船員が寄港地で逮捕されたら、出港はどうなるか
2026/08/31
寄港地で上陸した乗員が、その土地で刑事事件の被疑者となることがあります。実際に、日本の都市で、船員である中国籍の女性が店舗での窃盗の疑いで現行犯逮捕されたと報じられました。船は待ってくれるのか、出港予定は勾留の判断に影響するのか、船が出てしまったら手続はどうなるのか。この記事では、乗員という立場の特殊性を、刑事手続と入管手続の両面から整理します。
報道された事案と、この記事で扱う範囲
HBC北海道放送が2026年5月15日に伝えたところによれば、北海道札幌市中央区の土産物店で会計を済ませずに商品を持ち出したとして、船員である中国籍の40代の女性が現行犯逮捕されました。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。船舶や航路に関する詳細は報じられていないため触れません。以下は、乗員が寄港地で身柄を拘束された場合に一般的に生じる問題の解説です。
出港予定は、当然には考慮されない
まず率直に申し上げます。船が何時に出るかという事情は、刑事手続の側では当然には配慮されません。勾留するかどうかは、罪証を隠滅するおそれと、逃亡するおそれがあるかどうかで判断されます。ここで乗員という立場は、両面に働きます。船に戻れば国外へ出てしまうという点は、逃亡のおそれを基礎づける方向に読まれやすい事情です。他方で、所属する会社と船舶が特定されており、身元と所在が明確であるという点は、逃亡のおそれを減らす方向に働きます。この両面のうち、後者を裏づける資料をどれだけ早く出せるかが、実務上の分かれ目になります。
乗員としての上陸と、在留資格の違い
船舶や航空機の乗員は、就労や居住のための在留資格を得て日本にいるのではなく、乗員としての上陸の許可を受けて一時的に上陸しています。滞在の根拠が船に結びついているため、船が出港した後も日本にとどまれば、上陸許可の内容と食い違う滞在となり、入管の手続が別途動き始めます。逆に、身柄拘束が続いている間も上陸許可の期間は進みます。刑事事件が終わった時点で入管の側の整理が必要になることが多く、刑事弁護と入管対応を切り離さずに進める必要があります。
勾留を争うために、どのような資料を出すか
実務では、次のような資料を短時間でそろえます。第一に、所属会社または船舶代理店による身元の引受けと、出頭の確保に協力する旨の書面です。第二に、次の寄港予定や航海の日程を示す資料で、所在が把握できることを示します。第三に、旅券や船員手帳を弁護人または会社が預かり、逃亡を防ぐ体制を示す書面です。第四に、被害弁償の準備状況を示す資料です。第五に、日本国内の連絡先です。これらを勾留請求の前に検察官へ提出し、勾留された場合は準抗告で争います。時間との勝負であり、逮捕の当日に動き始められるかどうかで結果が変わります。
船が先に出港してしまった場合はどうなるか
身柄を拘束されている本人だけが日本に残り、船が出港することはあり得ます。その場合、宿泊先や生活費、通訳、帰国の手配といった負担が本人と会社にのしかかります。反対に、捜査が終わらないうちに本人が出国してしまうこともあります。日本の法律では、犯人が国外にいる間は公訴時効が進まないと定められており、時間の経過によって自動的に解決するわけではありません。手配が続けば、将来、日本の港や空港で問題が生じることもあります。処分を受けないまま出国すれば済むという考え方が安全ではない理由が、ここにあります。
会社とご家族が今日できること
第一に、本人の所在(どの警察署か)と、逮捕された日時を確認します。第二に、会社として身元引受けと出頭確保の書面を出せるかを、その日のうちに検討します。第三に、通訳を介して本人の意向を確認できる弁護人を選任します。第四に、被害弁償の原資と、支払を決められる担当者を決めておきます。第五に、本人が領事機関への通報を望む場合はその旨を伝えます。第六に、次回以降の来日への影響を見据え、処分の内容を書面で残しておきます。上陸審査では過去の経緯を質問されることがあり、説明できる資料を持っているかどうかで対応の幅が変わります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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