旅行中の暴行事件で逮捕された。短期滞在の方が勾留されやすい理由と、72時間でできる準備
2026/08/31
日本への旅行中に、店員や他の客とのささいな口論から手が出てしまい、その場で警察官に引き渡される。中国から来日された方にとって、これは決して珍しい出来事ではありません。同じ内容の事件でも、日本に住まいを持つ方と、旅行で来ている方とでは、その後に身体を拘束される期間が大きく変わります。この記事は、短期滞在の在留資格で来日中に暴行事件の当事者となった方と、そのご家族に向けたものです。なぜ旅行者は勾留されやすいのか、逮捕から72時間のあいだに誰が何を用意できるのかを、実務の順序に沿って説明します。
福岡で報じられた事案は、何が問題になったのか
2026年7月27日から28日にかけて、Record Chinaが、福岡市博多区の商業施設内にある遊戯施設で、中国籍の男性(37歳)が年齢制限のある区画をめぐって従業員と口論になり、殴打したとして現行犯逮捕されたと報じました。報道では、この男性は旅行者、すなわち短期滞在の在留資格で滞在していたとされ、取調べでは「押し返しただけだ」と述べて否認していると伝えられています。暴行の疑いで逮捕されたと報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
ここで重要なのは、暴行という罪名の重さではなく、日本に生活の本拠を持たない方が当事者になったときに、手続がどれだけ重くなるかという構造です。
勾留の判断は、罪の重さよりも「住居」から入る
逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ事件を送り、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内、かつ逮捕の時から72時間以内に、裁判官へ勾留を請求するかどうかを決めます。勾留が認められると原則として10日間、やむを得ない事由があるときはさらに10日間まで延長され、起訴・不起訴の判断が出るまで最長で20日間、身体の拘束が続きます。
裁判官が勾留の可否を判断するとき、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることに加えて、住居が定まっていないこと、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があること、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があること、のいずれかが必要とされます。旅行者は、このうち第一の関門である「住居」で、はじめから不利な位置に置かれます。日本国内に住民登録も賃貸借契約もなく、数日後には出国する予定であるという事情は、そのまま逃亡のおそれの主張材料としても使われます。
参考として、令和6年の検察統計から計算すると、勾留請求に対する裁判所の許可率は95.7%(許可9万1,358件、却下4,154件)です。これは全国籍を合わせた数値で、国籍別の勾留統計は公表されていません。したがって「外国人は勾留されやすい」と統計を根拠に断定することはできませんが、住居の有無という要件の構造上、旅行者が不利になりやすいことは制度から説明できます。
宿泊先、在日の知人、領事館。身元を書面にしていく
勾留を避ける、あるいは勾留の期間を短くするために弁護人が最初に行うのは、「この人には帰る場所と、日本に留め置く必要のない事情がある」ことを、口頭ではなく書面で示す作業です。ご家族や同行者の側で、次のものを集めておくと動きが早くなります。
- ホテルの予約記録、宿泊者名簿の写し、延泊の可否についての宿泊先の回答
- 往復航空券と旅程表。帰国便を変更した場合は、その変更記録
- 日本に住む親族・友人・取引先による身元引受書(署名、住所、在留資格、本人との関係、連絡方法、監督の内容を具体的に書いたもの)
あわせて、領事関係に関するウィーン条約36条1項により、外国人が逮捕された場合、本人が要請すれば領事機関への通報が行われます。領事館が身元引受人になるわけではありませんが、本人の身元が確かであることを裏づける経路として、早い段階で使う価値があります。
勾留されてしまった後にも、打てる手はある
勾留が決まった時点で終わりではありません。勾留の裁判に対しては準抗告を申し立てることができ、示談の見込みや帰国後の連絡手段が固まった段階で、改めて釈放を求める余地があります。勾留の理由を法廷で明らかにさせる勾留理由開示の手続もあり、捜査機関が何を根拠に身体拘束を続けているのかを、本人と弁護人の前で言わせることができます。接見禁止が付いた場合も、弁護人との接見は制限されません。ご家族との面会や手紙のやり取りについては、一部解除を求める申立てを行います。
示談、そして処分の見通しをどう考えるか
暴行の事案で処分を左右する最大の要素は、被害者との示談です。治療費、休業損害、慰謝の趣旨の支払、そして被害者が処罰を求めない旨の意思表示。これらが揃うかどうかで、検察官の判断は大きく変わります。旅行者の場合は帰国の予定があるため、示談交渉を短期間で進める必要があり、資金を本国から送る経路をあらかじめ確保しておくことが実際上の鍵になります。
令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴猶予率は48.35%です。また罪名別に見ると、傷害(暴行等を含む)の起訴率は、全体が28.86%であるのに対し、来日外国人は25.69%でした。これらはあくまで全国の集計であり、個別の事件の見通しを保証するものではありません。だからこそ、勾留期間という限られた時間の使い方が結果を分けます。
ご家族が今日のうちにできること
まず、旅券と上陸許可の証印がどこにあるかを確認してください。逮捕時に警察が保管していることが多く、帰国便の変更や在外公館での手続に必要になります。次に、日本国内で連絡が取れる方を一人決めて、その方の携帯電話番号を弁護人に伝えられるようにしてください。
勤務先や旅行の同行者への説明は、事実関係が固まる前に広げないことをお勧めします。取調べの場では、通訳人を介した供述であっても、署名する調書の内容が自分の言ったとおりかを一字ずつ確認するよう、本人にお伝えください。言葉の壁がある場面ほど、調書は後から動かせない証拠になります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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