舟渡国際法律事務所

退去強制事由と責任主義|故意・過失は要らないという実務にどう向き合うか

お問い合わせはこちら

退去強制事由と責任主義|故意・過失は要らないという実務にどう向き合うか

退去強制事由と責任主義|故意・過失は要らないという実務にどう向き合うか

2026/08/25

本記事の要点

  • 刑事罰は非難可能性を前提とします。しかし退去強制は行政処分であるため、責任主義は当然には及ばないというのが、これまでの実務の説明でした。
  • 入管法24条3号の4の不法就労助長は、行為に該当すれば足り、刑事処罰を受けたことを要件としません。知らなかったという事情が、条文上は正面から受け止められにくい構造です。
  • 当事務所は、生活基盤を全面的に失わせる処分について責任主義の射程がどこまで及ぶのかを問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
  • 実務では、故意・過失の不存在を主張するだけでなく、該当事実そのものがないことを争う道と、在留特別許可の裁量判断における有利事情として位置づける道を同時に用意します。

従業員の在留資格に問題があったことが後から判明した。知人に頼まれて仕事を紹介したところ、その人が資格外の就労をしていた。こうした事情で、思いもよらず退去強制の危機に立たされる方がいます。

刑事事件であれば、故意がなければ原則として処罰されません。ところが入管の手続では、知らなかったという主張が通りにくいと説明されることがあります。

刑罰と行政処分の違いという説明

刑法は、罪を犯す意思がない行為は原則として罰しないという立場を取ります。行為者を非難できるだけの主観的事情がなければ刑罰を科さない、という考え方が責任主義です。

これに対し、退去強制は刑罰ではありません。国が在留を認めるかどうかを判断する行政上の作用であり、制裁を科すものではない、という整理がなされてきました。これを前提にすると、退去強制事由に該当するかどうかは客観的な事実の有無で決まり、本人が知っていたか、注意を尽くしていたかは、少なくとも該当性の段階では問われないことになります。

しかし、退去強制がもたらす帰結は生活基盤の全面的な喪失です。刑罰ではないという法形式上の整理と、当事者が受ける不利益の実質との間には大きな隔たりがあります。当事務所が問題としてきたのは、この隔たりです。

不法就労助長という条項の構造

入管法24条3号の4は不法就労助長に関する退去強制事由です。重要なのは、この号が刑事処罰を受けたことを要件としていない点です。刑事事件として立件されず、有罪判決も受けていない方が、退去強制の対象となりうる構造になっています。

在留カードを見せてもらったが資格外活動許可の有無まで確認していなかった、就労時間の管理を現場に任せていた、名義上の雇用主ではないが実際に仕事を割り振っていた。刑事事件であれば故意の有無として正面から争える論点ですが、入管の手続では、まず客観的な行為の有無として整理されます。

だからこそ争い方の設計が重要です。当事務所では三つを同時並行で組み立てます。第一に、助長行為と評価される事実自体が存在しないことを、時系列と客観資料で示すこと。第二に、故意・過失が存在しないことを主張し、責任主義の射程という法的論点として提示すること。第三に、該当性が認められた場合に備え、在留特別許可の裁量判断における有利事情として、家族関係、生活状況、再発防止の体制を積み上げておくことです。

刑事手続はどう進むのか

逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ身柄を送致し、検察官は24時間以内に勾留請求の可否を判断します。この合計72時間で身柄拘束の枠組みが決まります。勾留は原則10日、延長で最大20日です。

この段階で決定的なのは、事実関係の把握が捜査機関の見立てに引きずられないようにすることです。取調べで曖昧に認めた一言が、後の入管手続でそのまま引用されます。

外国人事件に特有の入管上のリスク

24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者ですが、但書により刑の全部の執行を猶予された方は除かれ、一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除かれます。24条4号チは薬物関係の有罪で、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、4号リとは別枠です。24条4号の2は危険運転致死傷などの列挙、24条4号ロは不法残留、4号イは資格外活動の専従、4号ヘは資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた場合、4号ハは人身取引等です。

これらのうち、刑事処分を要件とする号と、行為のみで足りる号があることを見分けてください。24条3号の4は後者です。また退去強制まで至らない場面でも、入管法21条による在留期間更新の不許可、入管法22条の4による在留資格の取消しがあり、いずれも故意の有無だけでは説明しきれない構造を持っています。

不起訴処分の重要性

刑事事件として立件された場合、不起訴処分を得ることは入管手続における主張の土台を大きく変えます。有罪判決という確定した評価が存在しないこと自体が、その後の説明を容易にします。逆に有罪判決が出てしまうと、入管手続ではその認定を前提に議論が進みます。

検察官面談で捜査の見立てと反証の要点を伝えること、雇用管理の実態を示す客観資料を早期に提出すること、再発を防ぐ体制を具体的に提示すること。

初動対応の3つのポイント

第一に黙秘権です。何をどの順序で述べるかを弁護人と決めてから臨んでください。

第二に早期の弁護人選任です。勾留決定までの72時間に接見し、方針を固められるかどうかが分岐点です。

第三に通訳の質です。捜査機関が指定する通訳人は捜査の場のために訳しますが、依頼者本人のために動く通訳は、依頼者の意図と業界特有の言い回しまで含めて正確に伝えます。

当事務所のご案内と解決事例

  • 冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機にあった女性の事案です。退去強制事由に故意・過失は不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
  • ストーカー規制法4条1項に基づく文書警告をめぐる控訴事件(令和6年6月26日大阪高裁判決)を担当しました。警告の処分性という論点について、学術誌で多数の言及・検討がなされています。
  • 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。

松村大介弁護士が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。提携行政書士による在留資格サポートにより、刑事手続の後の在留手続までワンストップで対応します。

結語

知らなかったという主張は入管の手続では通らない。そう言われて諦めてしまう方がいます。しかし、その説明が本当にすべての場面で妥当するのかは、条文の構造と処分の実質に立ち返って検討すべき問題です。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

執筆者

弁護士 松村大介。第一東京弁護士会所属、登録番号59077、2019年登録。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟です。最終更新:2026年8月。

舟渡国际法律事务所
网站:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119

本記事の中国語版(简体字)はこちら

----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639


東京にて中国人の方をサポート

東京を中心に刑事事件の弁護

----------------------------------------------------------------------

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。