中国での処罰歴と日本の上陸拒否|薬物類型に期間の定めがないことの重み
2026/08/25
本記事の要点
- 外国の法令に違反した場合でも、日本の入管法上の上陸拒否事由になることがあります。日本国内で処罰されたかどうかだけが基準ではありません。
- 薬物関係の上陸拒否事由(入管法5条1項5号)には期間の定めがありません。刑が罰金であっても該当し、年数の経過では解消しません。
- 退去強制を受けたことを理由とする類型には上陸拒否期間が定められており、年限があります。同じ上陸拒否事由でも構造が違います。
- 中国法上の行政処罰と刑事処罰の区別が、日本の入管法上の要件にどう対応するかは、資料に基づく個別判断であり、事案により異なります。日本側から一律には述べられません。
日本の会社に採用が決まった、日本の大学に合格した、日本にいる家族と暮らすことになった。準備を進める中で、本国での処罰歴が気にかかる方は少なくありません。
以下、日本側の弁護士として確認できる範囲で、外国での処罰歴が日本の上陸審査にどう関わるのかを整理します。中国側の制度の細部については、留保を明示しながら述べます。
上陸拒否事由には年限のあるものとないものがある
日本に上陸しようとする外国人は、入管法5条1項各号のいずれにも該当しないことが求められます。押さえるべきは、各号の構造が同じではないという点です。
退去強制を受けたことを理由とする類型には、退去強制された日から起算する上陸拒否期間が定められています。この場合は期間が経過すればその事由による拒否は解消しますので、起算点がいつなのかを正確に把握することが実務上の要点になります。
これに対し、入管法5条1項5号の薬物関係の上陸拒否事由には期間の定めがありません。日本の法令違反であるか外国の法令違反であるかを問わず、刑が罰金であっても該当します。年数が経過しても解消しないため、他の類型と同じ感覚で考えることはできません。なお、外国において一定の重さの刑に処せられたことに関する上陸拒否事由も置かれています。
中国での処罰歴をどう資料化するか
- 原本の確保です。判決書、処罰決定書、釈放に関する書類など、処分の内容と時期を示す一次資料を集めます。
- 正確な翻訳です。制度上の位置づけを説明できる訳文が求められます。
- 公証などの認証手続です。どの書類にどの手続が必要かは、提出先によって異なります。
- 経緯の説明資料です。処分に至った事情、その後の生活、家族の状況、日本で予定している活動の具体性を、客観資料とともに整理します。
なお、中国法における行政処罰と刑事処罰の区別が、日本の入管法上の刑に処せられたという要件にどう対応するかは、提出資料に基づく個別の判断となり、事案により異なります。本国の手続の性質については中国の律師や本国の当局に確認したうえで、日本語で正確に説明できる形に整えることが必要です。
出国命令が使えない類型があること
関連して知っておいていただきたいのが出国命令の制度です。入管法24条の3の出国命令は、要件のひとつとして、24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことを求めています。薬物関係の事由に該当する方は、この要件を満たさないため、出国命令を利用できません。
自己判断で出頭する前に、どの事由に該当しうるのかを確認してください。
日本で刑事事件になった場合の流れ
日本国内で新たに刑事事件の当事者となった場合、警察は逮捕から48時間以内に検察官へ身柄を送致し、検察官は受け取ってから24時間以内に勾留を請求するかどうかを決めます。この合計72時間で、その後の身柄拘束の枠組みが決まります。勾留は原則10日、延長で最大20日です。
過去の経歴に関する説明も、弁護人と整理してから行うべきです。
外国人事件に特有の入管上のリスク
- 24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者です。但書により刑の全部の執行を猶予された方は除かれ、一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除かれます。
- 24条4号チは薬物関係の有罪です。罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、4号リの守備範囲から除かれた別枠に置かれています。
- 24条4号の2は危険運転致死傷などの列挙です。24条3号の4の不法就労助長は行為のみで該当し、刑事処罰を要しません。
- 24条4号ロは不法残留、4号イは資格外活動の専従、4号ヘは資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた場合です。
退去強制に至らない場面でも、入管法21条による在留期間更新の不許可、入管法22条の4による在留資格の取消しがあります。当事務所は、退去強制事由の該当性判断に故意・過失を要しないとされてきた実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
日本国内で刑事事件となった場合、不起訴処分を得られるかどうかが、在留と将来の再来日の双方を左右します。逆に執行猶予判決を得たとしても、薬物関係のように有罪であること自体で該当する類型では在留の救いになりません。
検察官面談で事案の見立てと有利な事情を伝えること、被害者のいる事件では早期に示談を成立させること、証拠構造の弱点を整理した意見書を提出すること、身元引受人と生活の受け皿を客観資料で示すことが中心になります。
初動対応の3つのポイント
第一に黙秘権の行使です。話す範囲は弁護人と決めてください。
第二に早期の弁護人選任です。勾留決定までの72時間の中で方針を固められるかどうかが分岐点になります。
第三に通訳の質です。捜査機関が指定する通訳人は捜査の場のために訳しますが、依頼者本人のために動く通訳は、制度の違いまで踏まえて誤解のない形で伝えます。
当事務所のご案内と解決事例
- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。
- 観光目的で来日した後に在留資格を失い、不法滞在で起訴された事案では、婚姻と認知を成立させ、有利な証拠を集め、1回の申請で在留特別許可を獲得しました。
- 過去の逮捕報道や前科に関する報道について、削除に成功した事案があります。法律上の効果とは別に、事実上残る記録が生活に影響することがあります。
松村大介弁護士が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。提携行政書士による在留資格サポートにより、刑事手続の後の申請までワンストップで対応します。
結語
本国での処罰歴は、渡航直前に発覚すると打つ手が限られます。しかし時間があれば、どの事由に該当しうるのか、上陸特別許可を求める余地があるのか、必要な資料は何かを順に組み立てることができます。心当たりのある方は、航空券を取る前にご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介。第一東京弁護士会所属、登録番号59077、2019年登録。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟です。最終更新:2026年8月。
舟渡国际法律事务所
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