加害者も被害者も外国人 示談と通訳と送金をどう進めるか
2026/09/01
日本の交通事故で、加害者も被害者も外国籍という事案が増えています。この場合、示談の交渉は、通訳、送金、相続の確認、母国の家族との連絡という四つの壁を同時に越えなければ進みません。この記事では、報じられた三件の事故を対比しながら、外国人同士の事故で何から手を付けるべきか、そして事故の態様によって争点がどう変わるのかを説明します。中国籍の方とそのご家族に向けた記事です。
報じられている三件
第一に、琉球新報が2026年5月12日に報じたところによれば、沖縄県豊見城市で、中国籍の23歳の女子大学生が国道の交差点を軽自動車で右折する際、対向直進の原動機付自転車と衝突し、バングラデシュ国籍の35歳の運転者が頸椎骨折などにより死亡したとして、過失運転致死の疑いで逮捕されました。第二に、静岡朝日テレビが2026年6月1日に報じたところによれば、静岡県浜松市で、中国籍の53歳の会社員の男性が、深夜に軽乗用車を酒気帯びで運転して中央分離帯に衝突する単独事故を起こしたのに通報せず現場を離れた疑いで、約1か月後に逮捕され、否認しているとされています。第三に、日テレNEWSが2026年5月1日に報じたところによれば、東京都板橋区で、中国籍の20代の男性が乗用車で車4台と自転車2台に相次いで衝突し、警察官2人を含む6人が負傷したとして現行犯逮捕され、「気がついたら事故を起こしていた」と述べ、現場にブレーキ痕がなかったとされています。いずれも疑いで逮捕されたと報じられているにとどまり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
被害者が外国籍の死亡事故で、示談は誰と行うのか
死亡事故では、示談の相手は亡くなった方のご遺族です。ここで最初につまずくのが、誰が正当な相手方かという確認です。被害者の本国法によって相続人の範囲が異なりますから、配偶者、子、両親のうち誰と合意すれば紛争が蒸し返されないのかを、書類で確認する必要があります。母国の身分証明書、婚姻証明、出生証明の翻訳が必要になり、これに数週間から数か月を要することがあります。交渉の言語も問題です。加害者が中国語、被害者側が別の言語である場合、日本語を介した二重の通訳になり、微妙な表現が失われます。示談書は、日本語の正文に加えて、双方が理解できる言語の訳文を添えるのが実務です。送金についても、日本国内の口座か、母国の口座か、誰の名義かを最初に確定してください。国外送金は着金までに日数がかかり、起訴前の限られた期間には収まらないことがあります。
酒気帯びの検知手続はどこを争えるのか
単独事故の後に現場を離れ、後日になって飲酒運転を問われる事案では、事故の時点でどれだけのアルコールが体内にあったかが直接には測れません。捜査機関は、後の呼気検査の数値や、飲酒量と時間からの推計によって、事故時点の数値を主張します。弁護人が確認するのは、呼気検査に用いた器材の種類と較正の記録、検査までの経過時間、うがいや飲食の有無、検査に至る手続に任意性があったか、そして推計の前提となる飲酒量と体重の数値が誰の供述に基づくのかという点です。事故から検知までに時間が空いているほど、推計の前提は不確かになります。あわせて、この類型では、事故の不申告と危険防止措置を講じなかったことも別に問われますから、否認の範囲を罪名ごとに整理しておかなければ、全体の説明が崩れます。
気がついたら事故を起こしていたという場合に検討すべきこと
連続して複数の車両に衝突し、ブレーキ痕が残っていない事故では、単なる不注意ではなく、意識の低下や喪失が背景にある可能性を検討する必要があります。睡眠時無呼吸、てんかん、低血糖、薬の副作用、極端な長時間労働。これらは、過失の内容や責任能力の評価に関わるだけでなく、再発防止の計画を立てるうえでも重要です。ご家族が知っている通院歴や服薬の情報は、初期の段階で弁護人に伝えてください。ただし、病気を主張することが常に有利とは限りません。病歴を知りながら運転していたと評価されれば、かえって非難が強まります。診断と資料の裏づけを取ってから、主張の方針を決めるべき領域です。
通訳の質が結論を左右する
令和6年の犯罪白書によれば、被告人に通訳が付いた通常第一審の終局人員は4,649人で、通訳言語は41言語に及びます。最も多いのはベトナム語の1,794人で全体の38.6パーセント、中国語は726人で15.6パーセントの第2位です。中国語の事件は決して珍しくありませんが、方言や専門用語の扱いで訳が揺れることはあります。取調べの調書は、日本語で作成され、通訳を介して読み聞かせられます。理解できない箇所は署名を留保できますし、訂正を申し立てることもできます。この権利を知らないまま署名を重ねてしまうと、後の公判で覆すのは容易ではありません。
ご家族が今日できること
まず、任意保険の有無と補償の範囲を確認してください。次に、被害者側と直接連絡を取ろうとせず、弁護人を通してください。善意の接触が、被害者にとっては威圧と受け取られ、勾留や保釈の判断に影響することがあります。そして、示談の原資と送金経路を早く決めることです。中国のご家族が費用を負担する場合、金融機関の手続に日数がかかります。あわせて、勤務先や大学への説明の時期、在留カードと旅券の保管場所、通院歴の資料を整理してください。初回のご相談は無料ですので、ご本人が拘束されている段階でも、ご家族からご連絡ください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------