外国人を雇ったことにして人件費を水増しした脱税 名義を貸した側の危険
2026/09/01
会社の税務が問題になる事件のうち、外国人の在留資格と最も深く関わるのが、雇っていない人を雇ったことにして人件費を膨らませる類型です。この手口は、名義を貸してくれる人がいなければ成り立ちません。そして名義を貸した側は、報酬をもらっただけのつもりでも、複数の法律に触れる可能性を抱えます。この記事では、報道された事案をもとに、立証の中心がどこにあるのか、名義を貸すとどのような経路で刑事事件に巻き込まれるのかを説明します。
報道されている事案
産経新聞は2026年8月10日、東京都中央区の情報システムソフト開発会社と、中国籍の男性社長(47)について、多数の外国人を雇用しているように装って所得を圧縮し、8,200万円を脱税したとして、東京国税局が東京地方検察庁特別捜査部に告発したと報じました。報道によれば、交流サイトを通じて応募した中国人らに銀行口座を作らせ、そこに振り込むことで給与の支払いを装う手口とされ、在留資格の取得の相談に応じるとうたって協力者を集めていた疑いがあるとも伝えられています。告発の段階であり、起訴・有罪が確定したものではなく、無罪推定が及びます。
国税の告発から刑事手続へ、という流れ
脱税の事件では、まず国税当局の調査があり、その結果に基づいて検察官に告発されるのが通常の流れです。告発は捜査の端緒であり、それ自体が処分ではありません。ただし、告発に至る段階で、帳簿、預金の動き、関係者の聴取結果といった資料はすでに相当程度そろっています。刑事手続に入ってから一から事実が調べられるのではなく、出来上がった構図の当否が問われる形になります。したがって、弁護活動も、税務調査の段階で何をどう説明したかを踏まえて組み立てることになります。
立証の中心は、名義人の供述にある
この類型では、給与の振込記録という外形は整っています。だからこそ、実際には働いていなかったという内実を示すには、名義人本人の説明が不可欠です。いつ、誰から、どのように誘われたのか。口座は誰が作り、通帳とカードは誰が持っていたのか。振り込まれた金はどうなったのか。これらの供述が、事件の骨格を作ります。
裏を返せば、供述が揺らげば立証も揺らぎます。名義人の中には、日本語での説明が十分に理解できないまま署名した方、実際に短期間は働いていた方、報酬の趣旨を誤解していた方が含まれます。名義人として事情を聴かれる立場になったときは、記憶にないことを流れで認めないことが、自分自身を守ることにも、事案の正確な解明にもつながります。
名義を貸した側は、どの法律に触れるのか
まず、自分が使うつもりのない銀行口座を作って他人に渡す行為は、犯罪による収益の移転防止法が禁じるところに触れる可能性があります。他人になりすまして口座を開設したのであれば、金融機関に対する詐欺が問題になることもあります。次に、脱税の実行に協力したと評価されれば、税に関する法令違反の共犯として扱われる可能性が生じます。さらに、在留資格に関する申請で虚偽の就労実態を示す資料が使われれば、入管法上の問題にも波及します。
実際に、名義を使われた側が被害に気づく経路として、読売新聞が2023年10月6日に報じた事案が参考になります。福岡市博多区の台湾料理店の経営者ら男女4人が、中国人留学生を雇用して休業手当を支給したように装い、緊急雇用安定助成金を計約57万円受給したとされる事件で、実際には雇用しておらず、在留カードの画像データだけが使われていたとされます。名義を使われた留学生が、税務申告書に身に覚えのない就労記録があることに気づいて届け出たことから発覚したと報じられています。この一件は、在留カードの画像を人に渡すことの危険を、はっきり示しています。
在留資格の相談に応じるという誘いに注意する
報道では、在留資格の取得の相談に応じるとうたって協力者を集めていた疑いがあるとされています。この誘い方は、在留に不安を抱える方の弱みを正面から突くものです。就労実態のない会社に所属したことにして在留資格を得ようとすれば、それ自体が虚偽の申請となり、在留資格の取消事由に当たり得ます。入管法は、虚偽の申請等を在留資格の取消事由として定めています(22条の4第2号、第3号)。令和7年の在留資格取消し1,446件のうち、第2号は48件、第3号は39件でした。数としては多くありませんが、いったん取り消されれば回復は容易ではありません。
いま声をかけられている方へ
口座を作ってほしい、在留カードの写真を送ってほしい、名前だけ貸してほしい。こうした依頼に対しては、報酬の多寡にかかわらず断ることをお勧めします。すでに渡してしまった場合は、渡した相手、日付、やり取りの記録を保存し、金融機関への連絡と弁護士への相談を急いでください。取引の停止や口座の凍結は不便ですが、被害の拡大を止める効果があります。
ご家族の立場では、在留カードと旅券の所在の確認、通帳とキャッシュカードの所在の確認、そして本人の口座に見覚えのない入金がないかの確認をお願いします。令和6年の犯罪白書によれば、来日外国人の被疑事件の起訴猶予率は48.35%であり、起訴前の段階での説明と資料の提出には現実の意味があります。事実関係を早く整理し、正確に伝えることが、最も確実な防御になります。
中文版:谎称雇用外国人虚增人工费的逃税——出借名义一方的风险
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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