実行犯と買取側で報道の国籍が偏る 窃盗と盗品買取りの統計をどう読むか
2026/08/31
盗まれた自転車や銅線ケーブルの事件では、実際に盗んだ人と、それを買い取った人が別々に報じられます。そして、どちらの側でどの国籍が目立つかは、報道によってかなり偏ります。この偏りをそのまま「どの国の人がどんな犯罪をしやすいか」と読み替えると、事実からも統計からも離れてしまいます。この記事では、報じられた事案を並べたうえで、警察庁と法務省の公表統計を年次と出典つきで確認し、報道と統計を混ぜずに読む方法、そして買取側と実行犯とで弁護の争点がどう違うのかを説明します。
報じられた事案を三つ並べる
2024年12月20日、静岡県警の発表に基づく報道によれば、駐輪場でスポーツタイプの自転車を工具で施錠を破って盗み、車に積んで運び出したとして、中国籍の男2人とベトナム籍の3人が摘発されたと報じられています。中国籍の2人は窃盗、ベトナム籍の3人は盗品等有償譲受けの容疑とされ、静岡、愛知、東京、埼玉の各都県にまたがり、200台を超え被害総額1300万円を超えるとされます。一部は船でカンボジアへ輸出され、約280台が押収されたと報じられました。
2018年6月5日の神奈川新聞の報道によれば、他人名義のカード情報を用いてインターネット通販で商品を購入し、集合住宅の空き室で受け取ったうえ、古物店が買い取って通販サイトに出品していたとして、中国籍の男らが摘発されたとされています。盗品等は約5000点に上ると報じられました。2025年7月17日の日本経済新聞は、盗品の銅線ケーブルを買い取った疑いで中国籍の男ら2人が捜査対象となったと報じていますが、当方が確認できたのは見出しの範囲にとどまります。いずれも起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
報道の見え方と、統計の姿は一致しない
金属盗や自転車盗の報道を並べていくと、実行犯として名前が挙がる国籍と、買い取る側として名前が挙がる国籍に、はっきりした違いが現れます。しかし、これは報道機関がどの事件を記事にしたかという選択の結果であって、犯罪の分布そのものではありません。国籍を書く事件と書かない事件があること、地方紙が拾う事件と拾わない事件があること、大規模な組織事件ほど記事になりやすいことが、そのまま印象を作ります。
公表統計はどうなっているか
警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢」によれば、令和6年の来日外国人の総検挙は2万1794件、1万2170人です。国籍等別では、ベトナムが9690件(44・5%)、3990人(32・8%)で最も多く、中国は2866件(13・2%)、2011人(16・5%)で第2位です。中国が最も多いという理解は、この統計と一致しません。中国の刑法犯検挙件数1779件の内訳は、窃盗犯835件(46・9%)、知能犯321件(18・0%)、粗暴犯284件(16・0%)とされています。
この数字を読むときの三つの落とし穴
第1に、警察庁のいう「来日外国人」は在留外国人の全体ではありません。定義上、永住者、永住者の配偶者等、特別永住者、在日米軍関係者、在留資格不明者は除かれます。在留外国人統計(令和7年末)の中国籍93万0428人のうち、永住者35万7565人などを合わせた約38万人は、そもそもこの統計の母集団に入っていません。
第2に、分母を取り違えないことです。検挙人員を在留外国人の総数で割る計算は、分子と分母の範囲が違うため成り立ちません。警察庁が示す母数は、令和6年6月末で約312万人です。
第3に、増減の読み方です。令和6年の来日外国人の検挙件数は前年比20・5%増ですが、同じ時期に在留外国人数は10・5%増え、外国人入国者数は3401万人と過去最多でした。母数の変化を書かずに急増とだけ述べるのは、事実の説明として不正確です。
買取側と実行犯では、争点がまったく違う
盗品等有償譲受けの罪で問われるのは、盗品であることを知っていたかどうか、いわゆる知情です。古物営業では、買取時の本人確認と買取記録の作成が義務づけられており、この履践状況が判断を左右します。相場より著しく安い価格、大量の同種品、身分確認を拒む相手、深夜の持込みといった事情が積み重なると、未必の認識があったと評価されやすくなります。逆に、記録が残っており、確認手順を踏んでいた事実は、有力な反証になります。
実行犯側の争点は、共謀の範囲です。運転しただけ、積込みを手伝っただけという関与でも、事前の打合せの内容によっては全体について責任を負い得ます。他方、途中から加わった人が、それ以前の被害まで当然に負うわけではありません。件数と被害額は量刑に直結するため、どの日のどの行為に自分が関与したのかを、正確に切り分けることが必要になります。
在留への影響と、今日できること
窃盗も盗品等有償譲受けも、有罪判決だけで退去強制事由となる出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号チの薬物関係には当たらず、別表第一の在留資格者に限られる同条4号の2の特定犯罪にも含まれません。問題となるのは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合の同条4号リであり、全部執行猶予は但書で除外されます。もっとも、犯罪白書(令和6年)では、来日外国人の窃盗の起訴率は52・53%で、全体の44・84%より高い水準にあります。起訴前の段階での弁護活動の重みは、この数字からも読み取れます。
古物商や買取業を営んでおられる方は、本人確認と買取記録の運用を今日から見直してください。従業員任せにせず、確認手順を文書にし、記録を保存しておくことが、後日の反証の土台になります。ご家族としては、在留カードと旅券の所在、勤務先との連絡の窓口、被害弁償の原資を早めに整理してください。
中文版:实行犯与收购方在报道中的国籍分布有偏差 窃盗与收购赃物的统计该怎么读
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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