盗まれた銅線ケーブルを買い取った側が、なぜ先に逮捕されるのか
2026/08/31
金属の盗難が相次ぐなかで、電線を切って持ち去った人よりも先に、それを買い取った側が逮捕されたと報じられる事件が続いています。この記事は、金属くずや古物の買取りに関わっておられる中国籍の方とご家族に向けて書いています。なぜ買取側が先に捜査線上に浮かぶのか、盗品等有償譲受けという罪名で何が争点になるのか、そして在留資格にどこまで響くのかを、順を追って説明します。
報道されている買取側の摘発
日本経済新聞は2025年7月17日、盗まれた銅線ケーブルを買い取ったとして、中国籍の男ら2人が盗品等有償譲受けの疑いで神奈川県警の捜査の対象となったと報じています。見出しの範囲を超える詳細は公表されていないため、金額や年齢には触れません。同紙は同年9月26日にも、金属盗対策の新しい法律が初めて適用された事件として、ケーブルカッターを隠して持っていたとして中国籍の2人が摘発されたと報じています。いずれも捜査段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
報道以外に、警察庁の「令和7年版 犯罪収益移転防止に関する年次報告書」にも、金属くず買取店の従業員である中国人の男が、盗品と知りながらメタルケーブルを有償で譲り受け、盗品等有償譲受けと組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)で検挙された事例が挙げられています。買取りが、単発の窃盗事件の後始末ではなく資金の流れの問題として扱われていることが読み取れます。
なぜ実行犯より買取側が先に浮かぶのか
理由は単純で、記録が残っているのが買取側だからです。夜間に電線を切って運び去る行為は人目のない時間帯に行われ、実行した人物の特定には防犯カメラの解析や車両の追跡といった時間のかかる作業を要します。これに対し、古物や金属くずの買取りは、営業の許可を受けた事業者が相手方の本人確認と帳簿への記録を義務づけられており、いつ、誰から、何を、いくらで買ったかが書面として残ります。捜査機関は、盗品の特徴と買取記録を突き合わせて、実行犯より先に買取側にたどり着きます。
さらに、古物営業の制度は、買い取ろうとする品物に盗品の疑いがあるときの警察への申告も事業者に求めています。記録を残す義務と疑いを届け出る義務の両方が課されているため、記録が不十分であること自体が「知っていたのではないか」という疑いの出発点になってしまうのです。なお、金属盗の実行犯として報じられているのは他の国籍の方が大半であり、報道で目に付く国籍の偏りは事件の切り取られ方に左右されます。
盗品等有償譲受け罪の骨格は「知情」にある
盗品等有償譲受けは、盗まれた物であると知りながら代金を払って譲り受ける行為を処罰するものです。処罰の理由は、盗品が転々と流通すると被害者が取り戻せなくなること、そして買い手がいることが窃盗そのものを誘発することにあります。ここで決定的なのが「知情」、すなわち盗品であることの認識です。確定的に知っていた場合だけでなく、盗品かもしれないと思いながらあえて買った場合、いわゆる未必の故意も含まれます。
実務では、この知情が直接証拠で立証されることはまれです。買取価格が相場から不自然に低いこと、持込みの時間帯や数量が通常の商取引として不自然であること、本人確認をしていないこと、同一人物から反復して仕入れていることといった間接事実の積み重ねで推認されるのが通例です。
弁護人が実際に争う点
したがって弁護活動は、この推認の環を一つずつ外していく作業になります。買取価格については当時の相場資料を集め、値付けが不合理でなかったことを示します。本人確認については、実際に確認した書類の控えや記録を提出し、手続を履践していたことを裏づけます。持込者との関係については、通信履歴を時系列に整理し、盗品を前提とした話題が出ていないことを示します。
ここで最も大切なのは、記録を後から整えないことです。捜査開始後に帳簿を作り直したり通信履歴を消したりすれば、罪証を隠滅するおそれがあるとして勾留が続き、保釈も遠のきます。取調べでは、記憶にない事柄について曖昧にうなずかないこと、通訳を介したやり取りが調書に正確に反映されているかを署名前に確認することも重要です。
在留資格にどう響くか
金属盗の増加を受けて盗難特定金属製物品処分防止法が設けられ、同法22条の罪は、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号の2に掲げる退去強制事由に加えられました。この号は、技術・人文知識・国際業務や留学、技能実習といった別表第一の在留資格の方に限って適用され、永住者や日本人の配偶者等、定住者といった別表第二の方には適用されません。在留外国人統計(令和7年末)では、中国籍の在留者93万0428人のうち約47%が別表第二と特別永住者であり、この層は同号の対象外です。
もっとも、盗品等有償譲受けそのものは同号の列挙罪名ではありません。この罪で在留が直ちに失われるのは、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられ、入管法24条4号リに当たる場合であり、全部執行猶予はこの号から除かれています。ただし、退去強制事由に当たらないことと、在留期間の更新が認められることは別問題で、更新の審査では素行が善良であることが求められます。買取業を営む方は、営業許可の取消しによって在留資格に応じた活動ができなくなるという経路にも注意が要ります。
ご家族が今日できること
まずは書類の保全です。買取帳簿、仕入伝票、本人確認書類の控え、防犯カメラ映像、取引相手とのやり取りの画面は、時間とともに失われます。手を加えず、そのまま弁護人にお渡しください。次に、在留カードと旅券の所在の確認です。勤務先や取引先への説明は、事実関係が固まらないうちに急ぐと不利益が広がるため、弁護人と相談して時期を決めてください。逮捕から72時間の間はご家族の面会ができませんが、弁護人であれば接見交通権(刑訴法39条1項)に基づき、いつでも会いに行くことができます。差入れは現金と衣類のほか、母語の書籍が心の支えになります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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