罰金で終わる事件と、法廷で審理される事件は、どこで分かれますか
2026/09/01
「日本で不法就労で捕まったが、罰金をいくら払えば帰ってこられるのか」という質問を、中国語で本当によくいただきます。しかし日本の制度では、罰金で終わるかどうかは金額の問題ではなく、罪名と手続の選択の問題です。この記事では、罰金で完結する略式手続と、法廷で審理される公判手続が、どこで分かれるのかを説明します。あわせて、罰金であっても前科として記録が残ること、そして在留資格への影響は罰金か公判かという分かれ目とは別の軸で決まることもお伝えします。金額のお答えはできませんが、判断の枠組みはお示しできます。
結論:罰金で終わるかどうかは、罪名と手続の選択で決まります
まず前提として、罰金という刑罰を選べるのは、その罪の法定刑に罰金が定められている場合だけです。たとえば不法残留の罪は入管法(出入国管理及び難民認定法)70条1項5号にあり、法定刑は柱書で3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科と定められています。罰金の選択肢がある罪です。これに対し、法定刑に罰金が用意されていない罪では、そもそも罰金で終わることはありません。ここが第一の分岐点です。
略式手続とは何ですか
罰金で事件が終わる典型は、略式手続です。これは、簡易裁判所が、公開の法廷を開かずに書面の審理だけで罰金または科料を言い渡す手続です。検察官が略式命令を請求し、裁判所が書面で判断します。要件は大きく三つです。第一に、簡易裁判所が扱える範囲の事件であること。第二に、罰金または科料を科すのが相当と判断されること。第三に、被疑者本人が、略式手続によることに異議がない旨を書面で明らかにしていることです。三つ目が重要です。本人の同意なしに略式手続に進むことはできません。したがって「知らないうちに罰金が決まっていた」ということは、制度上は起こりません。外国人の事件では、この同意の場面が通訳を介して行われるため、内容を理解しないまま署名してしまう危険があります。何に同意しているのかを、その場で確認してください。なお、略式命令に納得できない場合には、法律で定められた期間内に正式な裁判を求めることができます。
どういう事件が公判になりますか
法定刑に罰金がない罪、被害が大きい事件、否認している事件、組織的な関与が疑われる事件、前科がある事件、同種行為を繰り返している事件は、公判で審理される方向に傾きます。逆に、初めての違反で、事実を争っておらず、被害弁償が済んでいるか被害者がいない類型で、生活の基盤がはっきりしている場合には、略式による罰金や、そもそも不起訴で終わることもあります。法務省『令和7年版犯罪白書』によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の終局処理18,696人の内訳は、公判請求7,153人、略式命令請求836人、起訴猶予7,478人、その他の不起訴2,576人でした。略式で終わる件数は、思われているより多くありません。多数派はむしろ、公判請求か起訴猶予かという分かれ道の上にいます。
罰金でも前科です。ここを軽く見ないでください
中国語の相談で最も誤解が多いのがここです。罰金は「お金を払って終わり」ではありません。罰金も刑罰であり、有罪判決を受けたという記録が残ります。この点は、在留資格を考えるときに決定的な意味を持つことがあります。たとえば入管法24条4号チが定める薬物関係の退去強制事由は、有罪判決があれば足り、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。在留資格の種類も問いません。また、薬物に関する上陸拒否の定めには年限がなく、罰金であっても期間の定めのない上陸拒否につながり得ます。一方で、24条4号リ(無期または1年を超える拘禁刑)は、その性質上、罰金では該当しません。「罰金だから軽い」ではなく、「罪名によって、罰金でも重大な効果が生じる」というのが正確な理解です。
不起訴と罰金は、どちらが望ましいですか
刑事処分としても在留の観点からも、不起訴のほうが望ましいことが多いといえます。不起訴であれば有罪判決を受けていないため、有罪判決を前提とする退去強制事由には当たりません。ただし、不起訴になっても、在留期間の経過という事実そのものが退去強制の事由になる場合があります。実際、令和7年の出入国管理統計では、退去強制令書の発付総数7,722人のうち、不法残留(24条4号ロ)が5,778人と圧倒的多数を占めています。刑事の結論と入管の結論は別の回路で決まる、ということを押さえておいてください。
ご家族が準備できること
罰金で済ませたい、という発想よりも、どの結論が在留と将来にとって最も損害が小さいかという発想で組み立ててください。具体的には、被害者がいる類型なら被害弁償の原資の確保、初犯であることや生活基盤を示す資料の準備、勤務先や学校の対応の見通し、旅券と在留カードの所在の確認です。罰金が言い渡された場合、その支払をどう工面するかも現実の問題になります。支払ができない場合の取扱いは別に定めがありますので、支払が難しいと分かった時点で弁護人に相談してください。また、略式の同意書に署名を求められる場面では、内容を通訳に確認し、可能なら弁護人に相談してからにしてください。なお、当事務所では弁護士報酬の金額をこの記事に記載していません。費用は事件の内容によって異なるためで、ご相談の際に個別にご説明します。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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