが要件ですから、回数、期間、宣伝の有無、手数料の設定、帳簿の有無から反復継続性を争えます。取引額が小さく回数も限られる事案では、これが現実的な争点です。
報道された事例
産経新聞は、2026年6月17日、中国籍の26歳の専門学校生と24歳の男性が銀行法違反の疑いで逮捕されたと報じました。報道によれば、2025年6月から12月にかけて、交流サイトを通じて依頼してきた中国籍の留学生との間で、現金約120万円と約5万元を無許可で交換したとされています。また、NBC長崎放送は、2025年10月7日、来日中国人向けに不動産や海外発送の代行を行う会社を経営していた中国国籍の40代の夫婦が、銀行法違反で摘発されたと報じています。いずれも報道された時点の情報であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。前者は取引額が約120万円で期間も限られており、業としての反復継続性が争点になり得ます。
これは中国籍の方に特有の現象ではありません
地下銀行の摘発は、中国語圏に限られた現象ではありません。2026年6月28日の報道によれば、埼玉県内で、インドネシア国籍の42歳と33歳の夫婦が銀行法違反の疑いで逮捕され、送金総額は10億円とみられるとされています(配信元は確認できていません)。逮捕段階の報道であり、有罪が確定したものではありません。母国への送金需要は、日本で働く外国人に共通するものであり、正規の送金手段の使いにくさが背景にあります。国籍と犯罪傾向を結び付ける説明は、事実にも反しますし、事件の理解を誤らせます。
「日本の法律を知らなかった」は通るのか
京都新聞は、2026年5月26日、中国籍の36歳の女性が銀行法違反の疑いで逮捕され、日本の法律を知らなかったとして一部を否認していると報じました。逮捕段階の報道であり、有罪が確定したものではありません。この点について、刑法38条3項は、法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定めています。ただし、同項は、情状により刑を減軽することができるとも定めています。つまり、法律を知らなかったという主張は、故意を否定するものとしては通りませんが、量刑の資料としては意味を持ちます。他方、業として為替取引を行っているという認識自体が欠けていたという主張は、法律の不知とは別の問題であり、故意の有無に関わります。
在留への影響と、最初にすべきこと
銀行法違反は、入管法24条第4号のうち薬物に関する事由には当たりません。したがって、罰金や執行猶予にとどまる限り、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者という事由にも当たらず、直ちに退去強制の対象にはなりません。もっとも、在留期間の更新や在留資格の変更では素行が独立に審査され、有罪となれば不許可の方向に働きます。留学や専門学校在学中の方の場合は、資格外活動の問題が同時に問われることもあります。最初にすべきことは三つです。第1に、取引の記録を消さずに残すこと。回数と金額を客観的に示せることが、業としての反復継続性を争う前提になります。第2に、依頼者との関係、手数料の有無、宣伝の有無を整理すること。第3に、任意の事情聴取に応じる前に弁護士に相談することです。為替取引という概念は判断が分かれる場面がありますから、初回の説明で不正確な認識を語ると、後から修正するのは容易ではありません。
中文版:什么是“为替取引”,平成13年3月12日的最高裁判决决定了地下钱庄案件的框架
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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