人民元を日本円に替えてもらっただけの留学生も、罪に問われるのか
2026/08/31
学費や生活費を送ってもらう手段として、交流サイトで見つけた個人に人民元を渡し、日本円を受け取るという方法が、在日中国人の間で広く使われてきました。ところが、その相手が銀行法違反で逮捕され、自分のところにも警察から連絡が来た、というご相談が増えています。この記事では、換金を依頼した側が罪に問われるのはどのような場合か、逆に、依頼しただけであれば何が問題にならないのかを、報道されている事例を手がかりに整理します。中国籍の留学生とそのご家族に向けた記事です。
結論から申し上げます
換金を依頼しただけで、依頼した側が直ちに銀行法違反になるわけではありません。銀行法が免許を求めているのは、為替取引を業として行う側だからです。ただし、依頼した側にまったくリスクがないわけではありません。受け取った日本円が特殊詐欺の被害金だった場合、その事情を知りながら受け取ったと認定されれば、別の犯罪の問題になります。また、自分の口座を貸した、手数料を取って他人に紹介した、といった行為が加わると、話が変わります。以下、順に説明します。
銀行法が禁じているのは何か
銀行法2条2項は、銀行業として営まれる業務の一つとして為替取引を掲げています。免許を受けずに為替取引を業として行うことは禁じられており、いわゆる地下銀行の摘発は、この規定を根拠としています。ここで重要なのは、規制の名宛人が、資金を移動する仕組みを提供する側だという点です。利用者、すなわち送金や換金を依頼した側は、この規定の禁止の対象ではありません。なお、為替取引の意味については、最判平成13年3月12日が、隔地者間で資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することであるという趣旨の判断を示しています。この定義そのものについては、別の記事で詳しく扱います。
報道された事例
産経新聞は、2026年6月17日、中国籍の26歳の専門学校生と24歳の男性が銀行法違反の疑いで、別に27歳の男性が詐欺の疑いで逮捕されたと報じました。報道によれば、2025年6月から12月にかけて、交流サイトを通じて依頼してきた中国籍の留学生との間で、現金約120万円と約5万元を無許可で交換したとされています。同じ日、FNNプライムオンライン、時事通信、読売新聞、日本経済新聞も同種の内容を報じました。また、旅日僑網は2026年6月20日に関連する報道を伝えています。原資に特殊詐欺の被害金が含まれていたとされていますが、その金額については媒体によって記載に幅があります。いずれも逮捕段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。ここで注目していただきたいのは、逮捕されたのが換金を業として行った側であり、依頼した留学生ではないという点です。
では、依頼した側にどんなリスクがあるのか
依頼した側に問題が生じ得るのは、主に次の四つの場面です。
- 受け取った日本円が犯罪被害金であり、そのことを知りながら受け取った場合。組織的犯罪処罰法には犯罪収益等を収受する行為を処罰する規定があり、情を知って受け取ったことが要件とされています。知らずに受け取った場合とは区別されます。
- 自分名義の口座を提供した場合。預貯金通帳等の不正な譲渡等は犯罪収益移転防止法で処罰されます。警察庁の犯罪収益移転防止に関する年次報告書によれば、令和7年中の同法違反の検挙件数は4699件で、前年より186件増えています。
- 手数料を取って他人を紹介したり、換金の窓口として反復して動いたりした場合。この場合、依頼者ではなく仕組みを提供する側と評価される余地が生じます。
- 留学の在留資格で、報酬を得て継続的に関与した場合。資格外活動の問題が併走します。専門学校生や留学生が摘発される事案では、この点が同時に問われることがあります。
「知らなかった」は通るのか
実務では、知らなかったという弁解が通る場合と通らない場合があります。参考になるのは、ライブドアニュースに掲載された2026年1月29日の報道です(配信元は確認できていません)。報道によれば、交流サイト型投資詐欺の現金約8000万円を複数の口座に移したとして中国籍を含む5人が組織的犯罪処罰法違反の疑いで逮捕されたものの、うち3人が嫌疑不十分で不起訴となったとされています。資金が動いた外形が立証されても、それが被害金であるという認識と共謀が立たなければ、起訴には至らないということです。他方、神奈川新聞が2024年11月6日に報じた事案では、他人名義のカードで引き出された50万円を、事情を知って受け取ったとして、中国籍の32歳の男性が逮捕されたとされています。いずれも報道された時点の情報であり、有罪が確定したものではありません。両者を分けるのは、受け取る際にどのような説明を受け、どのような不自然さがあったかという具体的な事実です。相手の身元を知らない、正規の店舗を通していない、市場と乖離した有利なレートを提示された、現金を路上で手渡された、といった事情は、認識を推認させる方向に働きます。
留学の在留資格への影響と、今日からできること
出入国在留管理庁の統計によれば、令和7年の在留資格取消件数は1446件で、そのうち留学は343件、23・7%を占めています。国籍別では中国が66件で、その内訳のうち留学は10件です。刑事処分に至らなくても、在籍状況や活動実態が問われる場面はあります。今日からできることとして、次の点をお願いしています。第1に、換金や送金は、正規の金融機関や登録を受けた資金移動業者を利用してください。手数料の差は、刑事事件と在留資格を失う危険に見合いません。第2に、過去に利用したことがある場合は、やり取りの記録、レート、日時、相手の連絡先を、消さずに保存してください。捜査機関から連絡が来た際、依頼者にすぎないことを示す資料になります。第3に、警察から任意で話を聞きたいと連絡があった場合、応じる前に弁護士に相談してください。通訳を介した説明は、意図と異なる形で調書に残ることがあります。
中文版:只是找人把人民币换成日元的留学生,也会被追究刑事责任吗
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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