強盗致傷は法定刑の下限が重い。実刑になれば在留は続かない
2026/08/31
強盗致傷という罪名が付いた瞬間に、事件の性質は変わります。窃盗や傷害であれば、被害弁償と示談で執行猶予に届く見込みが語れる場面でも、強盗致傷では法定刑の下限そのものが高く、通常の量刑の枠内では執行猶予の言渡しに届きません。そして外国籍の方の場合、実刑になるかどうかは、そのまま日本に残れるかどうかの問題になります。この記事では、報道された事案を出発点に、下限の重さがもたらす帰結、減軽の限界、そして実刑が退去強制へつながる仕組みを、公表統計とともに整理します。
報道された事案と、罪名の重み
2026年5月17日の福井テレビ・FBC福井放送の報道によれば、福井県内の自動車販売整備店の屋外で、深夜にタイヤホイール4本を持ち去ろうとした50代の中国籍の男性が、取り押さえようとした男性を殴ったとして強盗致傷の疑いで逮捕され、暴行を否認していると伝えられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。ここで注目していただきたいのは、盗まれたとされる物の価値ではなく、付いた罪名です。同じ行為でも、窃盗と暴行の二つとして扱われるか、強盗致傷という一つの重い罪として扱われるかで、見通しは根本的に変わります。
下限が重いとは、実務上どういうことか
強盗致傷は、法定刑の下限が拘禁刑6年とされる重い犯罪類型です。日本では、全部執行猶予を付けられるのは、言い渡す刑が拘禁刑3年以下の場合に限られます。つまり、法定刑の枠のままでは、どれほど酌むべき事情があっても執行猶予には届きません。実務では、法律上の減軽や、犯情を酌んだ減軽が認められて初めて、3年以下の範囲に下りてくることになります。ここが、被害弁償と反省で執行猶予が視野に入る一般的な財産犯や粗暴犯とは決定的に違う点です。ご家族から「示談すれば帰ってこられますか」と尋ねられることがありますが、強盗致傷では、示談は必要条件ではあっても、それだけで結論を動かす十分条件にはなりません。
減軽に届かせるために、何を立証するのか
減軽の可否は、犯行の実質をどう評価するかにかかります。第1に、暴行の性質です。逃走のための反射的な力の行使にとどまるのか、制圧を目的とした攻撃なのかで、非難の程度は大きく変わります。第2に、傷害の程度と因果関係です。傷害が軽微であること、治療が短期間で終わったこと、転倒など別の要因が介在した可能性は、いずれも量刑資料になります。第3に、計画性の有無です。単独で偶発的に及んだのか、組織的な指示のもとで動いたのかは、公判での評価を左右します。第4に、被害者との関係修復です。治療費と慰謝の支払、謝罪の受入れ、処罰意思の減退は、減軽を基礎づける中心的な事情です。これらは、起訴前から順次積み上げなければ、公判段階では間に合いません。
実刑一年超が退去強制へ直結する仕組み
出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としています。ただし、全部執行猶予が付いた場合は除かれ、一部猶予でも実刑部分が1年以下であれば除かれます。したがって、実刑一年超という線が、在留を続けられるかどうかの分水嶺になります。強盗致傷で実刑が言い渡されれば、その多くはこの線を超えます。この事由は在留資格の種類を問わず及ぶため、永住者や日本人の配偶者等といった身分に基づく在留資格の方でも、例外にはなりません。刑事の弁護と入管の見通しを切り離して考えることができない理由が、ここにあります。
統計から見た、この事由の実像
出入国在留管理庁の出入国管理統計によれば、令和7年に24条4号リのみを事由として退去強制令書が発付されたのは全国で41人で、うち中国籍は11人でした。他の事由と並立する形を含めても人数は限られています。他方、中国籍について見ると、退去強制令書の発付総数686人のうちこの事由に関わる人数が占める割合は他国籍より高く、ベトナム籍の約3倍に当たります。数のうえでは、退去強制の圧倒的多数は不法残留であり、刑事事件が直ちに送還を意味するわけではありません。しかし中国籍の方にとっては、刑罰を理由とする退去強制が相対的に身近な問題であることも事実です。数字は、恐怖をあおるためではなく、どこに力を注ぐべきかを見極めるために使うべきものです。
それでも打てる手と、家族の準備
退去強制事由に該当しても、手続はそこで終わりません。同統計では、令和7年に在留特別許可を受けた人は審査・口頭審理・異議申出の各段階を合わせて1,030人でした。在留特別許可の判断では、家族関係、在日期間、素行、人道的な配慮といった事情が考慮されます。だからこそ、刑事の段階から、日本での生活の実質を示す資料を意識して残しておく必要があります。ご家族に準備していただきたいのは、同居の実態が分かる資料、子の就学状況、納税と社会保険の状況、勤務先の在職や復職の見込み、そして被害弁償の原資です。刑事事件の記録は入管手続でそのまま引き継がれます。刑事の段階で作った資料が、後の在留の場面でもう一度効いてきます。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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