在留特別許可の考慮要素が法定化されたこと|入管法50条の読み方と申請のタイミング
2026/08/25
本記事の要点
- 入管法50条は、在留特別許可について申請権と考慮要素を条文の中に置いています。判断の枠組みが完全に運用の裏側にあるわけではありません。
- 50条2項により、収容令書により収容されている方と監理措置の決定を受けた方には申請権があります。他方、50条3項により、退去強制令書が発付された後は申請できません。
- 50条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、日本社会に及ぼす影響といった要素と、人道上の配慮の必要性などを勘案すべきものとしています。素行が明文化された以上、刑事処分の内容が審査に直接効きます。
- 50条1項の但書は無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者などについて加重要件を置いていますが、薬物関係の24条4号チはこの但書に列挙されていません。
- 50条10項により、不許可の場合は理由を付した書面で通知されます。
ご家族が退去強制手続に入ってしまった、あるいは刑事事件の判決を待つ間に在留期限が切れてしまった。そうした場面で、多くの方が最後の望みとして口にされるのが在留特別許可です。ただ、この制度は恩情に訴える手続だと誤解されていることが少なくありません。
在留特別許可は、法が定めた考慮要素に沿って資料で説得する手続です。何を、いつ、どの形で出すかで結果が変わります。
申請できる人と、窓口が閉じる瞬間
まず押さえるべきは50条2項です。収容令書により収容されている方、監理措置の決定を受けた方には申請権が認められています。
他方、50条3項は、退去強制令書が発付された後は申請できないことを定めています。手続が進み令書が出てしまえば、申請の窓口そのものが閉じます。違反調査、違反審査、口頭審理、異議の申出という流れのどの段階にいるのかを正確に把握し、令書発付の前に主張と資料を出し切る必要があります。
50条5項の考慮要素をどう資料に落とすか
- 家族関係は、婚姻の実体を示す資料が中心です。届出書類だけでなく、同居の実態、生計の共同、交際の経緯を示す資料を積み上げます。子がいる場合は、出生に関する資料、認知の有無、就学状況、日常の養育の実態が重要です。
- 素行は、刑事処分の内容そのものが評価対象です。不起訴処分か、罰金か、執行猶予付きの判決か、実刑か。処分後の生活状況と再発防止の体制もあわせて示します。
- 生活の状況は、在留期間の長さ、就労の継続性、納税や社会保険の履行、住居の安定など、生活基盤が日本にあることを示す客観資料で立証します。
- 人道上の配慮は、本国に帰った場合に家族が実際にどうなるのか、子の教育や医療がどう変わるのかを、想像ではなく具体的な事実で述べます。
刑事手続の流れと在留への接続
逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ身柄を送致し、検察官は24時間以内に勾留請求の可否を決めます。この合計72時間で身柄拘束の枠組みが定まります。勾留は原則10日、延長で最大20日となり、その終わりに起訴か不起訴かの判断が下ります。
この短い期間に得られた処分が、後の在留特別許可の審査で素行として評価されます。
外国人事件に特有の入管上のリスク
入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者ですが、但書により刑の全部の執行を猶予された方は除かれ、一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除かれます。24条4号チは薬物関係の有罪で、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、4号リとは別枠です。24条4号の2は危険運転致死傷などの列挙、24条3号の4の不法就労助長は行為のみで該当し刑事処罰を要しません。24条4号ロは不法残留、4号イは資格外活動の専従、4号ヘは資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた場合です。
ここで注意すべきは50条1項但書との関係です。但書は無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者などについて加重要件を置く一方、薬物関係の24条4号チは列挙されていません。4号チに該当することと、但書の加重要件が働くこととは別の話です。また入管法21条による在留期間更新の不許可、入管法22条の4による在留資格の取消しもあります。当事務所は、退去強制事由の該当性判断に故意・過失を要しないとされてきた実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重み
素行が正面から考慮される以上、刑事処分をどこで止められるかが決定的です。不起訴処分であれば、有罪判決を前提とする退去強制事由には立たず、素行の評価も大きく変わります。執行猶予判決なら在留が守られるという理解は、類型によっては成り立ちません。
検察官面談で事実関係と処分見込みを協議すること、被害者との示談を成立させること、争点を証拠に即して整理した意見書を出すこと、身元引受人と生活の受け皿を客観資料で示すこと。これらを勾留の残り日数から逆算して配置します。
初動対応の3つのポイント
黙秘権については、黙るかどうかではなく、どの範囲で何を述べるかを弁護人と決めることが本質です。
弁護人の選任は早いほど選択肢が広がります。勾留決定前の72時間に接見できるかどうかが分岐点です。
通訳については、捜査機関が指定する通訳人と、依頼者本人のために動く通訳の違いを理解してください。在留特別許可の資料作りでは家族関係や生活史を細やかに聞き取る必要があり、この差が資料の厚みに表れます。
当事務所のご案内と解決事例
- 観光目的で来日した後に在留資格を失い、不法滞在で起訴された事案です。刑事手続と並行して婚姻と認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど得られない状況下で有利な証拠を集め、1回の申請で在留特別許可を獲得しました。
- 特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案では、取調べ対応と主張立証を積み重ね、全件について不起訴処分を獲得しました。再逮捕が続く事案は身柄拘束が長期化し、在留期限との関係でも深刻になります。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、責任主義の射程を問う訴訟を上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました。
松村大介弁護士が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐し、接見と打合せに同行します。提携行政書士による在留資格サポートにより、刑事手続の後の申請まで切れ目なく対応します。
結語
在留特別許可は、気持ちを訴える手続ではなく、法が挙げた要素を資料で満たしていく手続です。そして申請の窓口は退去強制令書の発付とともに閉じます。時間が味方をしてくれる手続ではありません。いま手続のどの段階にいるのかを確認し、閉じる前に動いてください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介。第一東京弁護士会所属、登録番号59077、2019年登録。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟です。最終更新:2026年8月。
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