逮捕されずに書類送検で終わった偽造香水の事件から、在宅事件を考える
2026/09/01
商標権を侵害する商品を扱ってしまった事件で、ご相談の入口は二つに分かれます。ある日突然逮捕されるか、家宅捜索を受けたあと在宅のまま捜査が進むか。後者は「在宅事件」と呼ばれ、身柄を拘束されないまま検察官に事件が送られます。この記事では、2,230点もの偽造品が押収されながら逮捕を経ずに書類送致された事案を手がかりに、身柄事件と在宅事件が何によって分かれるのか、任意の捜査に協力するかどうかをどう判断するのかを説明します。
報道された事件で、何が起きたか
フリマアプリで偽造香水を販売したとして、中国籍の40代の男性が代表を務める法人が商標法違反の疑いで捜査を受けた事件が公表されています。捜索は2025年9月5日に行われ、合計2,230点が押収され、書類送致は2026年1月9日でした。中国国内の別人が複数のアカウントで出品し、この法人が国内での発送を請け負っていたとみられると報じられています(ユニオン・デ・ファブリカン「事件簿」 2026年4月16日掲載。捜査は警視庁、会社と倉庫は大阪市内)。逮捕はされていません。もっとも、書類送致は捜査の終わりではなく、起訴・有罪が確定したものでもありませんから、被疑者には無罪推定が及びます。
身柄事件と在宅事件は、何によって分かれるのか
逮捕・勾留の理由は、住居が定まらないこと、証拠を隠すおそれがあること、逃げるおそれがあることです。法人として登記があり、事業所と倉庫が実在し、代表者の住居も特定されていて、捜索によって主要な証拠がすでに押収されている場合、これらのおそれは類型的に小さくなります。逆に、住居が転々としている、携帯電話を頻繁に変えている、関係者と口裏を合わせた形跡がある、といった事情があれば、押収点数が少なくても身柄事件になり得ます。押収された商品の点数それ自体が、逮捕するかどうかを決めるわけではありません。
任意の取調べに協力するかどうかの判断材料
在宅事件では、警察や検察から出頭を求められます。任意である以上、応じる義務はありませんが、正当な理由なく応じない状態が続けば、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると評価され、身柄事件に切り替わる引き金になり得ます。他方で、通訳を介した取調べでは、微妙な表現が調書に固定され、後から覆すのが難しくなります。判断の材料は、事実関係を争うのか量刑を争うのか、供述以外の客観証拠がどれだけ押収されているか、通訳の質を確保できるか、の三点です。出頭する場合でも、事前に弁護人と打ち合わせ、答えられない部分は答えないという態度を明確にしておくことができます。
書類送致の後に何が起きるか
書類送致の後、検察官が改めて呼出しを行い、必要な取調べをしたうえで、公判請求、略式命令請求、不起訴のいずれかを選びます。この段階が、弁護人にとって最も重要な時期です。権利者との示談、在庫の廃棄、販売経路の遮断、再発防止のための社内体制の整備といった事情を、検察官が判断する前に書面で示すことができるからです。在宅事件は時間があるように見えますが、処分が決まってしまえば戻せません。呼出しを待つのではなく、こちらから意見書を出す姿勢が結果を分けます。
在宅であっても、油断できない点があります
第一に、押収された商品の分析が進むにつれ、立件の対象が広がることがあります。第二に、法人と代表者の双方が処罰の対象となる仕組みがあり、会社に罰金、個人に刑という形で二重に及ぶことがあります。第三に、在宅のまま起訴されれば公開の法廷に立つことになり、報道の可能性も残ります。第四に、在庫を廃棄する際に記録を残さないと、証拠隠滅を疑われることがあります。廃棄は弁護人と権利者に連絡したうえで、写真と記録を残して行うのが安全です。
在留資格との関係と、ご家族の準備
身柄を拘束されないということは、就労を続けられ、在留資格の土台である活動を維持できるという意味で、非常に大きな利点です。他方、有罪となれば、在留期間の更新や在留資格の変更の審査で素行として評価されます。退去強制事由として問題になるのは、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた場合であり、全部執行猶予は除外されています。ご家族としては、仕入先とのやり取り、入金と出金の記録、真正品と信じた根拠になる資料を、時系列で整理しておいてください。それが故意の有無を争う際の中心的な材料になります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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