刃物を持っていただけで罪になるのか 銃刀法の携帯規制と傷害の関係
2026/09/01
「果物ナイフを鞄に入れていただけで捕まった」というご相談は、決して珍しくありません。日本では、人を傷つけていなくても、刃物を持ち歩く行為それ自体が処罰の対象になります。中国から来られた方には、この感覚が伝わりにくく、護身用や仕事用のつもりで携帯していた道具が、そのまま刑事事件になってしまうことがあります。この記事では、規制の構造、正当な理由がどこまで通るのか、職務質問で発覚する典型的な場面、そして傷害が加わったときに何が変わるのかを説明します。
「所持」と「携帯」は別の話である
銃砲刀剣類所持等取締法は、刃体の長さが6センチメートルを超える刃物について、業務その他正当な理由による場合を除き、携帯してはならないと定めています。ここでいう携帯とは、自宅など一定の場所以外の場所で、直ちに使用できる状態で身に付け、または携えていることを指します。自宅の台所に包丁があること自体は当然に適法ですが、それを鞄に入れて街を歩けば携帯にあたります。刃体が6センチメートル以下であっても、軽犯罪法は、正当な理由なく刃物や鉄棒などの器具を隠して携帯する行為を処罰しています。つまり、小型のナイフだから問題ないという理解は誤りです。
正当な理由はどこまで認められるのか
実務で問題になるのは、この正当な理由の範囲です。調理の仕事に従事し、勤務先との往復のために包丁を運んでいる、購入した直後に販売店から自宅へ持ち帰っている、釣りやキャンプに向かう途上である、といった事情は正当な理由になりえます。ただし、運搬の態様が重要です。刃を包み、箱や工具袋に収め、直ちに取り出せない状態にしていれば説明がつきますが、上着のポケットや鞄の外側に、すぐ使える形で入っていれば、説明は苦しくなります。他方、護身のために持っているという説明は、日本の実務では正当な理由として認められにくいものです。過去に襲われた経験があるといった事情があっても、その一事で携帯が適法になるわけではありません。
職務質問で発覚する典型的な場面
この類型の多くは、深夜の路上や駅周辺での職務質問をきっかけに発覚します。警察官が声をかけ、所持品検査を求め、鞄の中から刃物が出てくる、という流れです。所持品検査は、令状に基づく捜索とは異なり、本来は本人の承諾を前提とする任意の手続です。もっとも、その場で拒否を続けることは現実には容易ではありません。重要なのは、承諾していないのに鞄を開けられた、その場でのやり取りに納得していない、といった事情がある場合に、後からその経緯を正確に主張できるようにしておくことです。取調べで説明した内容は調書に残ります。日本語の説明を十分に理解しないまま署名することは避け、通訳を求めてください。
傷害や脅迫が加わったときに何が変わるか
刃物を持っていただけの事案と、それを人に向けた事案とでは、まったく次元が異なります。相手に見せて畏怖させれば脅迫となり、傷つければ傷害となります。傷害罪の法定刑は15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金であり、刃物を用いた点は量刑上重く評価されます。さらに、刃物で人を刺した事案では、殺意の有無が最大の争点となり、殺人未遂として立件されれば、後述のとおり裁判員裁判の対象になります。刃物の携帯と傷害が同時に成立する場合は併合罪として処理され、刑が加重されます。所持それ自体の事件と、人身被害を伴う事件とで、見通しはまったく別に立てる必要があります。
統計と、在留資格への影響
法務省『令和7年版犯罪白書』(対象年次は令和6年)によれば、銃刀法違反の起訴率は全体で16.71%、来日外国人で20.57%、来日外国人の終局処理人員は216人でした。起訴に至る割合はそれほど高くありませんが、これは事案が軽いことを意味するのではなく、態様に幅があることの反映です。警察庁『令和6年における組織犯罪の情勢』によれば、中国籍の特別法犯検挙件数1,087件のうち銃刀法違反は49件で4.5%でした。在留については、銃刀法違反は入管法24条4号チが列挙する薬物関係の法令に含まれません。したがって、罰金や執行猶予にとどまれば直ちに退去強制事由となるものではなく、4号リの適用、すなわち1年を超える実刑かどうかが分岐となります。ただし在留期間の更新では素行が独立に評価されますから、罰金であっても更新の場面で説明を求められることがあります。
ご家族が確認しておくこと
まず、その刃物を入手した経緯、購入日、用途を示す資料を集めてください。領収書、勤務先の業務内容が分かる資料、趣味の活動を示す記録は、正当な理由の主張を裏づけます。次に、運搬の態様を説明できる材料、たとえば普段どのように収納していたかを整理してください。そのうえで、身元引受人と、住居や就労先または通学先が維持されていることを示す資料を用意します。この類型は、初犯であれば起訴猶予や略式手続による罰金で終わることもありますが、その判断は起訴前の短い期間に行われます。早い段階での弁護人の関与が結果を左右します。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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