被害弁償のお金を中国のご家族が用意する場合、処分決定までに間に合わせる段取り
2026/09/01
日本で刑事事件の被疑者となったご本人に代わって、中国にいるご家族が被害弁償のお金を用意する。実際に非常によくある形ですが、ここには時間との勝負という問題があります。刑事処分は待ってくれず、送金には日数がかかるからです。この記事では、なぜ処分が決まる前に間に合わせることに意味があるのか、中国から日本へ資金を動かすときにどこで時間を失うのか、弁護士の預り金口座を使う意味は何か、そして間に合わないと分かったときに何ができるのかを、順に説明します。この段取りを知っているかどうかで結果が変わることがあります。
なぜ「処分が決まる前」でなければならないのか
日本の刑事手続では、逮捕から72時間以内に勾留が請求され、勾留は原則10日、延長されて最大20日です。この間に検察官が起訴するか不起訴にするかを決めます。つまり、被害弁償や示談が処分の判断に反映されるには、この20日ほどの枠の中に間に合わせる必要があるのです。法務省『令和7年版 犯罪白書』によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴猶予率は48.35%、終局処理人員1万8,696人のうち起訴猶予は7,478人でした。起訴率は44.28%で、日本人を含む全体の40.38%を3.9ポイント上回っています。約半数が起訴猶予で終わっているという事実は、起訴される前の段階でどれだけのことができるかが結果を大きく分けることを示しています。起訴された後に弁償しても意味がないわけではありませんが、不起訴という結論を得る機会は、起訴の瞬間に失われます。
中国から日本へ送金するとき、どこで時間を失うか
中国から日本への送金には、中国側の外貨管理に関する手続と、銀行の確認作業という二つの関門があります。送金の目的や金額によって求められる書類が変わり、窓口での確認、着金までの日数、さらに日本側の銀行での入金確認と、段階ごとに日が積み上がります。休日を挟めばさらに延びます。ご本人が勾留されている20日という枠を考えると、家族が「送金しよう」と決めてから実際に日本で使える状態になるまでの日数は、決して余裕のあるものではありません。ですから、順番を逆にしてください。まず弁護人に事件の見通しと必要になり得る金額の幅を確認し、送金の準備を同時並行で始める。示談の話がまとまってから送金を始めるのでは、多くの場合、間に合いません。なお、当事務所は送金そのものを代行することはできませんので、具体的な手続は取引のある金融機関にご確認ください。
日本国内に受け皿を作る。弁護士の預り金口座を使う意味
ご本人は勾留されており、銀行へ行くことも、口座を操作することもできません。そこで、日本国内に受け皿を用意する必要があります。日本にいる親族や信頼できる知人の口座を使う方法のほか、弁護人が預り金として管理する方法があります。弁護士の預り金口座を使う実務上の利点は三つあります。第一に、被害者側に対して資金の出所と管理が明確になり、交渉の信用が増すこと。第二に、被害者に対してご本人やご家族の住所・口座情報を知らせずに支払いができること。被害者が加害者側の連絡先を知ることを望まない事件では、これは決定的です。第三に、示談が成立しなかった場合の返還の道筋がはっきりしていることです。逆に言えば、送金先を決める前に弁護人と相談しないと、資金が動かせない場所に滞留する事故が起きます。
示談交渉はいつ始まり、何が決まるのか
示談の交渉は、まず弁護人が検察官を通じて被害者の意向を確認するところから始まります。被害者の連絡先は、被害者が承諾した場合に弁護人に限って伝えられるのが通常で、ご家族が直接連絡を取ることはできません。交渉では、支払う金額のほか、謝罪の方法、宥恕(許すという意思)の有無、被害届や告訴を取り下げるか、口外しない約束をするかといった点が決まります。ここで大切なのは、宥恕が得られなくても被害弁償には意味があるという点です。被害が現実に回復されたという事実は、それ自体が処分の判断で考慮されます。被害者が受け取りを拒む場合や、被害者が特定できない類型の事件では、贖罪寄付や供託といった別の方法を検討することになります。どの方法を取るかは事件の性質によりますので、弁護人と相談してください。
在留資格のことを同時に考えておく
中国語圏のご家族が最も気にされるのは、結局この人は日本にいられるのかという点だと思います。刑事処分と在留は連続しています。出入国管理及び難民認定法(入管法)の退去強制事由のうち、24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としますが、但書により全部執行猶予は除かれます。他方、24条4号チの薬物関係は有罪判決のみで足り、罰金や執行猶予でも該当します。つまり罪名によって、刑事処分の意味がまったく違うのです。被害弁償によって不起訴を得られれば、そもそも有罪判決という前提が生じません。被害弁償の原資を急いで用意することは、単に刑を軽くするためだけでなく、在留を守るための行動でもあります。もっとも、不起訴になれば入管が何も問題にしないというわけではなく、この点は別の記事で詳しく説明しています。
間に合わないと分かったときにできること
それでも資金が間に合わないことはあります。その場合でも打つ手はあります。まず、弁償の意思と原資の確保状況を書面で示す方法です。中国のご家族の資産証明、送金手続に着手した記録、日本の親族の上申書などを弁護人が検察官に提出し、支払意思が確実であることを示します。次に、分割による支払いの合意を目指す方法。一括で払えないことを理由に交渉を諦めるのは早計です。さらに、被害額の一部を先に支払い、残額の支払計画を約束する方法もあります。ご家族が今日できることを整理すると、弁護人の選任、事件の見通しと想定される金額の確認、資金の所在と送金に要する日数の把握、日本国内の受け皿の決定、そして在留カードと旅券の所在確認です。金額の話に入る前に、この五つを押さえておくと、いざというときに動けます。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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