外国人と日本で結婚するための必要書類|書類が揃わないときの対処法を弁護士が解説
2026/08/27
日本人と外国人が日本で結婚するとき、最初の関門になるのは「何をそろえれば役所は婚姻届を受け取ってくれるのか」という一点です。本国の証明書がどうしても手に入らない、パスポートが失効している、在留資格がない――こうした事情を抱えた方が窓口で「この書類がなければ受理できません」と告げられ、そこで手続が止まってしまう例は決して少なくありません。
もっとも、よく求められる「婚姻要件具備証明書」は、法令が定めた必須の添付書類ではありません。取得できないときには、取得できないなりの立証方法が実務上用意されています。本記事では、必要書類を整理したうえで、書類が揃わない場合に役所・法務局とどう交渉するかを、2026年8月時点の情報に基づいて解説します。
日本で外国人と結婚するときに適用される法律
婚姻が成立するための実質的な要件(婚姻年齢、重婚でないこと等)は、各当事者につきその本国法によります(法の適用に関する通則法24条1項)。他方、婚姻の方式は婚姻挙行地の法によるとされ、日本で婚姻が挙行され、当事者の一方が日本人であるときは、日本法の方式によらなければなりません(同条2項・3項ただし書)。つまり、日本で結婚する以上、市区町村役場への婚姻届は避けて通れません。
婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって効力を生じます(民法739条1項)。届出の場所について、外国人に関する届出は届出人の所在地ですることとされ(戸籍法25条2項)、この「所在地」には一時の滞在地も含まれると解されています。
この構造から、役所の審査の中心は「外国人側が本国法上の婚姻要件を満たしているかどうか」に置かれます。婚姻要件具備証明書は、その点を証明するための手段として求められているものです。
必要書類の一覧
日本方式で婚姻届を提出する場合の基本的な書類は、次のとおりです。
日本人側
- 婚姻届(成年の証人2名の署名が必要)
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート等)
- 戸籍証明書(戸籍謄本)――令和6年3月1日施行の改正戸籍法により、本籍地以外の窓口でも職員が本籍地の戸籍を確認できるようになったため、添付は原則として不要になりました。ただし運用に差があるため、事前確認をお勧めします
外国人側
- 婚姻要件具備証明書(独身証明書)とその日本語訳
- パスポート(国籍を証明する書類)とその日本語訳
- 出生証明書(役所から求められる場合)とその日本語訳
- 在留カード、住民票等(求められる場合)
外国語で作成された書類には、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければなりません(戸籍法施行規則63条)。翻訳者に資格は不要で、当事者ご本人が訳しても差し支えありません。ただし、訳文に翻訳日・翻訳者の氏名・住所の明記を求める役所、認証印や欄外の記載まで訳出を求める役所もありますので、様式面は提出先に確認してください。
国籍別に注意すべき点
婚姻要件具備証明書に相当する書類の名称も、発行する機関も、国によって大きく異なります。主な国籍について、実務上つまずきやすい点を挙げます。
- 中国――在日中国領事館が発行する声明書と、その署名を証する公証書を組み合わせるのが一般的な取扱いです。2023年11月7日にアポスティーユ条約が日中間で発効し、在日中国大使館の領事認証業務が停止されたため、認証ルートが従前と変わっている点に注意が必要です。
- 韓国――婚姻関係証明書および基本証明書を用います。いずれも「詳細版」でなければ受理されないことが多く、一般版・簡略版を取得してしまう失敗が目立ちます。
- ベトナム――在日ベトナム大使館・総領事館が婚姻要件具備証明書を発行しますが、その前提として本国の人民委員会等が発行した婚姻状況証明書(発行から6か月以内の原本)と、来日後の独身状態を示す書面が必要です。後者として日本の市区町村が発行する「婚姻の届出をしていないことの証明書」を使う場合、在日中の全期間をカバーする必要があり、転居歴の多い方は複数の自治体から集めることになります。
- フィリピン――在日フィリピン大使館が発行するLCCM(婚姻要件具備証明)を用います。CENOMAR(婚姻記録不存在証明書)は発行から6か月のみ有効です。フィリピン法は離婚を認めないため、フィリピンでの婚姻歴がある方は、婚姻無効・取消しの確定判決等が別途必要となり、ここが最も詰まりやすい局面です。
- タイ――在東京タイ王国大使館等は2020年4月1日をもって婚姻要件具備証明書の発行を停止しています。現在は、タイの市区役所が発行した婚姻状況証明書にタイ外務省の認証を受け、その認証から3か月以内に大使館の認証を受けたものを提出する運用です。
- アメリカ合衆国――米国政府は婚姻要件具備証明書を発行しません。さらに2025年9月1日以降、在日米国大使館・領事館は従来行っていた宣誓供述書の公証も取りやめました。米国各州の公証人による宣誓供述書(可能な限りアポスティーユ認証を取得)等で対応することになりますが、役所が受け付けるかどうかは事前確認が不可欠です。
- 台湾――台北駐日経済文化代表処が結婚要件具備証明書を発行します。台湾に戸籍がない方は宣誓書によることになりますが、この宣言書を受け付けない市区町村があることを、代表処自身が注意喚起しています。
他方、ネパール、ミャンマー、モンゴル、スリランカ、バングラデシュなどは、公館の公式情報から書類名を確認できないことがあります。こうした国については、大使館・領事館への直接照会が出発点になります。在ネパール日本国大使館は、婚姻手続の代行を称する業者から偽造証明書を渡され高額請求を受ける被害について公式に注意を促していますので、書類の入手経路にも十分ご注意ください。
婚姻要件具備証明書が取れないときの対処法
ここが本記事の中心です。まず押さえていただきたいのは、婚姻要件具備証明書は法令上の必須の添付書類ではないという点です。戸籍実務では、外国人当事者が本国法上の婚姻要件を満たすことを市町村長に立証すべきものとされ、その原則的な立証方法として同証明書の添付が求められているにすぎません(昭和24年5月30日民甲第1264号民事局長回答)。
したがって、証明書が取れないことは「要件を満たさない」ことを意味しません。立証方法が原則形に戻り、本国法の内容と身分関係の事実を個別に立証する、というだけのことです。実務上、次の3類型が代替手段として用いられています。
- 宣誓書――本国の領事等の面前で、婚姻年齢に達していること、本国法上の婚姻障害がないことを宣誓し、領事等が署名したもの。
- 婚姻証明書――外国人当事者の本国法の方式により日本国内で挙行された婚姻について発行された証明書を、要件具備を包括的に証明したものとみて受理する取扱い。
- 申述書を中心とする組合せ――申述書に、国籍を確認できる資料、出生証明書、身分関係を証する書面、本国法の該当条文の写しとその訳文を添えるもの。実務の中心はこの類型です。
申述書に法定の書式はありません。実務上は、①婚姻要件具備証明書を提出できない理由(本国に発給制度がない、本国官憲が身分関係を把握していない、発給を拒否された、本国に渡航できない等)、②現在独身であり重婚とならないこと、③本国法上の婚姻年齢に達し、その他の婚姻障害がないこと、④氏名・生年月日・国籍・父母の氏名等の身分関係事実、⑤記載内容が真実である旨と署名、を記載します。
先例上も、申述書のみ、あるいは申述書と出生証明書等の組合せで受理を認めた例が積み重ねられています。本国官憲が身分関係を把握していなかったバルバドス人の事案(平成7年3月30日民二第2644号回答)、発給制度がなかったルーマニア人の事案(平成4年6月30日民二第3763号回答)、発給を拒否されたモロッコ人の事案(昭和62年7月2日民二第3458号回答)などが代表例です。在日コリアン・台湾出身の方については、申述書と身分関係を証する書面によって受理して差し支えないとする通達も古くから存在します(昭和30年2月9日民甲第245号通達)。
役所・法務局との交渉――「受理伺い」をどう乗り切るか
市町村長は、戸籍事務の取扱いに疑義を生じたときは、管轄法務局等を経由して法務大臣に指示を求めることができます(戸籍法施行規則82条)。実務で「受理伺い」「受理照会」と呼ばれる手続です。書類が揃わない婚姻届の多くは、この照会に付されます。
その実情は、総務省行政評価局の令和4年1月の報告書(16法務局が平成29年4月から令和2年10月末までに回答した渉外的婚姻届に関する受理照会181件を調査)が具体的な数字で明らかにしています。受理照会から回答までの平均日数は40.5日、100日以上を要した事例が14件、最も日数を要した事例は528日でした。同報告書は、法務局内での判断基準がないことなどから、同一国に係る同種の照会について同一法務局管内でも指示が異なる状況がみられたことも指摘しています。
しかも、戸籍事件に関する市町村長の処分については行政手続法第2章・第3章の規定が適用されません(戸籍法127条)。審査基準を定めて公にする義務も、標準処理期間を定める努力義務も及びません。期間の法的な歯止めが制度上存在しないのです。
だからこそ、この段階での準備と交渉が結果を分けます。代替書面を過不足なく整えること、可能な範囲でアポスティーユや領事認証を付して真正性の審査を省かせること、そして法務局が何を確認したいのかを先回りして書面で示すこと。これらは照会の期間を短縮し、あるいは照会自体を回避することに直結します。
当事務所は、必要書類が揃わない事案について法務局と交渉し、婚姻を成立させた実績を有しています。たとえば、観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻・認知の手続が未了であったため当局から一旦不受理とされました。松村弁護士が憲法的観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという困難な状況下でも、入管当局の過去の許可事例を分析して在留特別許可の獲得に至っています。
不受理となった場合に争う方法
意外に知られていませんが、婚姻届の不受理は争うことができます。もっとも、その道筋は通常の行政処分とは異なります。戸籍事件に関する市町村長の処分またはその不作為については、審査請求をすることができません(戸籍法123条)。行政不服審査法のルートは閉ざされています。
代わりに用意されているのが、家庭裁判所への不服申立てです。戸籍事件について市町村長の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができます(戸籍法122条)。申立先は、届出人の住所地ではなく、市区町村役場の所在地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法226条4号)。家庭裁判所は当該市町村長の意見を聴かなければならず(同法229条2項)、申立てを理由があると認めるときは、当該市町村長に対し相当の処分を命じなければなりません(同法230条2項)。単に不受理を取り消すのではなく、「受理せよ」という処分命令が可能な建て付けになっている点が重要です。
よくある3つの誤解
誤解1「在留資格がなければ婚姻届は受理されない」――これは誤りです。婚姻の届出は、民法の定める婚姻障害に関する規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ受理することができないとされていますが(民法740条)、ここに在留資格は含まれません。婚姻の実質的成立要件は各当事者の本国法によるのであって(通則法24条1項)、在留資格は日本の行政法上の地位にすぎません。届出の場所も、住民登録ではなく所在地で足ります(戸籍法25条2項)。
誤解2「パスポートの原本がなければ受理できない」――前掲の総務省報告書によれば、法務省は、国籍証明書であるパスポートの原本を提出できない場合には、写しとともに提出できない理由を記した申述書を提出させたうえで、婚姻届の受理の可否を総合的に判断することが考えられる、との見解を示しています。実際に、申述書とパスポートの写しにより婚姻届が受理された事例も報告されています。
誤解3「結婚すれば在留資格が得られる」――これも誤りです。婚姻届の受理と在留資格の取得はまったく別の手続です。不法残留の状態にある方が正規の在留を回復するには、入管当局に出頭し、退去強制手続の中で在留特別許可(入管法50条)を求めることになります。婚姻の成立は、その審査において重視される事情の一つではありますが、それ自体が在留資格を生むわけではありません。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、中国籍の方をはじめとする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。婚姻届の受理をめぐる交渉は、その延長線上にある業務です。
前記のとおり、在留資格を失い不法滞在で起訴された相談者について、婚姻・認知が一旦不受理とされた状況から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない中で在留特別許可の獲得に至った事例があります。また、冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の事案では、「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して争い、その後入管から在留特別許可が認められました。行政の運用を所与のものとせず、憲法・行政法の水準で正面から議論することが、結果として依頼者の権利を守ることにつながると考えています。
当事務所では、松村大介弁護士が初動から終結まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、中国語以外の言語についても事案に応じて通訳人を手配いたします。婚姻成立後の在留資格の申請については、提携する行政書士とともにワンストップで対応いたします。
※ 過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
結語
「書類が揃わないから結婚できない」と言われたとき、そこで諦める必要はありません。婚姻要件具備証明書は法令上の必須書類ではなく、取得できない事情がある場合には、申述書を中心とする代替の立証に切り替えることが実務上認められています。問題は、その切り替えを窓口で受け入れてもらえるか、そして受理照会をどう乗り切るかにあります。準備の質と交渉の筋道が、そのまま結果を左右します。
本記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。各国の公館の取扱いは頻繁に変わりますので、書類名や様式は必ず提出先の役所と当該国の公館にご確認ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
他の言語版: 日本語 | 简体中文 | English | Tiếng Việt | 한국어
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に民事事件に対応
東京にて行政事件に関する対応
----------------------------------------------------------------------