大学院入試の替え玉受験で、留学の在留資格が不正取得とされた事案
2026/08/31
大学院の入試をオンライン面接で受け、その面接を別人に受けさせて合格したとされる事案が報じられています。この記事は、そうした形で入学し来日した方、これから同じ手口を持ちかけられている方、そしてご家族に向けて書いています。ここで起きるのは、単に入学が取り消されるという話ではありません。入学許可を土台にして交付された在留資格そのものが、はじめから不正に取得されたものと評価され、刑事事件と入管手続の両方が同時に動き出します。その構造を順に説明します。
報じられた事案
北陸放送(MRO)は2026年1月29日、石川県で、2023年の大学院入試のオンライン面接を別人に受けさせて2024年に入学資格を得て来日し、その結果を用いて留学の在留資格を不正に取得したとして、中国籍の男性が入管法違反(在留資格の不正取得・不法上陸)の疑いで逮捕されたと報じました。報道によれば、本人は「日本に不正に上陸したことは間違いない」と述べたとされます。これは逮捕の段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
なぜ「不法上陸」という重い構成になるのか
留学で来日する場合、多くは、学校の入学許可を前提に在留資格認定証明書の交付を受け、これをもとに査証(ビザ)の発給を受け、空港の上陸審査で上陸許可を受けます。この一連の流れは、最初の入学許可という一点に乗っています。入試の受験者が本人でなかったとすれば、その土台が虚偽であったことになり、後続の証明書交付も上陸許可も、偽りの事実に基づいて受けたものと評価されます。入管法は、偽りその他不正の手段で上陸許可を受けた場合を不法上陸として扱い、退去強制事由としています(24条2号)。つまり、日本に入った瞬間から在留が違法であったという整理になるため、後から出た事情で在留資格を失う場合よりも扱いが重くなります。
入学許可が取り消されたら、在留資格はどうなるか
大学が入学許可を取り消せば、学ぶという活動の基礎がなくなります。この場合、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないことを理由とする取消し(入管法22条の4第5号)が問題になり得ます。もっとも、この類型でより深刻なのは、偽りその他不正の手段による許可を理由とする取消し(同条第1号)です。第5号が「その後、活動をしなくなった」ことを捉えるのに対し、第1号は「そもそも取得の仕方が違法だった」ことを捉えます。第1号による取消しは、在留の全期間を否定する評価につながるため、その後の在留特別許可の判断でも重く働きます。学校の処分と入管の処分は別々に進みますが、学校が事実関係をどう認定したかは入管にも伝わります。
弁護人が実際に争う点
第1に、面接を受けたのが誰かという事実そのものです。オンライン面接の記録、通信ログ、機器の使用状況、当日の所在は、いずれも客観的に検証できます。第2に、本人の認識と関与の程度です。仲介業者に手続一式を任せ、面接の代行までは知らなかったという事案は現に存在します。日本の制度を知らなかったこと自体は罪を免れる理由になりませんが、誰が計画し、誰が報酬を得たかは、量刑にも処分の選択にも直結します。第3に、虚偽と上陸許可との結びつきです。仮に不正があったとしても、それが上陸許可の判断を左右したといえるかは、法的な評価の問題として争う余地があります。第4に、本人の供述の扱いです。通訳を介した取調べでは、述べた趣旨と調書の文言がずれることがあり、署名前の確認が決定的に重要です。
刑事と入管は同時に進む
刑事事件が起訴猶予や罰金で終わっても、入管の手続はそれで止まりません。逆に、刑事が続いている間に入管の違反調査が進むこともあります。ここで方針が分かれるのは、自ら出頭して申告するか、手続の進行を待つかです。在留特別許可のガイドライン(令和6年3月改定)は、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことを積極要素として明記しており、他方で在留の長期化は消極要素とされています。どの時点で、どの資料をそろえて出頭するかは、刑事の見通しと合わせて設計する必要があります。刑事弁護人と入管手続の代理人が別々に動くと、この設計が崩れます。
ご家族と、これから留学を考えている方へ
ご家族には、入学までの経緯を示す資料を集めていただきたいと思います。仲介業者との契約書、支払の記録、やり取りのメッセージ、募集広告の画面。これらは、本人がどこまで関与したかを示す資料であると同時に、業者主導であったことの裏づけにもなります。そして、これから留学を考えている方へ。手続を丸ごと代行するという業者の提案の中には、本人が知らないうちに虚偽が混入するものがあります。申請書に何が書かれたのかを自分の目で確認し、控えを受け取ってください。書類の内容を知らなかったという説明が、入管の場面でどこまで通るかは、次の記事で扱います。
中文版:研究生入学考试找人代考,留学在留资格被认定为不正取得
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
----------------------------------------------------------------------