自宅から刃物を持って出勤していた。計画性はどのように認定されるのか
2026/08/31
重大な結果が生じた事件で、弁護人が最初に向き合うのは「計画的だったのか、それとも突発的だったのか」という争点です。この区別は、有罪か無罪かを分けるものではありませんが、量刑には決定的な影響を与えます。そして計画性は、本人が「計画していました」と述べたかどうかで決まるのではなく、行為の前後に残された客観的な事実の積み重ねによって認定されます。この記事では、凶器を自宅から持参したという事実が、実務上どのように評価されるのかを説明し、そのうえで背景事情をどう立証していくかを述べます。
千葉県で報じられた事案
2025年12月5日に発生し、同月8日にRecord Chinaおよびテレビ朝日が報じた事案として、千葉県いすみ市のガラス製品製造会社で、中国籍の男性(39歳)が、面談中に58歳の女性社員を自宅から持参した刃物で複数回刺し、女性が死亡したというものがあります。当初は殺人未遂として、後に殺人として扱われたと報じられています。殺人の疑いで逮捕されたと報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
報道された事実のうち、法的に最も重い意味を持つのは、刃物を自宅から持参していたとされる点です。以下では、この一点がなぜ重いのかを、一般的な実務の考え方として説明します。
計画性は、供述ではなく事実の積み重ねで認定される
計画性の有無は、次のような事実の組み合わせから推認されます。凶器をどこで、いつ入手したか。それを事件現場までどのように運んだか。凶器が日常的に持ち歩くものか、それともその日に限って持ち出されたものか。犯行の場が偶然そこになったのか、本人が設定したのか。事件前に、相手の予定を確認する行動があったか。
自宅から刃物を持ち出したという事実は、このうち複数に同時に触れます。持ち出しは意識的な行為であり、職場に刃物を持ち込む必然性が通常はないからです。加えて、面談という場が事前に設定されていたのであれば、その時刻に相手がそこにいることを本人が知っていたことになります。この二つが重なると、突発的な口論の末の行為であるという説明は、成り立ちにくくなります。
逆に、弁護人が検討するのはこの推認の切れ目です。刃物を持ち出したことに別の説明があるか。たとえば、以前から所持していた、業務に関係して使うことがあった、といった事情です。面談の設定は誰が言い出したのか。当日、本人はどのような心理状態にあったのか。凶器の購入時期が事件の直前でないのであれば、その事実は計画性の推認を弱める方向に働きます。
計画性が量刑で持つ重み
殺人などの重大事件は、裁判員裁判の対象となります。裁判員裁判では、量刑の判断において、行為の危険性、結果の重大性とともに、動機と計画性が中心的な考慮要素となります。同じ結果が生じた事件でも、あらかじめ準備して臨んだ場合と、その場の衝動で行われた場合とでは、非難の程度が大きく異なると評価されるためです。
ここで在留資格との関係にも触れておきます。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由と定め、刑の全部の執行猶予が付いた場合を除いています。重大事件で実刑となれば、この要件に該当します。令和7年の出入国管理統計では、単独の理由としての4号リによる退去強制令書発付は全国で41人、中国籍は11人でした。数としては少ないものの、該当した場合の効果は決定的です。量刑を争うことは、刑期を争うことであると同時に、日本に残れるかどうかを争うことでもあります。
背景事情を、情状としてどう立証するか
計画性を否定しきれない事案であっても、弁護人にはやるべきことが残っています。それは、なぜこの人がこの行為に至ったのかを、法廷で理解可能な形にすることです。抽象的に「反省しています」と述べるのではなく、事実で示します。
- 職場での立場と人間関係。指示の内容、注意や叱責の頻度、周囲との言語の壁
- 労働時間、休日の取得状況、寮での生活環境
- 本国に残した家族の状況、送金の負担、帰国できない事情
- 事件前の睡眠、食事、体重の変化。心身の不調を示す記録
- 医療機関の受診歴。必要であれば、精神鑑定の請求を検討する
これらは、責任を免れるための材料ではありません。行為の重さを引き受けたうえで、その人がどのような状況に置かれていたのかを裁判所に示すためのものです。外国人の事件では、こうした背景が言語の問題で法廷に届かないまま終わることがあります。届けるのは弁護人の仕事です。
弁護人が早期に集めるべき資料
時間が経つほど失われる資料があります。社内の防犯カメラ映像、入退室の記録、勤怠記録、面談の資料や議事メモ、社内の連絡履歴。これらは会社が保有しており、保存期間が過ぎれば消えます。受任後すぐに保全を求めることが必要です。同僚からの聞き取りも、記憶が新しいうちに行う必要があります。
また、凶器の入手経路については、購入店舗の記録や決済履歴が残っていることがあります。これは検察官も収集しますが、弁護人が自ら確認することで、計画性に関する主張の前提を確かめることができます。
ご家族ができること
重大事件では、ご家族が本国にいることが多く、面会も容易ではありません。それでも、できることはあります。本人の生い立ち、これまでの生活、家族との関係、日本に来た経緯を、文章にして弁護人に渡してください。写真や手紙、送金の記録も、その人がどのような生活を送ってきたかを示す資料になります。
被害者やご遺族への謝罪と弁償については、直接連絡を取ろうとせず、弁護人を通してください。この点は、次の記事で詳しく述べます。そして、本人の在留資格に関する書類、旅券、在留カードの所在を確認しておいてください。刑事手続が終わった後には、入管の手続が続きます。その準備は、刑事の段階から始まっています。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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