専門学校生が薬物事件で起訴されたら 学籍と在留はどうなるのか
2026/08/31
留学生が薬物事件の当事者になったとき、ご家族が真っ先に心配されるのは刑事処分の重さですが、実際にはそれと並行して、学校の在籍と在留資格という二つの手続が同時に進みます。しかも、この三つは進む速さが違います。刑事の見通しが立つ前に退学が決まり、退学から時間が経つと在留資格の側の問題が動き出す、という順序で事態が進むことが少なくありません。この記事では、報道された事例を手がかりに、留学の在留資格を持つ方が薬物事件に巻き込まれた場合の時間軸を整理します。
報道された事例 専門学校生が営利目的共同所持で逮捕
読売新聞の報道(2023年1月31日)によれば、埼玉県内に住む中国籍の20代の専門学校生の男性が、集合住宅の空き室に覚醒剤約1キログラムを隠して営利の目的で共同所持したなどとして、覚醒剤取締法違反と邸宅侵入の疑いで逮捕されたと報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。ここでは、この報道を、留学生が同種の嫌疑をかけられた場合に何が起きるのかを考えるための出発点として用います。なお、報道からは学校名や在籍状況の詳細は分かりません。
まず動くのは身柄と学校の在籍
逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求します。勾留は原則10日、延長でさらに10日まで続きます。営利目的の薬物事件では、この期間に接見禁止が付くことも多く、ご家族が本人と直接会えない状態が続きます。その間、学校側には出席のない状態が積み重なります。学校は、報道や捜査機関からの照会によって事情を把握することがあり、就学規程に基づく処分を検討し始めます。刑事処分が決まる前に退学や除籍が先行することがあるのは、この時間差によるものです。
留学の在留資格が前提とする活動
留学の在留資格は、日本の学校で教育を受ける活動を前提とするものです。したがって、在籍を失うと、その資格に対応する活動が失われます。入管法22条の4第5号は、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合を在留資格の取消事由として定めています。正当な理由があると認められる場合は除かれますが、身柄拘束が長期化し、そのまま退学に至った事案では、この規定が現実の問題として浮上します。令和7年の在留資格取消件数は1446件で、うち留学が343件(23.7%)を占めています(出入国在留管理庁の統計による)。
薬物の有罪は在留資格の種類を問わない
もう一つの経路が、退去強制事由です。覚醒剤取締法違反の有罪は、入管法24条4号チに当たり、刑の重さも在留資格の種類も問いません。罰金でも執行猶予でも該当し、この事由に当たると出国命令の制度は使えず、上陸拒否も期間の定めのない扱いとなります。つまり、留学生の場合、学籍を失う経路と、有罪による退去強制の経路が、別々に進行することになります。逆に言えば、不起訴を得られれば有罪判決は存在しませんので、24条4号チの経路は生じません。起訴前の弁護活動が、この分野で決定的な意味を持つ理由がここにあります。
並行して進む手続の時間軸
整理すると、おおむね次の順序です。逮捕から最大23日で起訴か不起訴かが決まります。起訴されれば公判が始まり、判決まで数か月かかります。その間、学校側の処分は独自の時間で進み、退学となれば活動の不継続が積算され始めます。判決が確定すれば、そこから入管の手続が動きます。実刑であれば刑の執行が終わってから収容の可否が問題となり、執行猶予であれば判決後ほどなく入管の手続に移ることがあります。この時間差を把握しておくと、どの段階で何を準備すべきかが見えてきます。
学校への説明はいつ、誰がするのか
ご家族が独断で学校に説明すると、事実関係が固まる前の説明が記録として残り、後に不利に働くことがあります。かといって連絡を絶てば、無断欠席として処理が進みます。実務では、弁護人が学校の担当者に対し、身柄拘束の事実と手続の見通しを、争点に立ち入らない範囲で伝えるという方法をとります。休学の手続が可能であれば、除籍を避けられる場合もあります。学費の納付期限、在籍の更新時期、進級判定の時期は学校ごとに違いますので、早い段階で確認しておくことが必要です。
ご家族が集めておくべき資料
刑事の情状としても、在留の判断材料としても使えるのは、本人の日本での生活の実質を示す資料です。入学以来の成績と出席の記録、学費の支払を誰が負担してきたかの資料、住まいの契約書、アルバイトの資格外活動許可の範囲と実際の勤務時間、日本にいる親族の状況、中国の家族が本人を支える意思と資力を示す資料。これらは、後に在留特別許可を求める段階で必要になります。書類は本人が拘束されている間に散逸しやすいので、部屋の明渡しを迫られる前に、弁護人と相談して保全してください。
在留特別許可を求めるという選択
退去強制の手続に進んだ場合でも、在留特別許可という道があります。令和7年の統計では、審査・口頭審理・異議申出を合わせて1030人に在留特別許可が出ています(出入国在留管理庁の統計による。国籍別の内訳は公表されていません)。もっとも、薬物事案は消極的に評価される事情ですので、日本での生活の実質、家族関係、更生の見込みを、資料で具体的に示す必要があります。刑事の段階から一貫した説明を積み上げることが、この場面でも効いてきます。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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