2000万円の不正送金でも、自分が関わった分だけを認定させられるか
2026/08/31
報道に出る金額は、事件全体の被害額であることがほとんどです。ところが、逮捕されたご本人が実際に手を触れたのは、そのうちの一部にすぎないことが少なくありません。ご家族から、「報道では2000万円と書かれているが、本人は数回しか動いていないはずだ」というご相談を受けます。刑事裁判で、自分が関わった範囲だけを認定させることはできるのか。結論から言えば、それこそが共犯事件の弁護の中心的な作業であり、成否は事前にどれだけ具体的な材料を集められるかで決まります。
被害総額と自分の責任範囲は同じではない
共犯事件では、共謀が成立している範囲について、自分が直接実行していない部分の結果についても責任を負います。これを共謀の射程と呼びます。逆に言えば、共謀が及んでいない部分については責任を負いません。捜査機関は、しばしば事件全体を一つの共謀として構成し、被害総額を前提に処理しようとします。弁護人の仕事は、その一体的な構成を、時間軸と指示内容に沿って切り分けることです。量刑において被害額は最も強く働く要素の一つですから、認定される金額が変われば、実刑か執行猶予かの分かれ目にも直結します。
第1の切り口は、参加した時期
自分が関与を始めた時点より前の行為については、原則として責任を負いません。したがって、いつ最初の連絡を受け、いつ最初の作業をしたのかを、客観的な資料で確定させることが出発点になります。通信アプリの初回メッセージ、アカウントの作成日、渡航日、在留カードの交付日、住居の契約日、交通系乗車記録、防犯カメラの日付。これらは、参加時期を動かせない事実として固定するために使います。捜査段階で「以前から関わっていたのだろう」と追及されたときに、記憶だけで反論するのは困難です。客観的な資料があれば、争点は事実問題として整理されます。
第2の切り口は、指示内容と報酬の対応関係
指示された作業の範囲と、実際に受け取った報酬の額は、関与の程度を示す最も具体的な指標です。一回の引出しにつき数千円から数万円という報酬しか受け取っていないのに、被害総額全体について同じ責任を負うという構成は、実態と合いません。弁護人は、次のような対応関係を組み立てます。
- 作業単位。何回、どの日に、いくらを引き出したのか。カードの受渡しは誰から誰へ行われたのか。
- 報酬単位。作業一回あたりいくらか。歩合か固定か。未払いはないか。
- 裁量の有無。金額や場所を自分で決めたのか、指示どおりに動いただけか。他人を勧誘したことがあるか。
- 情報の遮断。上位者の氏名を知っていたか。使用した通信手段は使い捨てだったか。組織の全体像を知り得たか。
報酬が小さく、裁量がなく、情報を与えられていないほど、共謀の射程は狭く構成できます。逆に、他人を勧誘した事実や、複数の役割を兼ねた事実があると、射程は広がります。
報道された事例
神奈川新聞は、2025年1月9日、中国籍の29歳の男性が、他人名義のキャッシュカードをコンビニエンスストアの現金自動預払機で使用したとして、電子計算機使用詐欺の疑いで再逮捕されたと報じました。報道では、約2000万円の不正送金に関わったとされています。逮捕段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。報道からは在留資格が分かりません。ここで注意していただきたいのは、報道に出る約2000万円という数字が、そのまま個人の責任範囲を意味するわけではないということです。捜査の対象となっている事件全体の規模と、起訴状に書かれる犯罪事実の範囲は、別のものです。
切り出しに成功すると、何が変わるのか
第1に、量刑が変わります。被害額は量刑を左右する中心的な要素ですから、認定額が下がれば刑も軽くなる方向に働きます。入管法24条第4号の、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者という退去強制事由は、全部執行猶予が付けば同号のただし書により除かれますから、実刑か執行猶予かの境目に立っている事案では、認定額の切り出しがそのまま在留の可否に直結します。第2に、没収・追徴の範囲が変わります。自分が受け取っていない金額まで追徴されることを防ぐ意味があります。第3に、審理の見通しが変わります。争点が絞られれば、公判の回数が減り、身柄拘束の期間にも影響します。
ご家族に保全していただきたい記録
関与範囲を切り出す作業は、記録が残っているかどうかで結果が変わります。ご家族には、次のものを保全していただくようお願いしています。第1に、本人の通信端末そのもの、および可能であればアカウントの復元手段です。第2に、本人名義の口座の入出金明細、電子決済の履歴、送金記録です。第3に、渡航歴と滞在先を示す資料、在留カードと旅券の写しです。第4に、本人の生活状況を示す資料、家賃、給与、学費の支払記録です。これらは、本人が組織の中枢にいなかったこと、経済的に困窮していたこと、限られた期間しか関わっていなかったことを示す材料になります。なお、証拠を消したり作り替えたりすることは、罪証隠滅として身柄拘束を長引かせるだけでなく、それ自体が新たな問題を生みます。あるものをそのまま残すことが、最も有利に働きます。
中文版:涉案2000万日元的非法汇款,能否只让法院认定自己参与的那一部分
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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